義足のゴール

 体育祭では各競技の優勝者に報奨金が支払われ、文化祭では文化人、芸能人、有名選手を招き、これをテレビ局に放映させた。これらには多額のお金がかかるがすべて父母たちによる寄付金でまかなわれていた。このやり方は学校を全国的に有名にしたが、子供たちを金儲けの道具にするようなこんな学校には通わせたくなかった。

 この高校は芸能人、プロテニス選手、プロゴルファー、オリンピック選手など多くの有名人を輩出してきたが、結果主義のやり方は退学者や自殺者までも出していた。この影の部分は表に出ないように学校側がお金でもみ消してきた。理子もこれらのやり方に賛成しているわけではなかったが、日本一のサッカー部の創設にはこの高校しかないと考えていた。

 理由は二つあった。一つ目は優秀なアスリートがたくさん在籍していること。二つ目は多額の遠征費を出してくれる父母がいること。この二つを満たす高校は中洲女学院しかなかった。だが、あまりにも創部の夢を追い求めていたため、なぜこの高校にサッカー部が無いかを深く考えていなかった。この高校にはサッカー部、柔道部、剣道部、空手部が無い。

 各学年は、50名の普通クラスA,B,C,D4クラス、50名の成績特進クラスRS50名のスポーツ特進クラスSSからなっている。理子は一年Aクラスである。確かにお嬢様高校ではあるが全国から優秀な人材を集めている。しかも金持が多い。ここの学生は医者、弁護士、裁判官、検事、パチンコ店社長、一部上場会社の重役、衆議院議員、参議院議員、閣僚、知事、芸能人、プロスポーツ選手などの子供たちがたくさん在籍している。

 理子は新学期が始まると創部のためのポスターを掲示板に貼ったが、誰一人ポスターに見入った学生はいなかった。昼休みの度にしばらく掲示板から離れて様子を伺っていたが、数人の学生が一瞥しただけでほとんどの学生は素通りであった。教室に戻った理子は一人うつむいて目を閉じた。授業中の先生の声は消え去り、この学校にサッカー部が無い理由についてじっくりと考える日々が続いた。ほとんどの部活があるのになぜサッカー部は無いのか?

 家に帰るとベッドの中で一晩中考え続けたがどうしても理由がわからなかった。理子は5歳のときから兄、誠人と一緒にFC福岡でサッカーを楽しんできた。また、サッカーは誰でも楽しめるスポーツと思い込んでいた。だから、サッカー部の部員は簡単に集まるものと安易に考えていた。ところが、サッカーの話題をする学生は誰一人いなかった。歌手、アニメ、ドラマ、スケート、化粧、旅行、バイト、彼氏のことなどありふれたガールズトークは耳にするが、なでしこジャパン、ワールドカップ、Jリーグの話をする学生はいなかった。

 散々悩んだあげく4歳上のFC福岡の先輩健太に相談することにした。彼は福岡体育大学2回生でサッカー部のゴールキーパーをしている。週に1回FC福岡のコーチにやってくる。FC福岡はJリーガーを輩出している名門クラブである。小学生の選手は彼が大好きである。いつも笑顔で指導するからだ。理子がクラブに入って最初に仲良くなった先輩でもあった。早速メールで悩みを送信した。

 すぐに返信が来た。相談する相手を間違っている。男にわかるはずが無い。女友達に相談したほうがいいんじゃないか。このようなメール内容だった。理子もうかつだった。確かに的を射ていた。クラスで一番仲のいい直子に相談することにした。メールで相談しようかとも思ったが、やはりじっくり本音を聞きたい気持ちが強くなり、日曜日にスタバで相談することにした。

 直子は文学少女だった。とてもおしゃべりで愉快ではあるが、しゃべりすぎが災いしている。最初の数学Aの授業でうるさいとおじじ先生に怒鳴られた。中3の模擬試験で熊高の合格判定はAであったらしいが、なぜか私立のお嬢様高校に入学した。熊本の天草出身で、真珠の養殖をしている資産家の三女である。クラスはRSで入学式のとき理子に声をかけられた。お互い高校での最初の友達となった。

 いつものスタバで待っていると直子がやってきた。二人ともモカのコーヒーが大好きだった。話し始めると2時間はしゃべっていた。早速、単刀直入に悩みを打ち明けると直子はしばらく黙っていたが、自分のサッカーへの気持ちを話し始めた。サッカーはやったことが無いしやりたいとも思わない。女のやるスポーツにしては過激すぎる。きっと足にあざができるし額が傷だらけになると思う。このようなことを直子は小さな声で答えた。

 

 女の子は肌のことを一番気にするから、お嬢様はサッカーやらないと思う。直子は結論を言った。理子は大きく頷いた。理子は女でありながらこのことに気づかなかった自分が恥ずかしくなった。足にはあざがたくさんあり、額にも傷があった。ボールを奪い合うとき足と足がぶつかり合う。ヘディングするとき額に激しい衝撃がある。こんなことは当然でありこれがサッカーなのだがお嬢様には耐えられないことだとわかった。

 理子は愕然となり創部の夢の炎は小さくなってしまった。しばらく、黙っていると直子がポツリとつぶやいた。「部員第一号がここにいるど」人差し指で自分を指差した。まったくサッカーのことがわかっていない直子に少しむかついたが、そこはぐっと怒りをこらえて優しく答えた。「気持ちだけでいいよ。骨折されたら困るから」直子は華奢で格闘技のようなサッカーをやれる筋肉がまったく無かった。すると能天気の笑顔で「え~・・じゃ~マネージャーはどう?」と追い討ちをかけてきた。

 理子の本音は直子にサッカーにかかわってほしくなかったが、今の孤立無援の立場では猫の手でもかりたかった。「そいじゃ、マネージャー頼むよ」直子を頭数にいれた。二人は今後の活動について話し合ったが、理子の心は沈む一方であった。直子は打開策として理解しがたい提案をした。それはサッカー部を止めて同好会にしようと言い出した。つまり、部活の合間に適当に参加してもらうと言うわけだ。練習時間も内容も曜日も服装も自由と言うことにして、一から理子が手取り足取り教えることを提案した。

サーファーヒカル
作家:春日信彦
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