見えない壁

本文



 

 ◇      ◇




 

特にクラスで目立つような自分ではないが、そんな僕にも好きな女の子はいる。

周りに言えば「分不相応だっ」とか「おこがましいっ」とか言われるかもしれない。

まぁ正直な話、自分でもまったくもってその通りだと思う。

なにをかくそう、僕が恋心を向ける相手はクラス1、いや、ともすれば学年1の美人であり、野郎たちが全幅の欲情を傾ける羨望の的なのだから。

時に女神とさえ呼ばれる彼女の名前を菊瀬由香(きくせ ゆか)という。

彼女と比べれば、自分はまるでゾウリムシだ。

始めに断っておくが、僕は自分を盛大に過小評価する性癖は持っていない。

けれどこと彼女と比べては、やはり自分はゾウリムシ的な存在なのだ。

彼女のことを想うだけで、この繊毛虫類の胸ははち切れんばかりに苦しくなり、時には煩悶して、やはり苦しみ身悶えたりする。

既にいっぱいいっぱいなこの想いを少しでも吐き出したくて、僕はある日、親友と呼べそうで呼べそうにない一人の友人に、煮えたぎる胸のうちを打ち明けてみることにした。

「だったら告白してみようぜっ♪」

まぁ、そのあからさまに楽しんでいる顔は癪に障ったが、自分でもその意見には頷ける。

「そうだよなっ、もう、告白するっきゃないよなっ!」

「・・・えっ、あ、いや、その」

僕の剣幕に押されてか、友人の声が尻すぼみになっていく。

判ってはいたが、やはり本気で助言していたわけではないらしい。

けれどこの友人の思考など、実のところ始めからどうでもよかった。

ただ誰かに言って勢いをつけたかっただけ。

宣言してしまえばもう後戻りは出来ない。

無謀という言葉に眼光をひらめかす、若さゆえの無鉄砲さだろう。

イイじゃないかっ、もう自分でもどうにか成ってしまうほどの狂おしい想いなのだ。

この想いを静めるには、もはや玉砕覚悟の告白しかないっ!



はたして、告白の場は設けられた。



捌け口に選んだ相談相手が悪かったのだろう。

親友と呼べそうで呼べそうにない友人が僕の想いを校内に知らしめ、頼んでもいないのに見ず知らずの男子生徒たちのはからいで告白の日時と場所を決められてしまった。

日時は今日の放課後すぐ、告白の場は昇降口前に設けられた噴水付きの池。

なんだか中学生が考えそうな趣向だ。

「頑張れよっ」

「ド~ンと死んでこいっ」

「大丈夫、骨は俺たちが拾ってやるっ!」

僕はそんな周りに怯むこともなく、むしろ満面の笑みで両腕を上げ、誇らしげに姫の待つ池へと向かう。

もはや学内は一種のお祭り騒ぎだ。

告白の場は空から見ると( コ )の字に建てられた校舎に囲まれている。

見方が反転するが( 区 )の字の( メ )の箇所に池があり、つまりは全校生徒から丸見えな場所なのである。
正直、自分にとってのそれは然程いやなものではなかった。

晒し者にしたいならするがいいさっ、という「開き直り」とも「もはや自分の世界しか見えていない」とも取れる心境だ。

が、彼女にしてみればこれほど迷惑な話もないだろう。

頭の片隅ではそれを理解してもいるのだが、気にしていられる余裕はない。

それでも彼女、菊瀬由香は、そこに居た。

とても困惑顔をして、恥ずかしいのだろう腰の前で組んだ両手をもじもじさせながら。

それでも自然体で背筋をピンと伸ばし、肩までの髪を春風に揺らすその姿は、ひとえに、綺麗だった。

ギャラリーは全校生徒のほぼ十割、その中には教師の姿すらある。

いまや、その全てが僕をはやし立てていた。

彼ら彼女らが抱く期待がどんなものであれ、これほどの注目度、そして期待度は生徒会長ですら味わえないだろう。

僕は一度だけ「静粛に」と両手を挙げる。

学内が、一時の静寂に包まれた。

大きく息を吸い込み、言葉に変えて思いの丈を叫ぶ。

「入学当時からっ、ずっと貴女の事が好きでしたっ!
 お願いしますっ、僕と、付き合ってくださいっ」

言った。

言い切った。

これでようやく、僕の胸を支配していた桃色の蟠りが一掃されるのだろう。

叶わない願いでもいい、この場を設けてくれた人々に感謝もしよう。

僕は、自分の想いを人前でこんなにも堂々と伝えられた。

結果は判っていたが、それだけで僕は自分を誇らしく思えた。

そして審判の時を待つ。

さぁ女神よ、ゾウリムシ風情が手を出してはいけない領域だったと踏み潰してください。

どのような結果であれ、ワタクシは自分を誇れますでしょう。

暫しの間をおいて、僕の正面に佇立していた女神がゆっくりと口を開く。

彼女は僕がしたのと同じくらい大きな声で――、

ただ、


「 はい 」

と。

僕を含み、その場に居た誰もが耳を疑った。

誰もが当然と決めていた結末。

一人のバカが起こした無謀な挑戦、その末にあるはずの、一つの玉砕。

それは無謀ゆえに当然待っている、必然的で絶対的なもの。

それなのに、女神はそれら全てを覆す言葉を、

満面の笑みで、口にしていた。




 ◇      ◇




恋愛に年齢は関係ないと主張する人がいる。

お互いに惹かれ合ったら相手が何歳だってべっつにぃ、と、そういうことらしい。

とはいえ、それを聞くとなかには、「若いほうは分かってないんだ」とか「そんなのただの好奇心」とか「その恋は間違い、勘違い」なんて言ったりする人もいる。

まぁ、正直僕には関係ないことで、当人たちが好きにすればいいよ、と、まぁ、自己責任だけど、なんて無責任なことを思うわけで、それでも、ふと思ったりするんだ。

幼稚園児の恋だろうと、お爺さんお婆さんの恋だろうと、相手に惹かれたなら、それはどうあっても恋だよと。むしろ、それ以外に何がある? と。

好奇心だろうと勘違いだろうと、それら全てひっくるめて、恋は恋だよ。

そしてお互いに惹かれ合ったなら、それはおめでとう、幸せになるべきだ。

いいや、個人的にはそれよりも、むしろ楽しむべきだ。

そしてさらにこう思う。

恋に年齢が関係ないと同様に、恋愛の順序にだって、決まりなんて無いのだろう、と。

出会って、知り合って、気が合って時間を共有して、その人の存在が当然になって、その時間を揺るぎないものにしたくて告白をする。

これが、今も昔も恋愛の順序としてはスタンダードだったと思う。

とは言え、それだってもちろん有象無象のなかの一つ。

出会って少し遊んで、楽しかったからそのまま付き合った、とか。

一目惚れして一日考えた挙句、翌日には告白していただとか。

決まりなんてもちろんないし、ましてや暴走した恋心の前では倫理なんて盲目的に判らなくなる。

ほんと、昔から恋は盲目と言うが、どんな先進国でも人の恋愛感情を構成する基本部分にだけは発展をもたらさないのだろう。

今の自分が持つ悩みも、きっと多くの人が悩んできたことなんだと思う。

一目見た瞬間に恋をして、話したこともないのに一方的に好きになって、だけど等身大の彼女を知らず、ただ女神といわれるその子を思って悶々と悩み、そして相手のことをなにも考えずに、告白をした。

そんな男が、この僕だ。

受け入れてもらえるなんてそんなの妄想の中でさらに妄想するぐらいに現実味がなくて、ましてや可能性なんて考えもしない、これっぽっちだってない話だ。

それなのに、そのアリエナイが、――奇跡が起こった。

だからこそ、そう、だからこそまごついちゃうんだ。

だって、目の前に、急にいくつも壁が立ち塞がったんだ。

つまり、すッごい嬉しいんだけど、でも僕は、

本当は、彼女のことを、何もしらないんだ。

だけど、それは彼女にしたって同じだと思う。

だから、ここで男の僕がしっかりしないと、と気合を入れる。

だけどそれでも、思うんだ。


―― どうしよう ――


と。



そんなこんなでもやもやしつつ、うやむやになりながらも、1ヶ月の時が流れた。

むろん、その間なにもなかったわけじゃない。

でも、始めは連日が御通夜みたいだったクラスの全男子も、今では僕らの仲をある程度受け入れてくれている。


そして急だが、僕らの初デートが幕を開けた。




 ◇      ◇




「ねぇねぇヨシくん。最後にあれに乗ろうよ♪」

「えっ? あ、うん。いいよ」

改札口で貰った遊園地のパンフレットを手に、嬉しそうに観覧車へと足を向ける僕の彼女。

あの告白から早くも一ヶ月が過ぎ、今では学年の女神である彼女を「由香」と名前で呼べるようにもなっている。

とは言え、自分から勇気を振り絞って名前で呼び始めたわけではなく、由香自身にそう呼んでと頼まれたからなのだが・・・、

「ヨシくん」

「え?」

気が付けば、由香はなにやら不満そうに頬を膨らまして、下から覗き込むようにジト目を向けている。

「考えごとが多い」

おっと。

「ゴメンゴメン。それであの観覧車、凄い高いけど何メートルぐらいあるの?」

「えぇっと、ちょっと待ってね」

誤魔化しに言った僕の質問に対し、由香は手にしたパンフレットを入念に調べてからふむふむと可愛く頷く。

「へへへ♪ なんとね、最高到達点は110メートルだよっ」

由香はさっきまでの不満顔から一転して子供っぽく微笑むと、決して長くはない両腕を精一杯伸ばしてその大きさを表現した。

「おおぉっ!」

と驚いてみたりもするが、実際のところはピンとこない。

「全然ピンとこねぇ~」

「ねっ、ねっ。凄いでしょ」

――いや、だからピンとこないんだってば。

僕のパーカーの袖を引っ張ってブンブンと振る由香はいつも以上にハイだった。

付き合ってみて判った事だが、由香はやはり男性の理想を具現化したような女性だと思う。

可愛さと綺麗さを兼ね備えた容姿に加え、今日は高めだが普段はちょうど良いぐらいの明るい性格。

人並み以上に目端が利くらしく、気配り上手でもある。

たまに自分の世界に入ってしまい、その間は何をしても無反応になるが、まぁそれはそれでちょっと違うが愛嬌とする。

「・・・・・・」

「 ? 」

引っ張った僕の袖をじっと見詰めて、白い頬を僅かに染める由香。

「どうかしたの?」

「えっ? あっ」

ふるふるふる、と由香にしてはとても早く首を振る。

どうやら早速自分の世界にダイブしていたらしい。

由香は未だ掴んでいる僕の袖にもう1度目を下ろすと、名残惜しそうに指を放して、はにかんだ笑みを浮かべた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」




僕らが付き合い出してから、約一ヶ月。

正直、由香は僕には出来すぎた彼女だと思う。

学年の男子に「この学校で彼女にしたい女子を3人挙げよ」と言えば、かなりの確率で由香の名が挙げられるほどの指示率だ。

そんな由香だから、告白した時はふられても当然だと思っていた。

というか、告白しておいてなんだが、付き合えるとは微塵も思っていなかった。

だから彼氏彼女の関係になってからの事なんて考えもしなかったわけで、そうなってから知る新たな欲求という名のハードルに僕自身が囚われる事になるなんて、その時は思いもしなかった。

言葉に出せばとても単純で、かつとても子供っぽい欲求なのだが、本来「高嶺の花」だった由香を前にすると、決めていた決意もガラガラと音を立てて崩れ出す。



・・・その、ただ『手を握りたい』というだけの事なのに。




「・・・・・・」

「・・・・・・」

・・・あ、しまった。

また考え事をしてしまった。

「ヨ~シ~くぅ~ん」

怖くはないが、何故か由香の半眼のジト目は胸にドクンとくるものがある。

「ゴメンゴメン。えっと、凄い高いけど、あの観覧車の高さは大体・・・」

「110メートルって、さっき言ったと思うんだけど?」

「・・・はい、そうでした」

項垂れると、怒ってる本人のはずなのに、由香はポンポンと僕の肩を叩いて笑ってくれた。




 ◇      ◇




「えへへ、結構ユメだったんだ。こんな風に観覧車に乗るの♪」

「・・・・・・」

観覧車の乗客待ちの列に埋もれながら、改めてソレを見上げる。

(・・・おいおい、観覧車だぞオレ)

などと心の中で呟いたりする。

無論今まで独り身だった僕とて観覧車ぐらい何度か乗ったことはある。

けれどその、女の子と2人きりで乗るというのは当時小学6年生だった僕が、当時幼稚園児だったイトコの妹にせがまれて乗った時以来だ。

幼稚園児の幼女をこの場合の「女の子」と認識して良いのかは判らないが、そうでなければこれが人生初なわけで、しかもその相手は恋焦がれてきた学内アイドルなわけで、つまりそれは(以下略

「僕もさ、結構ユメだったりするよ、好きな子とコレに乗るの」

思考でプシュゥ~ッ! と頭がショートする前に、何時もなら決して口に出せないほど恥ずかしい台詞を自分の口が吐いていた。

言ってから「おいおい自分っ! なんって恥ずかしいことを言ってるんだよっ」と後悔しても後の祭。

「もぉダメだぁ~っ! 僕の恋は終わったぁ~!」などなど、様々な不吉な予感を覚えては自分で焦燥感を煽り立てる。

が、そんな僕の前で由香は顔をゆでだこにして、

目がまん丸でうるうるしてて、

「~~~~っ、
 ――う、うんっ!」

グラッ、ときた。

だっ、駄目ですよ。

やばいってば。

そんな、由香みたいな子が頬を染めて瞳を潤ませながら喜んだら、例えエンマ様でも仕事を放棄して天国に昇ってしまいます。

自分のとろけ切った思考を何とか必死になって冷却する。

「ええええっと、ほらっ、はやく乗ろうかっ」

「あ、
 ――――はい」

急にしおらしくなった学園アイドルのその新たな一面。

「はい」なんて僕の言葉に従順に頷いては後をついてくる彼女が最高に愛しくて、頭の中が真っ白のまま観覧車の中に――、

「・・・・・・あの、お客様。
 まだ先に並んでいるお客様がおりますので」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

まだ・・・・・・全然僕らの番じゃなかったらしい。




 ◇      ◇




僕と由香が付き合い始めて、かれこれ一ヶ月。

正直な話、僕は焦っていた。

周りの友人の話では、告白されてすぐにホテルに行ったとか、付き合ったその日にまぁ・・・・・・色々となさったとか。

別に今時という言葉に無頓着なわけではないが、こと恋愛に関しての僕は案外古いタイプの人間なのかもしれない。

硬派だとか軟派だとかいう言葉は仲間内でもなかなか出てこない言葉になっている。

きっと、硬派という言葉も軟派という言葉もどこかピンとこないからだろう。

むしろ今では、硬派と呼べる男は体育会系の極少数以外みな天に召された。

軟派な男たちが作る時代。

みんな口を揃えてこう言うのだ。

「楽しければそれでいいじゃん」

いや、全くもって自分もその通りだと思う。

否定する気は皆無だし、それに同調もする。

けれど、やはり僕が彼らのように成ることはないのだろう。

本気だからこそ、怖いんだ。

愛しいからこそ、大切にしたいんだ。

確かに、度が過ぎればそれは一見ただの意気地なしに見えるだろう。

女の子だって、うじうじと悩んでいる男よりはハッキリと行動に移せる男の方が嬉しいはず。

暑苦しいのは僕も好きじゃない。

カラッといけるなら、その方がいい。

けれど判ってほしい。

好きな女の子に初めて触れるというのは、なかなか度胸がいるもんなんだ。

特にその子の事を想う、その想いが強ければ強いほど、行動を起こすのに必要な度胸も大きくなる。

そして、これは女性も男性も同じだと思うが、相手の本当の気持ちが判らないから、行動を起こすだけの勇気が持てない。

拒まれるのが怖いから、行動に移すだけの自信が持てないんだ。

ちなみに、僕は未だに由香が僕の告白を受け入れてくれた理由を聞いていない。

「本当に、由香は僕でいいのだろうか?」

こんな事を考えること自体、男らしくないとは自分でも思ってる。

けれど、由香は本当に、どうしようも無いくらいに可愛いんだ。

由香なら僕なんかよりもっと頭が良くて、背も高くてスポーツ万能で、明るい、いわゆる女性が憧れる男性と付き合えるはずだ。

まぁ、そこまで自分が悪いとも思ってはいないが・・・。

付き合っておよそ1ヶ月。

未だに僕は、彼女の僕に対する想いも知らず、また、自分では望んでいるくせに、どうしてもその手を繋げずにいる。




 ◇      ◇




「・・・・・・」

「・・・・・・」

何と言うか、とても気まずかった。

観覧車に乗ったはいいが、すぐ隣に座った由香を意識してしまい、決して軽くない混乱を催した頭は気の利いた言葉を見つけられずにいる。

最初に僕が乗ったのが悪かったんだ。

由香が先に乗っていたならば、僕はきっと隣に腰を下ろさず、由香とは対角線上の位置に座っただろう。

けれど由香はそういった事は何も考えていないのか、わざわざ僕の隣に腰を降ろし、かつ、横に3人は座れるであろうに、大して間を開けずに僕のすぐ隣を選んだ。

嬉しくないのか? と訊かれれば、それはもう言葉に表せないぐらいに嬉しいさ。

けれどそれと同時にとても困る、というか・・・・・・恥ずかしい。

由香の腕と、僕の腕が触れている。

知らなかった。

お互いの服を通してなのに、好きな子と腕が触れるだけで、こんなにも触れた箇所が熱くなるなんて。

さっきチラッと見えたのだが、僕の左手と由香の小さな右手との距離は、ほんの1cmしかない。

頭の中で誰かが忙しなく「いけっ! いけっ!」と叫んでいる。

右手は自由に動かせるくせに、左手の方はまるで金縛りにでもあったかのようにピクリとも動かない。

想っているんだ。

観覧車に乗って狭い空間が2人だけの空間になってすぐに、ガバッと手を握るのか?

なんというか、それはせっかちと言うか、節操が無さ過ぎないか?

それに、怖がらせちゃったりしないか?

しかも僅か1~2分であれ、沈黙の後にとる行動がソレなのだ。

手を繋ぎたいという想いは確かにあるが、物事には順序と言うものがあるわけでして・・・。

こんな理屈っぽくも煩わしい思考が、見えない壁になって左手を先に進ませない。

「・・・・・・」

ダメだ。

ごちゃごちゃと考える前に、まずは何か話そう。

気がつけば観覧車は既に結構な高さまで登っている。

僕は思い立って、勇気を出すと由香に顔を向けた。

すると同時に、さっきまで伏し目がちだった由香も僕に顔を向ける。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ぽかん、といった表現が最も適しているのだろう。

由香から見た僕もそうなのだろうが、僕から見た由香もキョトンと目を丸めている。

(あれ? もしかすると・・・由香も、同じことを)

思うと、勝手にくすっと、口が動いちゃって、それのせいか、「プッ!」と由香が吹き出して、そんな、こっちだって堪えてるのに吹き出すから、

「プッフ、ハッ、ハハハハハハッ!」

「あははっ、あははははっ!」

なんでか堪えきれなくなって、気付けば2人して笑い合っていた。

「あははははっ♪ ほら、やっぱりそうだよ」

「えぇ? なにがさ」

何となく判っているのに、つい聞き返してしまう。

破顔する由香は笑い過ぎたのか、涙目を擦りながら、

「うん。ヨシくんって、本当にわたしが思った通りの人だなあって」

「えっと、似てる?」

「うん。わたし好きだよ、ヨシくんのそういうところ」

――ドクンッ――

高鳴る胸の鼓動が断続的に繰り返される。

(チョット待て、恥ずかしいぞ、もうちょっと控えめに脈打ってもいいだろオレの胸ッ!)

などと、僕は自分の胸を鷲づかみしたりするが、持続力のある元気な鼓動はその意思に逆らって底抜けに高鳴っていく。

「えっと、由香さ。由香は僕にその、自分とどこか同じ空気っていうのかな、それを感じたから――」

言い終える前に、由香が悪戯っぽく微笑む。

「うん、たぶん、そうだと思う」

顔が今までに無いくらいに赤くなったと思ったら、恥ずかしくなったのか、由香はすぐに俯いてしまう。

正直、それは僕としても助かった。

こっちも、由香に負けないぐらい赤くなってると思う。

「この人なら、いいかなって、何でか判らないけど、あの時そう思えたから」

「・・・・・・」

きっと、

今の僕なら、世界だって好きなように変えられる。

本気でそう思えるほどに、桃色の幸福が僕の胸を支配した。

「綺麗だね」

「えッ?」

ビクンッ、と体をふるわせて裏返った声を出しながら顔を上げる由香。

「ここから見える景色」

「え? ・・・あっ、うん。・・・・・・そう、だね」

全くと言っていいほどガラスの向こうに視線をやらずにうつむく由香。

なにを勘違いしたのかは判っているつもりだ。

ちょっと残念そうに苦笑する由香が可愛くて、

「うそ。由香が、だよ」

なんて、やっぱり口にすると後悔したくなったが覆水盆に返らずなので、変な顔に成りそうになるのをグッと堪え、ただ優しく由香を見つめ続けた。

大丈夫、ウソではない。

「~~っ」

・・・うん。

今はじめて由香をからかってみたが、由香はこんな風にからかわれると口をパクパクと開閉するんだな。

学年のアイドルであり女神と謳われた由香のそんな顔を見られるのは、彼氏の特権というやつだろうか。だとしたら、他の奴らには絶対に見せたくないな、なんて独占的な気持ちになる。

あまりジッと見続けるのも可哀想なので、僕は再びガラスの向こうに移る世界を眺めた。

黄昏時の空の下に広がるありのままの世界が、今ほど美しく見えたことはない。

そんな世界を見て、自分の想いを素直に、装飾せずに、変にカッコつけずに、ただ素直に伝えれば良いのだと、そう思えた。

「由香と一緒に、色んな所に行きたいな」

「・・・・・・」

「僕は、これからもずっと由香が好きだから、だから、一緒に色んな所に行こう」

「・・・・・・、
 ――うん、わたしも・・・」

恥ずかしくなったのか、そこではたと言葉を止めて俯くが、すぐに顔を上げて――、

見ていて、可哀想になるくらい顔を真っ赤に染めて――、

「ヨシくんと、色んな所に行きたいです」

・・・・・・。

自然と、由香の手を握っていた。

今までは確かにそこに見えない壁があったのに、今となっては、1cmの距離なんて無いも同然で、

手を握れたら死んでもいいなんて思っていたくせに、今ではもっと貪欲になっていて――、

「・・・・・・」

「・・・・・・」

きっと、男の想いは女の子にも移るのだろう。

由香の肩に腕を廻した僕は、ただ素直に、恋人の唇に自分の唇を、重ねていた。







 『 おわり 』

あとがき




始めまして、風都 葉月です。

えっとですね、ただ今こうして世に出られたことがとても嬉しくて、本っ当に、感謝しています!

まあ、いきなりね、初めてあった人に感謝しています! なんて言われても、「いやぁ~自分は別に偶然今ここにいるだけだからー」となってしまう気もするんですが、でもなんって言うか、うんっ。

こらえてくださいっ(爆

なぜにこっちがっ!? とお怒りの声がズバーンと聞こえてくる気もするけど、ああっ、うんっ、すみませんっ! そりゃそうですね、調子に乗ってましたっ! ってヨワッ! 自分ヨワッ! パソコンの前で自然に頭下げてる自分が意味不明っ!

とまあつまり、自分って通常は普通の真面目で寡黙な人間だと思うんですが、時にただの変な奴なんですよ。

と、なぜ私はあとがきにわざわざ自分の『変』度合いを綴っているんだ?

ああそっか、きっとあれです、「私を知って~」という露出狂チックな性癖が内心多少なりともあって、それがここぞとばかりに爆発しているんですね。

そうかそうか、そういえば幼少の頃からそうだった気もするな~――って、

ちょっと待て、それってただの『変人』じゃんっ!?

いや違うっ、そんなわけないっ、いたって自分はノーマル、そう普通、ただの人。

そこら辺に生えてる雑草と同じっていや~それはちょっと逆に低く過ぎないかあ? と、せめて野に咲くタンポポぐらいにしたってって、いやまて、まずはとりあえず人間を目指そう、そうさ、いつだって目標は高く。

って、『高い目標』が『人間を目指す』ってあたしゃなんだっ!? 人間やめた記憶はないよっ。

そうさまだきっと、ギリギリ、人間・・・・・・、

え~っと、ダメだ。ツッコンでくれる人がいないから終着点が見つからないや(涙

というわけで、はい。えっと、風都 葉月です。

うん、ちょっと誤魔化してみましたっ。

もう、多分に最初に戻っちゃった気がしますが、とにもかくにも、一方的ではありますが、こうしてただ伝えられるってことだけでも、とっても嬉しくて、うん、かなりハイなんです。

今までは我がままな自分の性癖のせいで、ずぅっっと外に出られなかったもので、その分凄く新鮮なんです。

で、その枷がちょっと前に外れまして、「・・・だったらオーケー、ここからは踊るよぅ(にやり)」と。

ナイトベアは夜中に人知れず踊り狂うよ~、と。

というわけで、出来ればこれからの人生、長いお付き合いをしていただけると嬉しいですっ。

そしてまずはお近づきのしるし、しるし? 品? まあいいや。

第一弾として、今回のこの作品です。

自分としてはちょっとした問題作です。

だからこそ先に出しちゃえと、思って直したんですが、そうしたら案外頷けるものになっちゃって、だからこそまた困ったりして・・・、とまあ、そんなことはどうでもよくて、大切なのはそう、

この作品、そのうち有料にする予定です。ですので、ダウンロードはお早めに。

なんと言っても、生まれたばっかりの無名人です。それでもこうして出会えたなら、きっとあれです、袖振り合うも他生の縁、というやつかもしれなくて、ただの偶然だとしても自分には感謝すべきことで、うん、失礼、意味不明ですね(笑

よし、ちょっと事務的になってきた気がする(どこが? と聞かれると困るけど・・・

えっと、予告? です。第二弾ですが、三月末には出したいなって思っています。

・・・ん? 予告? 希望っていうか願望? うん、よし、まあよしっ!

なんかさっきから色々と間違ってる気がするけど、うん、まあ、そのままでよしっ!

と、もちろんその第二弾も、始めは無料ですので、出来れば気に止めてもらえると嬉しいですっ。

とぉ~さてっ、ずいぶんと長くなってしまったので、ここら辺で締めにさせて頂こうと思います。

またこうして、一方的ではありますが、伝えられる日が来ることを心の底から望んでいます。

それではっ、本日のお相手は、テンション高めの風都 葉月でしたっ。

さようならあっ!!





風都 葉月

風都 葉月
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