江戸川日記

日常( 3 / 11 )

「源さん、食べないんですか?」
「食べる前に、ウナギのお兄ちゃんにお供えしてるんだよ」
「ウナギのお兄ちゃん?」
「ああ・・・ウナギのお兄ちゃん・・・」

日常( 4 / 11 )

「俺がまだ5、6歳だった頃、近所によく遊んでくれるお兄ちゃんがいたんだよ。お兄ちゃんは、俺たちに、相撲や、剣道や、水泳を教えてくれてさ。それで俺たちが「お腹が空いた」というと川に入って、鮎や、ウナギを獲ってくれて、ナイフを使って器用に裁いてくれて、それを焼いて食べてね・・・お兄ちゃんは、いつも一口も食べないで、俺たちが「ウナギ嫌いなの?」って聞くと、「いや大好物だけど、俺は大人だから、これから大きくなるお前たちが食え」ってね・・・」

日常( 5 / 11 )

「そんなお兄ちゃんが戦場へ行くことになった。俺たちは街のみんなと一緒に見送りに行った。その時、何でかはわからないけど、俺の口から「お兄ちゃん、またウナギを獲ってね」という言葉が出た。そしたら、キリッと引き締まった顔をしていた、お兄ちゃんが、ニコッと笑って、「おう、無事に帰って来たら、いくらでも獲ってやるぞ。その時は、みんなで腹一杯、鰻丼を食うからな。だから、たくさん食べられるように、少しでも身体を大きくして待ってろよ」と言ってね」

日常( 6 / 11 )

「でも、それがお兄ちゃんとの最後の会話だった・・・」

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