私の母親は、数年前に医療事故の被害に遭い生死を彷徨いました。私は家族として、弁護士にも依頼せずに大学病院へ闘いを挑み、そして、病院側に医療事故を認めさせました。
昨今、医療事故、医療ミスが大きな社会問題となり、頻繁に報道されておりますが、それらを目にする度に、複雑な想いを感じずにはいられません。
自らの経験を公表することにより、読者の方々が医療事故を未然に防ぐことを強く望んでいます。そして、医療界に対し、医療技術の向上とともに、昨今、忘却されている良心という言葉の重要性を切に訴え、信頼できる医療を推進して頂きたいとの願いを込めて書き綴りました。
私は、この本を医療事故の被害に遭われた方や、昨今、増加する心の病を患われた方、医療関係者の方々に、ぜひ読んでいただきたいと願っております。
そして、読者の方々に少しでもお役に立てれば、この上ない喜びです。
望みどおりの幸福を得られなかった過去を否定して、自分のためにそれを変えていこうという希望こそ、蘇生した人の持つ魅力である
なお、本書籍は、二〇〇七年六月に出版した改訂版です。
二〇一二年三月 著者
第二章 急性の腸閉塞で生死を彷徨う母親
第三章 デポ剤という薬の副作用
第四章 悪夢
第五章 外来医師の謝罪
第六章 ヒューマンエラー
第七章 病院の反撃
第八章 インフォームド・コンセント
第九章 執念
第十章 黄金色に輝いた道
主人公 ………………………………… 西田 貞一
主人公の姉 …………………………… 西田 咲子
主人公の母 …………………………… 西田 幸子
主人公の亡き父 ……………………… 西田 功
主人公の彼女 ………………………… 加藤 陽子
城北大学病院精神科女医 …………… 中村医師
城北大学病院精神科医師 …………… 市川医師
城北大学病院精神科主任 …………… 山村主任
城北大学病院精神科科長 …………… 宮本教授
城北大学病院消化器内科医師 ……… 金子医師
城北大学病院内分泌内科医師 ……… 長岡医師
主人公の友人 ………………………… 中野弘子
ある日の夕方、六時を過ぎた頃、JR渋谷駅東口近くのビルから、白いポロシャツにジーパン姿の男が姿を現した。彼の名は、西田貞一、三二歳。
七年ほど法律事務所で事務員として勤務していたが、幼少の時から抱いていた夢が諦めきれず、周囲の反対を押し切って法律事務所を退職し、このビルの中にあるIT関連企業でアルバイトをしながら、懸命に夢を追い求めていた。
アルバイトを終えてビルの正面玄関から出てきた貞一は、駅方面に通じる歩道橋をゆっくりと渡って渋谷駅へと足を進めた。夕方の渋谷駅周辺は、一日を終えて自由な空間を求める若者達で溢れ、雑踏と多くのネオンがひしめく魅惑の街へと変貌していた。そんな街を歩きながら、そこを行きかう人々を客観的に眺めていると、自らの存在に漠然とした不自然さを感じてしまい、この空間に馴染めない自分を再認識した。
駅舎へ到着して改札口を通り抜け、新宿方面へと向かう階段へと足を進めた。ホームには、仕事を終えたサラリーマンや学校帰りの学生たちが帰宅の途でごった返し、電車がホームに入り始めると、駅係員のアナウンスが構内に響き渡った。
「電車が到着しています。ご注意下さい。ホームに電車が入っております。線の内側に下がってください!危ないですよ!」
ようやく車両が止まってドアが開くと、列後方に並んでいた貞一は、前の人をせっつくように長身な体を車内へと運んだ。まるでおしくら饅頭でもしているような空間に不愉快を感じながら何とか電車に乗り込むと、目の前にいる茶髪の女性に気を使いながら、両手でつり皮を握りしめた。車内での痴漢行為が頻発する昨今、貞一は乗車する時必ず両手でつり皮を