梨太郎

濡ヶ岳へ( 1 / 1 )

 ついに助六が登山愛好会に入って初めての登山の日がやってきた。初秋とは思えないほどの日差しが窓枠を明るく照らした。すずえはいつものようにお茶を入れ、どこか遠いところを見つめながら物憂げに湯飲みを口に運んだ。梨の自生する数少ない山、濡ヶ岳に助六を連れて行くのだと思うとすずえは高鳴る鼓動を抑え切れなかった。心臓の音が助六に聞こえはしないかと思うほどだった。すずえはずっとこの日を待っていた。何せ助六と松平が共に動く数少ない機会だったのだから。 

 松平は登山愛好会の古くからのメンバーで、近所に住んでいることもあり助六やすずえとも面識があった。松平は独身で年寄りにしては元気で豪快な性格をしていた。甘い顔と巧みな話術を兼ね備えており常に周りには女をはべらしている。そんな男だった。登山愛好会の女性の間でも人気で、女性陣は常に松平の横をキープしようと必死だった。

 すずえはそんな松平と不倫関係にあった。きっかけはささいなことだった。松平が助六と梨の話をしにきた時に始めて出会ったのだ。それ以来、二人はなるべく二人だけの時間を作るように努力をした。助六に怪しまれないように。 「二人で今度海外に行ってアルプス系の山に登ろう。」 松平からそう言われた時、すずえは完全に一人の少女に戻っていた。いつかはこの人と。すずえはそんなことも考えたりしていた。しかしある日、すずえは見てはいけないものを見てしまったのだ。一緒にアルプス系の山に登ろうと約束したはずの松平が他の女と登山していたのだ。あの時のあの約束は?私は遊びだったの?・・・色々な思いが交錯した。そして傷ついた乙女心はある一つのささいなし返しを思いついた。もともと一途に助六を思い続けてきたすずえだが、あまりに女としてみてくれない助六への不満もあり松平と関係を持ってしまった。だから助六にも悪いところはある。すずえはそうも考えていた。助六と松平を同時に困らせてやりたい。そんなことを考えていた。そしてすずえはその仕返しの場を今回の濡ヶ岳に選んだのだ。

  登山の準備を済ませ二人は電車に乗った。濡ヶ岳までは電車を乗り継いで14駅。家から1時間30分と決して近くない距離にあった。濡ヶ岳のふもとに現地集合というアバウトな待ち合わせに遅れないように二人は歩を進めた。

 ふもとに着くと愛好会のメンバーが既に何人か集まっていた。すずえはつかさずあたりを見回した。いた!松平だ!やはり来ていた。すずえの読みはずばり的中した。しかし助六の前で露骨に態度に出すと助六が気を悪くする。すずえは松平へかける言葉を慎重に選んだ。

「あら松平さん!お久しぶりね!いらっしゃってたのね。」

「あぁ、普段はあまり参加しないんだけど今回は濡ヶ岳だし、参加しないわけにはいかないだろう?違うか?俺が何か間違えたこと言っているかい?」

「いいえ~何一つ間違いなんてないわ!」

「それにしてもすずえ、いや、すずえさんこそ登山なんて珍しいね。何で参加してるんだい?」

「いやそれはうちの助六さんが登山愛好会に入ったからなんです。今回が記念すべき初登山で。」

「そぉ~でしたか!よろしく、助六さん。」 そう言うと松平は助六に握手を求めた。

「よろしく。」

差し出された松平の手を握り返した。 しかし助六は松平のことを前から苦手としていた。自分とは性格が間逆だし、女を常に連れている松平に好感なんか持てるわけないと思っていた。何より一番は自分より梨好きの可能性があったからだ。知り合った当初はお互い梨好きということもあり馬があっていた。しかし一度梨のことで口論となりそれ以来微妙に気まずい関係が続いている。けど今日の山は梨が多く実っているらしい。複雑な心境の中登山することとなった。

「みなさん準備はいいですか?では出発しますよ~。くれぐれもはぐれないようにしてくださいね!」

山根が二十数名のメンバーに告げた。いよいよ濡ヶ岳への登山が始まった。

梨で即死( 1 / 1 )

 濡ヶ岳は登山初心者から上級者まで様々な登山客に人気の山で、そのレベルに合わせた登山コースがいくつか用意されている。今回は一番簡単なコースが選ばれた。全員が高齢。当然の選択だった。

 山に入りしばらくは皆と歩調を合わせ歩いていたすずえだったが、先日助六と登った時に痛めた左足のふくらはぎにまた違和感を覚え始めていた。肉離れかもしれない。すずえは言うことを聞かない左足にムチを打ちながら登山を続けた。しかしやはりペースを合わせて登ることが苦しくなっていき、気づけば列の最後尾になっていた。そんなすずえを気遣う助六とその横にはさりげなく松平の姿もあった。松平はごく自然に振舞い、特に意識していないようだったが助六の胸中は穏やかではなかった。またこいつか。そんな思いに駆られていた。

 助六は二人の関係が怪しいと密かに睨んでいた。助六が外出から帰ってくると松平が家にあがっていることがしばしばあった。松平は助六と梨の話がしたくて帰宅を待っていたと毎回言っていた。そんなに梨の話がしたいものか。梨の情報なんてそんなに頻繁に更新されないし、新種もなかなかでない。何を話したいのかと毎回疑問に思っていた。しかしひとたび話し始めると何故か異様に盛り上がった。松平への警戒心は強くなる一方で、梨に対する思い入れも日に日に強くなっていった。

「すずえさん大丈夫かい?何か足が痛そうだけど、大丈夫かい?足が痛そうだけども。」

「だ、大丈夫よ松平さん。ありがとう。もう少しでお昼休憩になりそうだし、頑張るわ!」

「そうかい。あまり無理はしないようにね。何かあればすぐ言ってくれよ!」

「ありがとうございます。」 いちいちうっとしいことを言うやつだと思った。明らかに聞こえる距離で、しかも夫の前で。助六にも夫の意地があった。

「すずえ大丈夫か?いけるか?」

「・・・」

 無視である。すずえは助六の言葉なんて聞こえていないかのようにもくもくと登山している。多分思った以上に声が小さかったのだと自分に言い聞かして助六も山に登り続けた。

 先頭とはだいぶ離れてしまった。しかし3人で一緒に行動している限り心配はされないし、すずえにとっては好都合だった。するとぽつぽつと梨の木が生えてきているのに気づいた。次の道を右にいけば梨の木が大量に生えているエリアにいけるはずだった。梨の楽園。地元の人たちは上手いこと言ってそう呼んでいた。

「すずえさん、助六さん、梨の木がみえてきましたね!ついにお楽しみの時間ですよ!」

「本当だ!噂は本当だったんだ!梨だ!また梨だ!すずえ!」

「そこの道を右にいけばもっとたくさんあるらしいですよ」

すずえが二人を導くようにそう告げた。

 「少しぐらい寄り道をしてもいいでしょう。こっちは3人で行動しているわけだし。どうです?助六さん。行ってみませんか?」

「ええ!行きましょう!」

二人は完全に興奮状態だ。微妙に気まずいことなどどこ吹く風状態だ。すずえは後を追った。すずえの脈拍は明らかに速さを増していた。

「すごい!すごい梨だ!楽園だ!」

「こりゃすごい!まさに楽園だ!楽園だ!」

松平に続いて助六も声を上げた。二人は我れを忘れて梨に夢中だ。二人にしばらく思い思いの時間を過ごさせた後、意を決してすずえは言った。

「助六さん、松平さんちょっとちょっと~。」

 間もなく二人がすずえのもとにやってきた。

 「なんだい?すずえ。梨を見ていたのに。」

すずえはおもむろに松平の腰に手を回し、ぐっと寄り添った。

「実はわたし、松平さんとできてるの!できちゃってるの!」

「す、すずえさん!なんて事を言うんだ!違う、違うんだ助六さん!」

「違うことないじゃない。幾度も登山プランを一緒に練ったじゃない!忘れたとは言わせない!」

松平は明らかに狼狽していた。その様子は助六にもわかった。

「おい松平本当なのか!?お前はやっぱりそうだったか!この野郎!」

助六は松平の胸ぐらを掴んだ。そして激しく詰め寄った。

 「何回だ!?何回登山プランを立てたんだ!?」

「2回だ。」

「2回もか!俺のいないところでぬけぬけと!許すわけにいかん!」

二人は激しくもみあっていた。それはすずえが想像したものよりはるかに激しいものだった。それゆえすずえはだいぶ驚いていた。

 次の瞬間だった。助六が激しく突き飛ばした時、松平が大きく後方に転倒し落ちていた梨に頭をぶつけたのだ。鈍い音がした。まさか。我にかえった助六とすずえは松平に駆け寄った。即死だった。

「やってしまった。殺す気はなかったんだ!」

「早く埋めましょ!みんなが来るとまずいわ!」

二人は必死で松平の遺体を埋めた。そして何食わぬ顔で少し上で既に休憩をしているだろうメンバーの元に合流しようとした。しかし何か様子がおかしい。上で騒ぎが起きている。なぜだ!?まだばれているはずがない! 休憩所近くの展望台付近で人だかりができていた。助六とすずえはどうやって怪しまれずに合流するかを必死に考え、一番心配していた。しかしその騒ぎのお陰で自然に合流できた。そしてその人だかりの中に山根を見つけた。

 「何があったんだい!?」

「梨太郎、梨太郎が!!」

濡島警察の穂瀬刑事( 1 / 1 )

「梨太郎がどうしたんだ!」

  松平の事でまだ動揺していた助六がよそよそしく尋ねた。山根は何も言わず皆が見下ろしている切り立った斜面のほうを指差した。山の頂上付近にあるこの休憩所はその高度もさることながら特有の粘土質の地層がむき出しになっていることで有名だった。特に雨上がりの休憩所はかなり滑りやすく、何度もそこに来ている人ですら滑らないように注意して休憩するほどだった。 パニックに陥ったりすすり泣いたりしている愛好会のメンバーをかき分けながら助六とすずえも自分たちの足元に広がる風景に目をやった。確かに人のような形をしたものがかすかに確認できた。

「一体何があったんですか?あれは本当に梨太郎さんなんですか?」

すずえがうつむく山根に尋ねた。しかし山根は何も言おうとはしなかった。その様子をみた別のメンバーが口を開いた。

「梨太、梨太郎さんはそこの木になっていた梨を珍しがって採ろうとしたの。そしたら。」

話すのがやっとという状態だった。話し終えるとわっと泣き出した。要するに梨太郎はここでは別に珍しくも何ともない梨に興奮してしまい、危険をかえりみず採取しようとした結果足を滑らし崖から転落した。ということだ。

 それから間もなくして警察が到着し現場はものものしい雰囲気に包まれた。現場検証も行われ転落の様子を見ていたメンバーの話と現場に足を滑らした跡や梨太郎の手に梨が握られてたことなどが一致し普通の転落死と断定された。メンバーは梨太郎の68歳という早すぎる死を悼んだ。

 しかし助六とすずえにとっては好都合もいいとこだった。梨太郎の死によって松平がいなくなっていることに誰も気づかなかったのだから。事件発覚が遅れることは多分いいことなんだと助六とすずえは思っていた。しらを切り続けていればきっと逃げ切れる。二人は時効と寿命どちらが先にくるかなどというのんきな話題で一瞬盛り上がったが、その話題が尽きるとやはりブルーな雰囲気に包まれていた。

 松平の事件から一週間経った日のこと。二人がテレビをみていると松平が遺体で見つかったというニュースを目にした。松平の帰りが遅いと感じた母が捜索願を出したらしい。一体母はいくつなのだろう。そんな余計なことを考えている間に電話が鳴った。

「はいもしもし。」

すずえが恐る恐る電話に出た。

「あっこちら濡島警察の者ですが登山愛好会に入ってらっしゃる助六様と奥様のすずえ様のお宅で間違いないでしょうか?」

「はい、そうでございますが、何か?」

「先日の松平さんが何者かに殺された件で皆様にお話をお伺いしたいと思います。ですので捜査に協力いただきたく思い連絡を差し上げた次第でございます。」

「殺されたんですか!?本当ですか!?」

 すずえはわざとびっくりしてみせた。

「いや、現段階ではまだなんとも言えませんが恐らくそうではないかと。協力願えますか?」

「わかりました。」

「では明日の午後2時に現場検証も兼ねましてお話を伺いたいと思いますので、濡ヶ岳もふもとにお越しください。それでは失礼します。」

  すずえは心臓が飛び出そうだった。ついにこの日が来てしまったのだ。もう時間の問題か。取りあえずすずえは警察から電話がかかってきた旨を助六に伝えた。それを聞いた助六は明らかにテンションだだ下がりだった。しかしもうこうなってしまった以上仕方がない。というのが二人の意見だった。

  そして翌日。また電車に揺られ濡ヶ岳のふもとに向かった。あの時の登山メンバーが既に揃っていた。しかしあの時と決定的に違うのはこの重すぎる空気。まさかこの濡ヶ岳で二人も同じ日に死ぬなんて誰が想像するだろうか。そうこうしているうちに一人の刑事が頭をさげ礼儀正しくあいさつしてきた。

 「この度今回の事件の担当をいたします穂瀬です。色々お伺いいたしますので気分を害されるとこもあると思いますが、そこは一つよろしくお願いいたします。」

穂瀬は手短にあいさつを済ませた。聞くところによると穂瀬は最近日本に帰化した敏腕刑事として有名らしい。なんたる災難だ。助六とすずえは思った。もう終わりだ。助六とすずえの今後を左右する取調べが幕を開けた。

取り調べ( 1 / 1 )

 ついに穂瀬による取調べが始まった。一人ずつ順に呼び出される形で事情聴取が行われた。他のメンバーが取り調べを受けている間も助六とすずえは気が気ではなかった。一応口裏を合わせてはいるものの相手は敏腕。動揺が伝わってしまえばそれは逮捕を意味していた。

「わかってるな?すずえ。俺たちは何も知らないんだ。知らないことにすればいいんだ。目撃者は誰もいないし、あの時メンバーは梨太郎が転落したことでパニックになっていたんだ。誰も松平が俺たちと行動していたなんて覚えてはいないさ!きっとな!もし一緒に行動していたことを覚えていたやつがいたとしてもこう言うんだ。“ちょっと梨の楽園を見てくる”と言って松平はどこかへ行ったと。その間に俺たちは上の騒ぎを聞きつけて駆けつけた。これで完璧だ!完璧だ!」

「はい。わかりました。けどほんとに大丈夫かしら。もしそれ以外のことを聞かれたら自信がないわ。わたしあまりアドリブとかきかないし。そこでボロがでそうで心配なの。」

「だから普段から口をすっぱくして言ってきたんだよ!アドリブですぐ対応できる話術を磨いておけよって。何回言った!?こういうことがあるからなんだよ。しかしこの際そんなことを言ってても仕方がない。運にかけるしかない。さぁ祈ろう。」

二人は短めに祈りを捧げた。敏腕の質問に耐えるには神様の力も必要だと思ったらしい。他のメンバーが取調べを受けている間もひたすら祈った。

 すずえの取調べが終わった。彼女にも厳しい追及がされたようだった。松平との関係や今回の登山に参加すろことになったいきさつ等だ。しかし穂瀬は一見怪しいすずえをそこまで疑わなかった。敏腕の感が働いたのであろう。そしていよいよ助六の番になった。助六は意を決した表情ですずえにウインクをしてみせた。しかしすずえの胸には何一つ響かなかった。

 「あなたも当日はこの濡ヶ岳に登ってらっしゃったんですよね?間違いないですか?」

「はい、確かにこのメンバーと登ってました。それは確かです。」

「あなたは当日松平さんの姿を見ましたか?」

「はい、集合した時に確認しました。」

「そうですか~。その日松平さんに何か変わった様子はありましたか?何かお話はされましたか?」

穂瀬の怒涛に質問に助六も答えるのに必死だった。

 「そうですね、松平さんはいつも通りだったと思います。当日は挨拶を交わす程度で特に何も話してないような気がします。少し前なので記憶があやふやですが。」

「いつもと同じ様子だった訳ですね?助六さんは今回が初めての愛好会として参加された登山だそうですね?松平さんとは日ごろからお知り合いなんですか?」

助六はしまったと思った。しかしそれは嘘ではないし、大丈夫だ。助六は続けた。

「いやぁ、お恥ずかしい話、わたしと松平さんは無類の梨好きでした。それでよく家で梨トークで盛り上がったりしてたんです。だから登山の場でお会いするのは初めてでしたけど、以前から面識はあったんです。」

「なるほど、そうでしたか。助六さんも松平さんも梨がお好きだという話は皆さんからお伺いしてたんですよ。何せ松平さんは梨が自生している山に登る時しか来ないらしいですから。で、それより興味深い話を聞きましてね。」

意味ありげな笑みを浮かべながら穂瀬が助六の瞳の奥を見つめてきた。

 「興味深い話とはどんな話でしょうか?」

「いやね、メンバー全員が助六さんと松平さんは犬猿の仲だと口を揃えて証言してるんですよ。これは見逃せませんね。」

助六は意表をつかれた。そのことはあの現場にいたすずえと松平と自分しか知りえないことだった。もちろん他言していなければの話だが皆が口を揃えて言うほど明るみに出ているとは思ってもいなかった。

「はぁ、確かに仲がいいってわけでもありませんでした。梨のことで口論になって彼とは気まずい感じでしたから。でも刑事さん。それだけでわたしが犯人扱いされるのは納得いかないなぁ~。」

助六はちょっと反論しただけで勝ったと勘違いしそうになった。つかさず穂瀬が言った。

 「もちろんそれだけでは犯人扱いなんてできませんよ。もう一つ、助六さん、こんな話もメンバーの方から聞いているんですよ。」

今度は何だ!一体何なんだ!神様!助六はちょっと祈った。

「はい、何でしょうか?」

「実は松平さんとすずえさんが不倫関係にあったそうですね。その事はご存知で?」

「・・い、いや、そんなことは知りませんでした。そ、そうだったんですか?」

明らかにボロを出してしまった。そこまで刑事がついてくるとは思いもしなかったし、メンバーが知ってるなんてありえなかったからだ。実際助六もその登山の時にすずえにカミングアウトされたのだから。誰かにはめられている。そんな気さえした。

「だから松平さんを殺す動機はあると言うことになるんですよ、助六さん。つまりこういうことです。あなたは普段から仲の悪かった松平さんに対しいい印象は持っていなかった。梨について口論したとなれば怒りもかなりのはずです。さらに自分の妻との浮気が発覚しました。あなたは今日という機会を待って犯行に及んだ。違いますか?」

詳細やいきさつは少し違えど穂瀬の推理は大体正しいものだった。しかし今の状況ではどんな反論も言い訳としてとられてしまう。実際殺してしまったのは自分だし、妻のせいにもできない。助六は窮地に追い込まれた。 「署まで同行願います。」  署で本当のことを話そう。そうしたらわかってもらえる。助六は静かに車に乗り込んだ。すずえは何ともいえない表情で走り行く車を見つめ続けた。

西尾麦茶
作家:西尾麦茶
梨太郎
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