アイドルヨコチョウ2012

アイドルヨコチョウ第一部

○人情商店街
これといった名所が無く大手ディスカウントショップの進出で、街は年々と錆びれていった。
商店街の会長と副会長が二人話している。
「見てごらんこの有様」
シャッターが閉まっている店が目立つ。
「ここ数年で空家のテナント増えましたね」
「閉店するだけならまだしも、その後の借りてが見つからないってのどうゆう事?」
「この街に出店しても利益が見込めないのでしょう」
「ああ嘆かわしい。この商店街もかつては、人で歩けない程に賑わっていた時期もあったもんだ」
「存してます」
「人が集まる様にするにはどうしたらいいかね?」
「難しいですね。何もアイディアが出ません。会長いまからこの商店街で人気のたい焼きでも食べに出かけませんか?」
「こら。まだ話は終わってないと言うのに」
二人たいやき屋へ向かう。

○たい焼き屋
空家の目立つ商店街でそのたい焼き屋だけは活気があった。
女性店員の声がたい焼き屋で響く。
男性客がレジへ向かう。
「なっちゃん今日も可愛いね」
「ありがとう。そんなにおだてても何も出ませんよ」
「何にします?」
「クリーム一つ」
「毎度ありがとう御座います」
客店を去る。
会長と副会長が店に着くと店には行列が出来ている。
「君、なんでこの店は繁盛しているのかね。そんなに旨いのか?」
「いえ、味は対した事ないんですが店に来る人は、なっちゃん目当てで来てるのだと思います」
「なっちゃん?」
「ええ。このたい焼き屋の看板娘ですよ。彼女に会うと元気になれるんですよ」
「なるほど、ここに並ぶ人たちはその子目当てで並んでいるのか?」
「口外はしませんがみんな、なっちゃん目当てですよ」
「なるほど」
副会長、レジに向かい注文する。
「あー副会長さん、いらっしゃい今日は何にする?」
「なっちゃん今日も元気だね。クリームとあんこ一つずつ頂戴」
「まいど」
副会長、会長の待っている場所に向かう。
「会長、クリームとあんこどっちにします?」
「よし分かった」
「えっ何がですか?」
会長、夏がいるレジに向かう。
「いっらしゃいませ」
「君」
「はい。何に致しましょうか?」
「この商店街のアイドルになってくれ」
「えーーー」
「え。私がアイドルですか?」
「そうだ」
「無理ですよ。私人前に出るの苦手なんですよ」
「店長呼んで来てくれ」
「わかりました。店長ー」
店の奥から店長が出てくる。
「あー会長じゃないですか?どうしました」
「店長、私に夏君を渡して欲しい」
「どうしたんですか?夏は内の大事な看板娘です」
「店の補助金出すからさ」
会長、店長に耳打ちする。
「えっこんなに。分かりました。おーい夏」
「はい」
「今日からアイドルやってくれ」
「えー嫌ですよ」
「夏君頼む。この商店街の現状を見てくれ。空家のテナントばかりだ。おかげで、休日なのに人はまばらだ。
このままでは首を吊るしかない。頼むこの通りだ」
会長どけざをする。
「会長止めて下さい」
「副会長君もお願いして」
「なあなっちゃん頼むよ。君の魅力でこの商店街を盛り上げて欲しい」
「でもわたし」
「私はこの商店街の街と此処に暮す人々を愛している。夏君にも自分の居る場所を誇れる人間になってもらいたい」
「分かりました。」
「えっ?」
「わたしアイドルやります」
「そうか。やってくれるか夏君」
「やりましたね。会長」
「はい。まずは何からやるんですか?」
「そうだな。まずこの空いているテナントを利用して、ライブをしてもらう」
「ライブ?」
「そうだ。この商店街にこればアイドルのライブや活動ができる商店街にする計画だ」
「素晴らしいアイディアです」
「えー私歌も踊りも下手ですよ」
「そんな心配はいらない。既に専属の先生を呼んでいる。これからみっちりレッスンしてもらうからね。おーい先生」
先生と呼ばれた男現れる。
「貴方がなっちゃん、まあ可愛いらしい。食べてしまいたいわ」
「げっ」
「夏君、今日から君のレッスンの指導を担当する早乙女先生だ。先生は国際的に活躍するトップランナーだ」
「なっちゃん宜しくね」
「はい」
「声が小さい」
「宜しくおねがします」
「宜しい」
「一緒に頑張りましょう。まずなっちゃんには、人気アイドルの振り付けを真似して踊ってもらいます。
真似して踊るのは脳にとってもいいの。運動脳が発達して考え方とか人生観変わるわよ」
「はあ」
「じゃあ今日の顔合せはすんだし、この位にしましょう」
「先生お疲れさまです。これでこの商店街も安泰ですな」
夏一人取り残される。
「困った事になったな。私がアイドルか。でも最近の商店街お客さん少なくなったし街の皆も元気ないな。
それに自分の街が廃れていくの見るのは辛い。もし私の活動で商店街が元気になるならやってみようかな」

○たいやき屋
夏が店番をしている、お客が来た。
「なっちゃん聞いたよ」
「何がですか?」
「アイドルになるって話」
「えっみんな知ってるんですか?」
「知ってるよ。なっちゃんはこの商店街のスターだからね」
「恥ずかしいです」
「応援してるよ」
「ありがとうございます」
バイトが終わりレッスンに向かう夏。

○スタジオ
「なっちゃんおはよう」
「おはようございます」
「元気いいね。それじゃ、レッスンはじめるね」
「はい」
BGMが流れる。
ぎこちなく踊る夏。
「ストップ」
「だめでした?」
「だめ。全然だめ。なっちゃんお客さんは何を見にくると思う?」
「それは」
「笑顔よ」
「笑顔?」
「そう。あんたは踊りも歌も下手なんだからさ」
「そんな」
「ステージでなっちゃんが楽しそうに踊ると、それがお客さんに伝わるの。子供のお遊戯て下手でも訴えるものが
あるでしょ?子供のお遊戯って嘘がないから、だから大人に伝わるの」
「分かりました」
「いい?あなたの笑顔は素晴らしいわ。その微笑みをいつも絶やさないでね」
「本当ですか?」
「本当よ。人の気持ちを動かしたかったら、まず自分の気持ちを動かさないとね。分かった?」
「はい。頑張ります」
「じゃあリズムとる練習するね。歩きながら歌ってみて」
「はい」
レッスンを続ける夏。

○事務所
会長と副会長と夏が座っている。
「今日は何の打ち合わせですか?」
「夏君のデビューイベントも近いから、ライブをどんな感じにするか方向性を決めようと思ってね」
「会長、キャッチフレーズを考えましょうよ。今のアイドルはキャッチーな自己紹介は必要ですよ」
「そうだな」
「こんなの考えてみました。貴方のハートを大きな愛で掴んであげる。なっちゃんです」
「恥ずかしい」
「夏君はたい焼き屋で働いているから、その方向で考えてみよう」
「分かりました。タイヤキドルてどうでしょうか?」
「なんだね。タイヤキドルとは?」
「たい焼きを焼くアイドルだからタイヤキドルです」
「いいね」
「ちょっと、それ言うの私なんですよ。真剣に考えて下さい」
「真剣だよ。僕はね。商店街の事を思って一生懸命考えているのに」
「嘘泣きは止めて下さい」
「衣装の方はどうするのかね?」
「僕はなっちゃんには八十年代テイストでフリフリの衣装がいいと思います」
「私は夏君にはビニル素材の衣装がいいと思うのだがね」
「あのう」
「ん?」
「私この格好で歌っちゃ駄目ですか?」
「それってタイヤキ屋の制服じゃないか」
「ダメじゃないけど。どうかね?」
「私みんなにはありのまま姿を見て欲しいんです」
「そうかね」
「なっちゃんがそこまで言うならしょうがないですね」
夏の心の声
「よかった。このまま意見言わなかったら、会長と副会長の事だからとんでもない衣装考えるに違いないわ。
それならまだ、店の制服で歌う方が恥ずかしくないもの」
「夏君何か言ったかね?」
「いえ。ライブ頑張ります」

○デビューイベント
会長と副会長ライブの準備をしている。
「会長いよいよ今日ですね」
「ああそうだな」
「なっちゃんのデビューイベントが決まってから商店街に活気が黄泉がえったみたいです」
「そうだな。まるで祭りのようだ」
「なっちゃん、本当に毎日遅くまで稽古していましたね」
「流した汗と涙の量は見えないからな。それにしても人がエネルギーを使い汗をかく姿は美しいな」
「本当ですね」
デビューイベントがはじまる。
商店街の特設ステージに少しずつお客さんが集まり出す。
「会長お客さん沢山来てますね」
「ああ。身内ばかりだがね」
「君もそろそろ時間じゃないのかね」
「はい。着替えてきます」
法被に着替える副会長、特設にステージに向かう。
「えー皆様本日は大変お忙しい中大変恐縮ですが、我が商店街のスター井上夏ちゃんのデビューイベントにお越し頂きまして、本当にありがとう御座います」
「待ってました」
「なっちゃん」
「それではなっちゃんに登場して頂きましょう。皆さん温かい拍手でお願いします」
拍手が鳴り響く。
「みんなのハートを焼いちゃうぞ。タイヤキドルこと井上夏です」
「なっちゃん可愛い」
「ありがとう。それでは皆さん盛り上がっていきましょう」
BGMが流れる。
1曲目が終わり、2曲目に以降中に会場の酔っぱらいが叫ぶ。
「こんなイベント止めちまえ。耳障りだ」
「副会長」
「はい」
副会長、酔っぱらいを追い出しに向かう。
「待ってください。おじさん耳障りだったならごめんなさい。今日のイベントの為に私毎日レッスンしてきました
町内会のみんなも私の為に宣伝してくれたり、ポスター作ってくれたりしました。今日まで私の努力とみんな頑張りを無駄にはしたくありません。
だから私歌うのやめません」
拍手をするダンスの先生。
拍手につられ見ていた客も拍手をする。
「みんなありがとう」
やじを言った男呆然と立ち尽くす。
「それでは皆さん続けて聞いて下さい」
ライブが終わり、夏の周りには人だかりが出来る。
「なっちゃん良かったよ」
「ありがとうございます」
夏に話し終えた客たちは帰り会場にはスタッフと先ほど喚いた男が残る。
夏に近づく男。
周りのスタッフ夏を守ろうとする。
「さっきはすまんかった」
「えっ?」
「あんたのパフォーマンス最後までみたよ。良かった久しぶりに涙が出たよ」
「ありがとうございます」
「わしは町内の人間からつまはじきにされて寂しかった。楽しそうな人間が羨ましかった。妬ましかった。
だからつい八つ当たりしてしまった。本当にすまない」
「気にしないでください」
「いや。あんたの頑張りを知らずについ無神経な事を言ってしまった。許してくれ」
「許しますよ」
「おお。許してくれるのか?」
「誰だって人に冷たくされたら悲しいです」
「すまんかった」
「わたし思うんです。人って誰かに愛されたり必要だと深く感じた時に輝くんですよ。だから一緒に輝きましょう」
「うん。ありがとう」
■一部終了
劇団小田Qガールズ
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