一方的に追いかけるのは余りにも見苦しく、これが運命なんだと勝手な精神論を組み立てて、僕は自分を納得させた。
その後は手当たり次第、女と付き合ったけど、誰にも心を開かれることはなかった。
一流大学を出ても、中々就職が見つからない時代。それでも僕はなんとか、首都圏に三店舗のファミリー向けレストランを持つ会社に就職した。
仕事の内容は、パートの主婦とほとんど同じ。けど、それなりに努力して、溶け込もうとしていたのに。大卒というくだらない肩書きにコンプレックスを持つ高卒らしき店長から、些細なことでいつもバカにされた。そして気が付いたら、辞表を叩きつけていた。
それからは飲食店のバイトを転々と。でもどこか、満たされない。心身ともに疲れていく。
そんな時僕は、西谷さんという三つ年上の同郷の先輩と知り合った。一緒に就職しないかと誘ってくれた。営業らしく、最初は契約社員だが、頑張れば半年で正社員にもなれるという。無条件に、ありがたかった。
仕事は、消火器の訪問セールスだった。別々に売りに歩いてもいいのだが、西谷さんの提案で一緒に組むことにした。二人分売れば問題ないし、何より彼の営業センスは見事で、頼もしかったから。
西谷さんは下調べをしていたようで、その日は「神岡」と表札のある、いかにも老人が住む古い平屋の前で足を止めた。そして様子を伺う。
すると歳は二十代前半だろうか。ショートカットで、まだあどけなさが残るかわいらしい一人の女性が出てきた。
「じゃあ、また明後日ね、神岡さん」
彼女は軽く一礼しながら恥ずかしそうに微笑み、ホッとした様子で横開きの玄関ドアを閉めた。
僕はその彼女の眩しい輝きに、目を奪われていた。理由はわからない。都会には染まっていない、純粋で優しそうな、ふんわりとしたそんな雰囲気に、ただ引きつけられたのだ。