魔界島の決闘

 アンナが5時ごろ椿荘に戻るとさやかはプーさんと遊んでいた。アンナは不思議なエステ宮殿の話をするとさやかはいつもの推理する顔を見せた。アンナには黙っていたがさやかには漠然とした思いが浮かんだ。二人の行動が桂会長に伝わっているのではないかと。食事を済ませた二人はアンナのママの友達サリーという女性を探しに博多に、さらに湯布院にやって来たことをドクターにメールした。

          
 アンナはクラブ・リリーをナビで調べると時速50キロで35分と分かった。二人は7時40分に椿荘を出立した。しばらくS2000を走らせているとアンナは先ほどエステ宮殿に案内された道を走っていることに気づいた。ナビはエステ宮殿の北門に二人を案内した。門の前につくと誰が乗っているのかを知っているかのように門はゆっくりと左右に開いた。門を入ると、燕尾服を着た執事が二人の名前を確認し、指紋を取った。二人は驚きのあまり目を見合わせた。執事は無線機で誰かと話をすると、二人に車から降りるように指示した。


 入口横の警備室のような部屋に案内されると6人乗りのリニアモーターカーが待っていた。2分程リニアモーターカーで運ばれると宮殿の北エントランスが現れた。エントランスには純白の燕尾服を着た執事が待っていた。彼はアンナを先ほどエステ宮殿に案内した執事であった。執事はクラブ・リリーでなく王室のようなVIPルームに二人を案内した。二人が部屋にかかった印象派の絵画を見ていると和服姿の女性が現れた。彼女はエステのときに出会ったマオであった。

 

 「あなたは!」アンナは驚きを隠せなかった。「また会いましたね、アンナさん。お待ちしていました」マオは二人の歓迎を予定していた。「まさか?マオさんがサリーさん?」年齢から予想していた女性よりもとても若く見えるサリーに感激した。「はい、私がサリーです」マオは二人の気持ちを見抜いた顔であった。


 「サリーさんはママの友達ですね。教えてほしいんです。パパのことを。今、どこにいるのか」アンナは気持ちを抑えられず一気に思いをぶつけた。「確かにお母様のレイナさんとはダンサーのときの友達です。でも、レイナはつき合っていた彼氏のことは一切私には話さなかったの。はるばるエステ宮殿まで足を運んでくださったのに、力になれなくて、ごめんなさいね」


 二人は唯一の手がかりから何一つ成果を得ることができなかった。アンナは何度も考えたがサリーさん以外の手がかりは思いつかなかった。二人はパパ探しを諦めることにした。さやかはアンナにかける言葉が無かったが、アンナは成果がなくてほっとしていた。アンナの本心はパパは死んでいてほしかった。もし、生きていることが分かればきっと憎しみがいっそう膨らんでしまい、気持ちの整理がつかず、パニックになるのではないかと怖かった。ママが愛した人でもアンナには許すことができなかった。

 

 

             *魔界島の決闘*


 「アンナさん、さやかさん、大丈夫かい」引きつった顔の拓也は二人に声をかける。「先生、会えて嬉しいわ」アンナは拓也に飛びつき、抱きしめると左頬にチュ~をする。「アンナさん、とっても元気じゃないですか。心配して損しちゃったな」拓也は腰を下ろすとミッキーのハンカチでピンクのキスマークを拭き取る。「あら、先生の顔を見たから元気になったんじゃない。さっきまで、寝込んでいたのよ」アンナは拓也の横に腰を下ろす。


 「アンナさん、残念だったね。人生は山あり谷ありだよ。三人で観光しようじゃないか。どこに遊びに行こうか?そうだ、ガイドを呼ぼう。きっと面白いところを案内してくれるよ」拓也は笑顔で右手の親指を立てる。三人は出立の準備をすると、カウンターでガイドを依頼した。


 さやかはプーさんを連れて行きたかったがアンナに止められ置いていくことにした。15分ほどカウンターで待っていると二十歳前後のイケメンガイドがやってきた。拓也が大分は初めての観光だと伝えるとガイドはプランを説明した。「まず、ヘリコプターで阿蘇山、天草諸島、桜島を見学して、そこでお食事にいたします。午後の予定はそのときに説明いたします。サプライズをお楽しみにしていてください」三人はヘリコプターでの観光と聞いて笑顔満面になった。

 

 ガイドは三人をキャデラックに乗車させると由布岳に向かって走った。30分程走るとヘリコプターが二機待機した観光客専用のヘリポートに到着した。ガイドは二つのプロペラを備えた8人乗りのヘリに案内した。機内の空間は広く、中央には飲食ができる円形カウンターがあり、機体の左右は眼下を一望できる大きな窓となっていた。360度回転するシートは中央の円形カウンターの前方に四つ、後方に四つ設置されている。


 進行方向左手のシートに拓也とガイド、右手のシートにさやかとアンナが着座した。全員がシートベルトをすると機体は心地よい音で離陸した。離陸後5分程するとパイロットはアナウンスを始めた。「このたびイーグル社をご利用いただきありがとうございます。皆様をお迎えした電機ヘリコプター、シルバーウィング888での観覧をお楽しみください。後10分ほどで久住高原上空に参ります」きれいな声のアナウンスは女性の声であった。


 「あそこにもヘリコプター、あら、手を振ってるわ」さやかは右手のアンナの顔をのぞく。「さやかったら、ガイドさん双眼鏡貸してよ」ガイドはシート前方にあるボックスから双眼鏡を取り出し三人に手渡す。アンナはしばらくブラックのヘリを双眼鏡で覗く。「あの女性、サリーさんじゃないかしら」アンナがつぶやくと「隣の男性は桂会長じゃない」とさやかがつぶやく。拓也はシートを180度回転させるとすばやくアンナの横に駆け寄り双眼鏡を覗く。

春日信彦
作家:春日信彦
魔界島の決闘
0
  • 0円
  • ダウンロード

10 / 22

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント