魔界島の決闘

             *博多に向かう*


 さやかとアンナは二人そろって休み。さやかはアンナのお父さんのことが気になっていた。アンナは父親のことは話したがらない。亡くなった母親は父親はデザイナーだということを一度だけアンナに伝えた。さやかはおそるおそるアンナに訊ねた。「アンナ、お父さんのこと本当に何も知らないの?」さやかはピンクのスカートをはいたプーさんを抱きしめる。


 「本当に何も知らないよ。だけど、ママの友達、名前なんと言ったかな~、サリーさん。よくうちに遊びに来てたよ。もしかしたら、サリーさんだったら何か知ってるかもね」アンナはぼんやりと天井の照明を見つめる。「サリーさんね、それじゃサリーさんに会って聞いたらいいわ」さやかはプーさんを天井に向けて放り投げる。「会うって言ってもどこにいるか分かんないのよ。だけど、ナカスで働いていたときの友達って言っていたから、今でもナカスにいるかもね。確か、ママはダンサーのサリーって言ってたよ。そうね、年はママと同じくらいだから45歳くらいのはずだな」アンナは真剣な顔つきでさやかを見つめる。


 「よし、早速、ナカスに行ってサリーさんを探そう」さやかは急にウキウキ。ピクニック気分のさやか。「バカなこと言わないでよ。もし、ナカスにいなかったらどうすんのさ」プーさんの頭をポコンと殴る。「そのときは観光旅行と思えばいいじゃない。最近、二人で旅行してないし~」さやかはプーさんにキスする。

 アンナは父親を知ることが怖かった。母親を捨てた父親を今でも憎んでいる。もし、父親が生きていても対面する勇気はない。なぜか、アンナの瞳に涙が光った。さやかはこのことにまったく気づいていない。アンナは話をそらそうと抱きしめているプーさんを取り上げたが、さやかは出立気分。


 「早速、行くわよ。アンナ、いいわね」さやかはアンナの肩に手を置く。「分かったよ。久しぶりだな、博多」アンナはこぼれた涙をプーさんのスカートで拭く。11月1日(土)さやかとアンナは5時に起床。「さやか、それは何よ、中学生じゃあるまいし」さやかはピンクのミニスカートにルーズソックス。「え!かわいすぎるかしら」さやかはくるりと一回転。


 二人は羽田空港を7時に出発。二人が乗ったボーイング777は70分で福岡空港に到着。地下鉄中洲川端駅近くにあるナカス・ロイヤルホテルに到着したのは午前8時45分。チェックインを済ませた二人は8階のレストランに向かった。窓際の席に案内された二人はナカスを見渡す。「アンナ、いい眺めね。ダンスホールってどこにあるの?」さやかはプーさんを膝の上に置く。「分かるわけないっしょ。まずは腹ごしらえ」アンナはゆで卵を大きな口でぱくりと半分食べる。食事を終え、レストランの出口を出ると二人の足が突然止まる。

 「アンナ、今からどうしようか?」さやかはプーさんを抱きしめる。「そうね、昔住んでいたマンションにでも行ってみるか」アンナはさやかの頭をぽんとたたく。「ここから、近いの?」さやかは迷子の子供のように不安げにつぶやく。「福岡タワー近くのマンション」アンナが応えるや否やタクシー乗り場に急いだ。二人はタクシーに飛び乗ると運転手に福岡タワーを指示した。「さやか、タワーから海でも見よう。何か、名案が浮かぶかも」アンナは遠くにそびえたつタワーを指差す。


 二人は展望台から海を眺め、名案はないかと考えては見たが、なんの手がかりも無いことに気づく。「アンナ、何か手がかりないかな~」さやかはプーさんを肩車する。「ママはパパとよくタワーでデートしていたと言ってたの」アンナは子供のころ聞いた話を思い出す。「なるほど、これは重要な手がかりだな。二人は海を見ていたわけね。そこで二人は将来の話しをしていた。パパははるか海の向こうのヨーロッパに憧れていた。デザイナーだったわけだからイタリアかフランスに留学したいとママに打ち明けた。すでに、ママのおなかにはアンナがいたが、そのことは伝えず涙をこらえてオーケーした」さやかは一人で納得する。


 「いつもの短絡的推理ね、当たってるかも知んないけど」アンナはぼんやり遠くに浮かぶ韓国行きの船を眺める。「パパはいつ日本に帰ってきたのか?それともまだヨーロッパにいるのか?」さやかはあごに左手の人差し指を当てる。「とにかく、サリーさんを探そうよ。きっと何か知ってるはずだから」アンナは右手の握りこぶしをさやかの顔の前に突き出す。

 「ところで、ママってなにやってたの?」さやかは情報不足に気づく。「ストリッパーなの。友達のサリーさんもきっとストリッパーだと思う」アンナは子供のころ壁に貼ってあった母親のポスターを思い浮かべた。「そうなの、それじゃ探しやすくなったじゃない。すぐに、ストリップ劇場をあたればいいのよ」さやかは笑顔で親指を立てる。「そうよね!」アンナはさやかを置いてエレベーターに向かう。


 インターネットで調べたストリップ劇場の事務所を探し当てたが、そこの所長は30歳前後の関西人で25年前のダンサーのことはまったく知らなかった。二人は浅はかな行動に肩を落としたが、ナカスのクラブで聞き込みをすることにした。友達サリーは色白のハーフで背丈は170センチ前後、あごに大きな黒子が一つある。


 幸運にも、最初にあたったクラブ・カトレアの若いママが古株のママをがいるクラブ・エメラルドを紹介してくれた。古株のママの話からハーフであごに黒子のあるママが系列の由布院にあるクラブ・リリーにいることを知った。彼女の名前はサリーではなくキャサリン・亜紀であったが、二人は会うことにした。

春日信彦
作家:春日信彦
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