義足のゴール

 

 女の子は肌のことを一番気にするから、お嬢様はサッカーやらないと思う。直子は結論を言った。理子は大きく頷いた。理子は女でありながらこのことに気づかなかった自分が恥ずかしくなった。足にはあざがたくさんあり、額にも傷があった。ボールを奪い合うとき足と足がぶつかり合う。ヘディングするとき額に激しい衝撃がある。こんなことは当然でありこれがサッカーなのだがお嬢様には耐えられないことだとわかった。

 理子は愕然となり創部の夢の炎は小さくなってしまった。しばらく、黙っていると直子がポツリとつぶやいた。「部員第一号がここにいるど」人差し指で自分を指差した。まったくサッカーのことがわかっていない直子に少しむかついたが、そこはぐっと怒りをこらえて優しく答えた。「気持ちだけでいいよ。骨折されたら困るから」直子は華奢で格闘技のようなサッカーをやれる筋肉がまったく無かった。すると能天気の笑顔で「え~・・じゃ~マネージャーはどう?」と追い討ちをかけてきた。

 理子の本音は直子にサッカーにかかわってほしくなかったが、今の孤立無援の立場では猫の手でもかりたかった。「そいじゃ、マネージャー頼むよ」直子を頭数にいれた。二人は今後の活動について話し合ったが、理子の心は沈む一方であった。直子は打開策として理解しがたい提案をした。それはサッカー部を止めて同好会にしようと言い出した。つまり、部活の合間に適当に参加してもらうと言うわけだ。練習時間も内容も曜日も服装も自由と言うことにして、一から理子が手取り足取り教えることを提案した。

 

 これは頭痛の理子の頭をハンマーで殴るようなものだった。あまりのショックにスタバを飛び出してしまった。家に戻るとベッドに飛び込みじっと目を閉じた。しばらくすると涙が流れてきた。馬鹿でわがままな自分が情けなくて死にたくなった。両親にいまさら学校を辞めたいとは言えるはずもなく、かといって元気よく学校に行く気持ちにもなれなかった。多額の寄付金を支払ってくれた両親にサッカー部のことをどのように話せばいいのか考えると、家出したくなってしまった。

 涙は止まらなかった。たんかをきって入った高校であったが一ヶ月もしないうちに挫折してしまった。今すぐにでも電車に飛び込みたい衝動に駆られたが、健太に今から死にますとメールした。机の上に“ごめんなさい”と書いたメモを置くとサッカーボールをはさみで突き刺し駅に向かった。猪突猛進で短気な理子は小学生のころからよく家出をした。そのたびに兄の誠人と健太が探して連れ戻した。涙しながら歩いている理子の携帯から“会いたかった”の着メロがなった。

 着信音には気づいていたが足を止めなかった。赤坂駅のホームで最初の電車を見たとき腰を抜かしベンチに腰を落とした。自分の愚かさに改めて気づくと、もはや立つ気力も失ってしまった。ただぼんやりと人の流れが目に入り電車の音が静かに耳に入ってきた。今すぐ心臓が止まれ、と神様にお願いした。ゆっくりと目を閉じて両手を合わせた。

 

 突然、頭に雷が落ちた。「キャ~」悲鳴を上げると往来していた周りの人たちが振り向いた。上を向くと頭の上には拳を握った健太がいた。一瞬笑顔を見せると左手に持っていたソフトクリームを理子の口に当てた。健太に手をひかれ家路に向かう理子は涙しながら直子の提案を話した。健太はしばらく黙って頷いていた。直子の提案に感心したからだ。理子は直子と違った打開策を期待していたが、健太は直子の提案に賛成した。

 翌日、同好会のポスターを掲示板に貼ると、放課後理子と直子はサッカーグランドに立っていた。サッカーの遊びにやってくるお嬢さんたちを相手するためだ。理子はゴールキーパー、直子はゴール前にボールをセットする。直子が手持ち無沙汰にしていると、第一号が現れた。帰宅部のお嬢三人が冷やかしにやってきた。直子がセットしたボールをジーパンの学生がケラケラ笑いながら転がすように蹴った。理子が拾うようにしてボールをキャッチすると直子にボールを転がして返した。

 三人は二人を交互に見ては笑い立ち去っていった。理子も立ち去りたかったがきっとうまく行くと健太に励まされたことを思い出し、もうしばらく我慢することにした。やけくそになった理子がしこを踏んでいると、少し太り気味の筋肉もりもりの学生がやってきた。直子がボールをセットすると「いくで~」と大きな声を張り上げて助走をつけて思いっきり蹴った。ボールはゴールを外したがライナーのボールはバックのフェンスに突き刺さった。

 

 

 

 「ワオ~」理子もこのボールには目をむいた。巨漢の彼女は砲丸投げの選手だった。直子はすぐに駆け寄り明日も遊びに来てくれるように頼んだ。巨漢はニコッと笑うと「ええで」と言って仲間のところに戻った。理子はうれしくなってジャンプした。巨漢がたとえ同好会に入ってくれなくても自分よりパワフルなシュートをした彼女に会えたことを喜んだ。きっと、健太はこのことを言っていたに違いないと確信した。いつか仲間ができる、そんな気持ちが次第にわいてきた。

 二人はとにかくサッカー遊びを続けることにした。一日に数人のときもあったがまったく誰一人現れないときもあった。しょげる理子を見ると直子はきっと仲間ができるよと励ました。両親にはサッカー部創設はうまく言っていると嘘を突き通した。6月にはいると二人は行き詰まりを感じ始めた。そんな時、九州スポーツ振興協会主催の海外研修旅行無料招待の応募が掲示板に貼られていた。協賛に中洲女学院高等学校が参入していた。招待人員男女各4名。場所はカンボジアのシェムリアップで、日程は8月5日から18日までの2週間。内、3日間はホームステイとあった。締め切りは6月10日と迫っていた。早速、理子は応募した。

サーファーヒカル
作家:春日信彦
義足のゴール
0
  • 0円
  • ダウンロード

5 / 15

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント