太陽の子

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第一話 合格

私にとっておじさまは太陽で、私はその太陽の子供です。

 その日はいつも通りの朝だった。一通の郵便物が届くまでは。

「小林さーん、速達です」

その郵便配達員の声を聞いて、家の中に一人で居た香奈は、誰も玄関に出て応対してくれる人が居ないから、、仕方なく玄関に向かった。人付き合いが苦手な香奈には郵便配達員の相手すら苦痛だが、他に誰も居ない以上、自分が玄関に行くしかなかった。玄関に着き、恐る恐るドアを開ける。そこには郵便配達員が一人立っていた。  

「小林さんですね、銀河プロ麻雀連合からの郵便物です」

香奈は黙って郵便配達員から郵便物を受け取り、郵便配達員はそのまま帰っていった。

 玄関を閉め、香奈はその郵便物を開けた。合否の通知であり、香奈は銀河プロ麻雀連合のプロテストを受けたことによる合否の通知であった。香奈にしてみれば試験は散々で面接では何も喋れず、実技はまったく駄目だった。当然香奈でもわかる不合格であった。しかし不合格通知にしては中身が多過ぎると、香奈は違和感を感じながら、中に有った一枚の書類を読んだ。

女流合格

香奈はその意味を理解できなかったが、合格はわかったのでうれしくて涙が出てきた。やっとおじさまのそばに行くことが出来る。香奈はプロ試験に合格したことよりも、そのことの方が何倍も何十倍もうれしかった。

 ただ合格通知を貰ったとはいえ香奈はまだプロではなかった。これから色々な研修を受けて始めてプロになれるのである。そして香奈は正式な合格ではなく女流合格だから本当のプロでは無い。

 女流合格とは正式な合格と違い、団体が行う普通のリーグ戦には参加できず、女流リーグという女性だけのリーグ戦にしか参加できない合格である。だから香奈が普通のリーグ戦に参加するにはまた半年後のプロテストを受けて正式に合格しなければならない。ゆえにむしろ面接では緊張してうまくしゃべれず、その後の実技試験も散々だった香奈が合格になったこと自体不思議と香奈は考えるべきだった。しかし香奈には合格という文字しか見えてなく、プロとは何かまったくわかってない香奈がそんなことを疑問に思うはずが無かった。

 そんな香奈だが合格の通知を貰った後も一人で麻雀の練習を続けていた。友達は居ないし家族は麻雀を理解してくれないから、香奈はただ一人で牌を積んで練習するしかなかった。実戦はプロテストの時が初めてだという香奈だが、テストの時に実戦を体験出来たおかげでより実戦に近い形で練習することが出来た。香奈は頑張ってる自分の雄姿をおじさまに観せられる、そう思い一心不乱に練習に励んだ。

 こうしてこれから始まる研修が香奈にとって苦痛になることも露知らず、香奈は研修の日におじさまに逢えると勝手に思い込んで研修の日が早く来ないかと待ち望んでいた。

 研修初日の朝、香奈はおじさまに逢えると信じて研修会場に向かっていた。研修に必要な物は全部確認して揃え、場所は実技試験をした場所だから、行くにあたって何の不安も無かった。歩きながら香奈はおじさまに逢えたら何をしゃべろうか、おじさまに一生懸命練習した結果を見せようと楽しく思いに更けていた。そんな感じで昨日から寝不足になるほど浮かれていた。 ただおじさまという人物はネットで知っただけで、香奈はネットですら恥ずかしくておじさまと会話すら出来なかった。その上、おじさまは香奈の名前も知らないし、香奈がプロテストに受かったことも知らず、そして香奈の存在すら知らなかった。そのことに香奈はまったく気付かずに幻想に浸りながら会場に向かって行った。

 研修会場はプロテストの実技試験で使われた場所と同じだから、香奈は場所も中身もわかっていて何の不安も無く研修会場に辿り着くことが出来た。中に入ると銀河プロ麻雀連合のプロ達が研修の準備で慌ただしく動き回っていた。香奈はどうすればいいかわからず、恥ずかしくて誰にも声を掛けれず立往生した。

「ちょっと、ちょっと」

香奈は後ろから聞こえてくる声にあわてて反応して後ろを振り向いた。

「そんなとこに居たら邪魔になるから早くこっちに来なさい」

そう言われた香奈は言われる場所に移動した。そこは待合室でそこには香奈と香奈を呼び込んだもう一人の女性しか居なかった。

「私は桜井里香。あんたは?」

その桜井の質問に香奈は緊張して

「わ、私は・・・、こ、小林、・・・」

と口籠もって満足に名前も言えなかった。

「あんた何緊張してるのよ、プロは人前に出る商売なんだからもっとしっかりしなさいよ」

と桜井は香奈をたしなめた。しかし香奈はそう言われてもすぐに直るわけでもなく

「は、はい」

と小声で返事をするのがやっとだった。

「あんた女流合格?」

と桜井は香奈に質問した。香奈はまた小声で

「は、はい」

と返事した。

「そうだよね、あなたが正規合格だったら落ちた人達は立場無いわよね。ちなみに私は正規合格よ」

と桜井は香奈に勝ち誇ったように言った。香奈は正規合格という言葉を初めて知り、女流合格の意味がわからず不安になった。そして女流合格=補欠のように思えて今までの浮かれた気分が吹き飛んでしまった。

 そんな中、他の合格者達も研修会場に入ってきた。その中に交じって教育係の女性がさっそうと研修会場に現われた。

「キョウカや!」

他の合格者がそう言った。それに反応して香奈はキョウカの方を見る。まぎれもなくあのタレントのキョウカである。テレビでしか見たことが無いタレントのキョウカを見れて香奈は心の中で感激していた。しかし香奈はその程度の知識しかないから、キョウカが麻雀プロでここには教官として来てることをまったく知らなかった。

「プロテストの合格者のみなさん集まってください」

その教育係の号令で合格者達は指示された場所に集まりだした。香奈もその場に行って横一列に並ばされた。目の前を見るとあのキョウカが教育係側の方に立っていた。

(キョウカさんに教育される)

香奈はそう思い怯え緊張し始めた。さらにその香奈に追い打ちを掛けるように教育係が

「まずはみなさん自己紹介をしてください」

と言った。教育係側からしてみれば誰が誰かわからないから、合格者達に自己紹介をさせるのは当たり前の話だが、自閉症の香奈にはその自己紹介で名前を言うことすら恐怖で精神的に苦痛であった。

 次々と自己紹介がされていき、里香も明るく自己紹介をした。そうしてついに香奈の番になった。

「こ、こ、小林、か、香奈といいます」

自閉症の香奈にはこれが限度で、これでも香奈は心臓が止まる程緊張してもうこれ以上何も言えなかった。教育係達はさすがに香奈にもっと語るように言うことが出来ず、仕方なく次の人に順番を回した。

(何でこんなの入れるのよ)

キョウカは緊張してうまくしゃべれない香奈を見て呆れてしまった。過去に点数計算の出来ない女子まで合格させていた団体側に不満を持っていたキョウカだが、今回の香奈には思わず不満が爆発しそうになった。

 そして全員の自己紹介が終わり教育係から今回の研修の説明が始まった。その間も香奈は先程の緊張が解けず、話に集中出来ていなかった。

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