日々をキリバリ

第一章( 2 / 2 )

春ゆえに

4月某日

 

最近、道行く女性が可愛く見える。 10人道を歩いていたら4人は可愛いのだ。

 

では、残りの6人はどうかというとおばあさんや童女であり、 単純に年齢対象外であった。

もちろん6人の中にはブクブク太ったおばさんとかもいて、年齢はともかくそれはちょっと・・・私も将来のある身なんでスイマセンなのだった。

 

しかしまぁ、対象外の女性はいるものの4割は大きい気がする。

 

 100人いたら40人は私の好みなのであって、1000人なら400人。 日本全体で考えると2.3千万人となる計算だ。

そしてなんと世界規模で考えると・・・。 え~と・・・計算が面倒になってきたな・・・う~ん。 と、こんな具合に頭を悩ませるほど、たくさんいることになる。

 

なんということだ! しばらく仕事で悩んでいた間に世界には美女しかいなくなってしまった。

 

 仕事で悩んでないでもっと世間に目を向けてナンパにいそしめばよかった、と歯噛みして悔しがったかと言えばそんなことはなく、私はもしかしたら下劣な人間に成り下がってしまったのではないか、と地面にめり込むほど落ち込んだ。

 

なぜなら、私は幼少の頃より、おばあ様に 「年頃の女性に接するときには自分の姉、もしくは妹に接するときのような気持ちでなければなりません。 やましい気持ちをもつなどは下の下であり、紳士としてあるまじきことです」 と、教育されてきたからだ。

 その私が「道行く4割の女性が好みだぜ。これなら相手選ばず誰でもいける」とか言って喜んでいる場合ではないんである。

 

もし、そんなことを私が思っていることがバレたら、おばあ様はショックで棺桶に片足を突っ込んでしまうかもしれず、私が池袋駅で3時間もかけてナンパを繰り返し、なおかつ誰もひっかけることができなかったという悲しい事実を知ったら、天国への階段を駆け足で登っていくかもしれない。

 

おばあ様のためにも、身の回りの女性が可愛くなった謎を究明しなければならない。

 

女性がめっきり可愛くなった謎を解明するためにパッと思いつく方法は以下の3点である。

 

1.街頭インタビューを決行する

道行く女性を捕まえて「あなたの可愛さの秘訣は何ですか?」と訪ねて回る。 この際、インタビューをするだけではなく、メールアドレス・電話番号・住所、そして連絡のとりやすい時間帯を聞く。

 

2.yahoo知恵袋に投稿する

困った時は知恵袋。 ぜんぜん関係ないけど、学校でカンニングはダメなのに将来は「仕事は見て盗め」と言われる。

 

3.「日本女性の美しさ研究・推進委員会」に問い合わせてみる

きっと謎はとけるだろう。 ただし、この委員会はフィクションであり、実在の個人名・団体名はすべて架空のものです。

 

その他、色々と思いつくことはあるがどれもいまいちである。 まぁ、そんなにガチに対応することなく、同僚の女性に聞いてみればいいだろう。

 

そこで私は同期である南女史を捕まえて、世間話のついでにそれとなく探りを入れることにした。

 

「最近さ、女の子が可愛く見えるんだけど、なんでだろう?」

そう言って南を呼び止めたのだが、この上なく直球になってしまい大変遺憾であった。

 

南は表情を変えず立ち止まったが、それは彼女が日ごろから表情に乏しいためで、何を考えているか分からない。 いきなり呼び止められて、くだらないことを聞かれたら、良い気持ちはしないだろうと思うが、どうだろう?

 

もっとも、南がどう感じようが、事態は動き出しているのであって、誰にも止めることはできない。

南にとっては何一つ実りのある会話ではないのだが、その辺はもう南の度量の深さにかけるしかないのだった。

 

南は少しの間、ぼんやりと立っていたのだが「もしかして・・・」と口を開いた。 「もしかしてマツリさんはアホなんですか?」

 

「マツリさんは、アホなんですか?」 と、南に言われた私は出鼻をくじかれた形になり、少し気落ちした。

 

「・・・南よ、思ったことを口に出さなければ、世界は平和なんだぞ」

私はかなり遠回りしながら南をとがめたのだが、彼女は「それは、失礼しました」とか言って、わざと明後日のほうを向いた。

 

・・・コイツ悪いと思っていないな。 さすが私の同期だけあって、私に対してちっとも敬意を持っていないのだった。 人間関係において相手に敬意を払うということは、基本であると共に極意だというのに、まったく。

 

「まぁいいけど・・・それで、話を戻すけどさ。最近、道行く女性が可愛く見えるんだよ。これはどういうことなんだろう?」

 

 「まだ、そんなこと言ってるんですか・・・しつこいですよ」

 

 「まだ言うだろうよ、解決していないんだから」

 

南は「チェッ、めんどくせーな」と若干本性を出しつつも、考えてくれたようで、 「たぶん、ファッションのせいですよ」 と、言った。

 

「ファッション?」

 

 「最近はモコモコした服が流行っているから、全体的な雰囲気が可愛く見えるんですよ。服の色合いも淡いものが多いですし、そのせいかと思います。・・・たぶん、ですが」

 

 「本当か? じゃあ、俺が盛っているわけじゃないんだな」

 

 「 盛ってはいるんでしょうけど、それを助長させているのが、ファッションなんですよ、きっと。暖かくなってきて、露出も増えてきてるからそういうのも関係あるのかも」

 

ほほう、なるほど鋭い意見だ。 ファッションとは盲点だった。

 

そういえば、私は目が悪いので、誰かを判断するときには細部ではなく全体の雰囲気やシルエットで判断している。だから、けっこうなブスを可愛いと言ったり、髪の短い女の子を男と間違えて泣かしてしまったり、たまにそういうことがあるのだった。

 

雰囲気の変化でエラーを起こすことは十分に考えられる。

 

「きっとそうだよ! ファッションだったんだ。ありがとう南」 と、私が言うと南はギクシャクした動きでガッツポーズをとっていた。

 褒められたから、喜びを表現しているのだろうが、動きが堅いためにマリオネットのような、とってつけたような動きに見えて、不気味なガッツポーズである。

 

南の運動ができないという一面を見た瞬間だった。

 割と無愛想な彼女が妙な動きをしていると、シュールな世界観に見舞われ問答無用で笑いがこみあげてくるのだが、ここで笑ってしまうと失礼だろうと思って、静かに心の中で般若心境を唱えて「南よ、ギクシャクした動きのままひた走れ」とエールを送った。

 

まぁ、それにしてもファッションは考えなかったなぁ。そこら辺が女性と男性の感覚の違いなのかもしれない。 やっぱり聞いてよかったような気がして、満足感がある。

 

職場の女性を見慣れてきたために、道行く女性が可愛く見えるのかもしれない、という疑惑もあったのだが、それは心に秘めておくことにする。

 

こういう思いはかなり危険であるために、鍵のかかる箱に入れて押し入れにしまっておくのがよいだろう。 押し入れにしまった後はすっかり忘れてしまって、必要なときに出してみることにしよう。

三条祭
作家:三条祭
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