魔界島の決闘

 アンナはベッドに案内されると、うつ伏せに寝かされた。三人のエステティシャンは全身の肌にブルーベリー色のクリームを塗りこんだ。アンナは夜更かしをしたわけでもないのに眠ってしまった。目が覚めると約30分たっていた。何をされたかまったく憶えがなくぼんやりしていると、前方にある樽のようなものに案内された。樽の中央がゆっくり開くと中にある丸椅子に座らせられた。すると、樽はゆっくり閉まり、樽の上に顔だけが飛び出した。次の瞬間全身に生ぬるい液体が噴射した。


 「きゃ~」アンナは悲鳴を上げた。噴射は3秒のインターバルをとってリズミカルに行われる。噴射は全身の快感神経を刺激するように設計されており皮膚をリラックスさせる。10分の噴射を終えると樽は再びゆっくりと開いた。今度は仰向けにベッドに寝かされると金木犀の香りがする黄色いオイルを全身に塗られ、三人によるマッサージが始まった。エステが終わりほっとしているとアイが服を持ってやってきた。


 エステルームの隣の部屋のソファーでジャスミンティーを飲んでいると、グリーンのタンクトップに赤のミニスカート姿の女優のような美女が部屋に現れた。アンナの目は長くて美しい脚に釘付けにされた。一瞬、初めて会う女性かと思わせたが、彼女はマオであった。「最高級のエステいかがでしたか?最後にアンケートにご協力くださいますか?」マオはアンケート用紙をアンナの前に置いた。

 

 アンナが5時ごろ椿荘に戻るとさやかはプーさんと遊んでいた。アンナは不思議なエステ宮殿の話をするとさやかはいつもの推理する顔を見せた。アンナには黙っていたがさやかには漠然とした思いが浮かんだ。二人の行動が桂会長に伝わっているのではないかと。食事を済ませた二人はアンナのママの友達サリーという女性を探しに博多に、さらに湯布院にやって来たことをドクターにメールした。

          
 アンナはクラブ・リリーをナビで調べると時速50キロで35分と分かった。二人は7時40分に椿荘を出立した。しばらくS2000を走らせているとアンナは先ほどエステ宮殿に案内された道を走っていることに気づいた。ナビはエステ宮殿の北門に二人を案内した。門の前につくと誰が乗っているのかを知っているかのように門はゆっくりと左右に開いた。門を入ると、燕尾服を着た執事が二人の名前を確認し、指紋を取った。二人は驚きのあまり目を見合わせた。執事は無線機で誰かと話をすると、二人に車から降りるように指示した。


 入口横の警備室のような部屋に案内されると6人乗りのリニアモーターカーが待っていた。2分程リニアモーターカーで運ばれると宮殿の北エントランスが現れた。エントランスには純白の燕尾服を着た執事が待っていた。彼はアンナを先ほどエステ宮殿に案内した執事であった。執事はクラブ・リリーでなく王室のようなVIPルームに二人を案内した。二人が部屋にかかった印象派の絵画を見ていると和服姿の女性が現れた。彼女はエステのときに出会ったマオであった。

 

 「あなたは!」アンナは驚きを隠せなかった。「また会いましたね、アンナさん。お待ちしていました」マオは二人の歓迎を予定していた。「まさか?マオさんがサリーさん?」年齢から予想していた女性よりもとても若く見えるサリーに感激した。「はい、私がサリーです」マオは二人の気持ちを見抜いた顔であった。


 「サリーさんはママの友達ですね。教えてほしいんです。パパのことを。今、どこにいるのか」アンナは気持ちを抑えられず一気に思いをぶつけた。「確かにお母様のレイナさんとはダンサーのときの友達です。でも、レイナはつき合っていた彼氏のことは一切私には話さなかったの。はるばるエステ宮殿まで足を運んでくださったのに、力になれなくて、ごめんなさいね」


 二人は唯一の手がかりから何一つ成果を得ることができなかった。アンナは何度も考えたがサリーさん以外の手がかりは思いつかなかった。二人はパパ探しを諦めることにした。さやかはアンナにかける言葉が無かったが、アンナは成果がなくてほっとしていた。アンナの本心はパパは死んでいてほしかった。もし、生きていることが分かればきっと憎しみがいっそう膨らんでしまい、気持ちの整理がつかず、パニックになるのではないかと怖かった。ママが愛した人でもアンナには許すことができなかった。

 

 

             *魔界島の決闘*


 「アンナさん、さやかさん、大丈夫かい」引きつった顔の拓也は二人に声をかける。「先生、会えて嬉しいわ」アンナは拓也に飛びつき、抱きしめると左頬にチュ~をする。「アンナさん、とっても元気じゃないですか。心配して損しちゃったな」拓也は腰を下ろすとミッキーのハンカチでピンクのキスマークを拭き取る。「あら、先生の顔を見たから元気になったんじゃない。さっきまで、寝込んでいたのよ」アンナは拓也の横に腰を下ろす。


 「アンナさん、残念だったね。人生は山あり谷ありだよ。三人で観光しようじゃないか。どこに遊びに行こうか?そうだ、ガイドを呼ぼう。きっと面白いところを案内してくれるよ」拓也は笑顔で右手の親指を立てる。三人は出立の準備をすると、カウンターでガイドを依頼した。


 さやかはプーさんを連れて行きたかったがアンナに止められ置いていくことにした。15分ほどカウンターで待っていると二十歳前後のイケメンガイドがやってきた。拓也が大分は初めての観光だと伝えるとガイドはプランを説明した。「まず、ヘリコプターで阿蘇山、天草諸島、桜島を見学して、そこでお食事にいたします。午後の予定はそのときに説明いたします。サプライズをお楽しみにしていてください」三人はヘリコプターでの観光と聞いて笑顔満面になった。

 

春日信彦
作家:春日信彦
魔界島の決闘
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