義足のゴール

 

今回は、置手紙は書かず、健太にもメールせず、一人で西海橋に行く決心をした。明日決行することにした。その夜、母親が部屋にやってきた。健太からの伝言を伝えるためだ。内容は次のようなことだった。明日、いつものようにFC福岡小学生チームと同好会チームの試合をするから見に来てほしい。理子と会えるのはこれが最後だ。理子は悩んだが結局行くことにした。理子も最後にしたかったからだ。

理子はキックオフ開始時間に遅れたが、母親に押されて車椅子でグランドに着いた。グランドではいつものメンバーがボールを追いかけていた。いつもは得点が取れない同好会であったが今日に限って3点も取っていた。20分ハーフの試合は同点でPK戦になった。PK戦も互角で小学生チームが一本外した。同好会が最後に決めれば初めての勝利となる。理子はぼんやり眺めていた。

同好会の5番目の選手が立ち上がったとき健太はストップをかけた。そして、すばやく理子のところに駆け寄ってきた。「理子、別れのボールを蹴ってくれ」健太はお願いした。理子はゆっくり頷いた。理子は義足をつけると恐る恐るゆっくりとグランドに入ってきた。ボールの前に立つと目の前にはゴールキーパーの健太が大きく手を広げて待ち構えていた。「よし、さあ、来い」と健太は気合を入れた。

 
 

理子は義足を大きく後ろに引くと健太に目がけてボールを運ぶように蹴った。ボールはゆっくりと転がり健太の手元まで転がった。健太は拾い上げるようにボールをしっかり抱きしめて「よし」とつぶやいた。そして、「大好きだ!」と大きな声で叫ぶとゴールに倒れた。その瞬間、大きな爆音が鳴り響いた。あの時の地雷の音にも負けない小さな勇気に対するみんなの拍手だった。

初めて試合に勝ったときの拍手がよみがえってきた。そして、ボールを追いかけている子供のころの自分の姿が頭の中を駆け巡った。健太がプレゼントしたスニーカーを履いた義足はひとりでに歩き始めていた。しっかりボールを抱きしめ倒れた健太のところまで歩いていくと「この足で生きていくよ」と義足で健太を蹴った。そのとき、健太は死ぬまで理子の義足になることを決意した。

3ヵ月後、学校を辞めた理子と健太はカンボジアに旅立った。理子の左手薬指には健太手作りの婚約指輪が輝いていた。

春日信彦
作家:春日信彦
義足のゴール
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