1. 金時山に登ろう
大学時代に馬術部に在籍していた同学年十名は、団塊の世代(1947年から1949年にかけての第一次ベビーブームで生まれた世代、昭和二十二年から二十四年にかけて生まれた世代)よりも五歳ほど上で、本人達にその意識はないものの、文字どおり戦中生まれである。
運動部現役時代は、十名の結束は堅かった。しかし、期待されながらも、それほど強くなれず、最上級生の時には地域大会で全員予選落ちし、インターカレッジ(インカレ全国大会)への出場権を逃している。
医学部、工学部、理学部、法学部、経済学部など、それぞれの学部をそれなりの成績で卒業後、医学、工学の研究分野、製造企業、商社、官庁などに進路を選び、そして四十年がアッと言う間に過ぎて行った。大多数が定年退職する時期になり、人恋しさもあって、年に一度は集合することに意見が纏まり、数年が経った。
観光地を巡って、夜は酒盛りのマンネリ化した企画に飽き、三年前からは宿泊した国民宿舎や民宿の近くの山に登るスケジュールが定着した。しかし、日頃体力増進に熱心な経ヤン、仙人、チャメ、トンの四人を除いて、他の六人は山登りと聞くと尻込みする傾向にあった。