生きるということ、働くということ

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目次

1.交通事故死という事実を受け止めて(1)
2.交通事故死という事実を受け止めて(2)
3.みんなどこかで支えられている
4.「忙しい」という言葉
5.CSと消費期限の切れたパン(1)
6.CSと消費期限の切れたパン(2)
7.3つの”そう”と生きる(1)
8.3つの”そう”と生きる(2)
9.若手行員だった頃を思い出して(1)
10.若手行員だった頃を思い出して(2)
11.お金の精算方法
12.名刺交換の奥義

話( 1 / 12 )

1.交通事故死という現実を受け止めて(1)

つい2日前、ぶーすかのところに営業店の若い子、後藤さん(仮名)から1本の電話が入ってきました。

 

後「ぶーすかさんですか?」
ぶ「おぉ、どうしたの?この間さ、サダさんと話したよ。」
後「そうなんですか。実は、そのサダさんのことで電話をしたのです。」
ぶ「どうかしたのか?」
後「今日のお昼過ぎなんですけど、事故を起こしちゃいまして・・・。」
ぶ「事故?どこでよ。」
後「いや、集金に向かう途中だったんですが・・・。」
ぶ「で、状態は?」
後「今日持つかどうかと・・・、生命維持装置みたいなものも付けられているようです。」
ぶ「なんで、そんなことになっちゃったんだよ。」

 

サダさんについてお話をしておきましょう。

サダさんは、もともとうちの行員だったのですが、途中で取引先に転籍をされた方です。

もう普通の会社であれば定年退職をする年齢だったのですが、

その会社の会長さんから気に入られていたこともあり、しばらく在籍していたのです。

たまたまぶーすかが営業店でその会社を担当していた時に経理部長をやられていました。

7年にも渡る間、融資担当者と経理部長という間柄で・・・。

非常に真面目な方で、銀行の支店長経験者としては珍しく腰の低い方でした。

何回か飲みに行ったこともあり、サダさん行きつけのお店にも連れていってもらったこともありました。

ぶーすかの結婚式にも参加していただいています。

 

当時、会社に訪問してサダさんと話していると、こんな話をよく聞かされていました。

 

サ「いやぁ、もう普通の会社だと定年でしょ。」
ぶ「そうですよねぇ。」
サ「年配の人で定年退職していく人たちからすれば、なんで俺だけはいるんだ?ってなるよね。」
ぶ「まぁ、それはあるかもしれないですよね。」
サ「だから、そろそろ僕も身を引きたいと思っているんだよ。」
ぶ「でも身を引きたいといっても、会長が止めるでしょ。」
サ「ありがたいことではあるんだけどね。」
ぶ「まぁ、そりゃそうですね。」
サ「いいタイミングがないものかと・・・、周りにも悪いからな。」
ぶ「それは難しいですねぇ。」
サ「ほんとだね、ハハハ・・・。」

 

ぶーすかがその支店から本部に転勤した後、そのサダさんも会社を辞めました。

しかしながら、元気ということもあり、この春からうちの営業店でパートとして働いていたのです。

 

たまたま働いていらっしゃる営業店の支店長にメールをすることがあり、

支店に所属している名前を出したところ、サダさんの名前を見つけました。

(あれ?なんでここにいるんだ?)

ふとそう思い、その営業店にいた後藤さんに電話をしてみました。

 

ぶ「あっ。ぶーすかです。」
後「どうもご無沙汰してます。」
ぶ「だいぶ忙しいみたいだけど、頑張ってる?」
後「えぇ、なんとか。おかげさまで・・・。」
ぶ「でさ、ちょっと聞きたいんだけど、そこの支店にいる、サダさんて誰?行員?」
後「いえ、パートです。昔、うちの銀行にいらっしゃったらしいですよ。」
ぶ「やっぱりそうか。で、そこでは何をしているの?」
後「集金の手伝いをしてもらっているんですよ。」

 

昔は集金というのが結構あったのですが、いつの日か効率の悪い仕事として、

必要最低限のものだけを残して、今ではほとんど行っていないのが現状です。

最近では、さらに行員ではなく、パートでその業務を補っています。

 

ぶ「いやぁ昔支店にいた頃に取引先の経理部長さんでさ。」
後「そうなんですかぁ。いや、すごく腰の低い方ですよね。」
ぶ「そうだろ。そんで真面目だしなぁ。」
後「ですよねぇ。たまに検査の方とか来た時に、みなさんが挨拶していきますよ。」
ぶ「でしょ。まぁ支店長もやっていたしね。」
後「なんか偉かった人なのなのかぁと思ってました。」
ぶ「笑」
後「でも、僕みたいのなんかのどうでもいい人にも、すごく礼儀正しいんですよね。」
ぶ「あの人は偉ぶらないからね。」
後「ほんとですね。」
ぶ「でさ、今サダさんいるの?」
後「いや、今日は帰られました。夕方までしかいないんで。」
ぶ「そうなのか、よろしく伝えておいてよ。」
後「分かりました。」


後日何回か電話をしたのですが、時間が合わず話す機会が出来ませんでした。

そして3週間ほど前でしょうか、やっとタイミングがあったのです。

向こうからも電話はしたそうなのですが、こちらもほとんど打ち合わせでタイミングが合わず・・・。

さらに集金をしている訳ですから、外を回っていますしね。

で、話した時に・・・

 

ぶ「サダさん、ご無沙汰しています。」
サ「何回か電話をもらっていたみたいで、すいませんなぁ。」
ぶ「いえいえ、こちらこそ。この間、支店長にメールしようとしたら、サダさんの名前を見かけて。」
サ「そうなんだよ。4月からお世話になってるんだ。」
ぶ「いやぁ、知らなかったです。」
サ「ぶーすか君にも言っておかなくてはと思って、本店に行った時にお邪魔したんだけどいなくてね。」
ぶ「それは申し訳ないです。言っておいていただければ。」
サ「いやいや、ぶーすか君が忙しいのに邪魔をする訳にはいかないから。」
ぶ「なんか集金やっているんですって?」
サ「そうなんだよ。働かせてもらってるよ、もちろんパートだけどね。」
ぶ「知らなかったです。」
サ「まぁ一応9月までの契約でってことんなんだ。」
ぶ「そうなんですか。」
サ「ぶーすか君が落ち着くことはないんだろうけど、近いうちにまた飲みにでも行きましょうよ。」
ぶ「是非、行きたいですねぇ。」

 

これが、サダさんとの最期の会話でした。

そして、その後の知らせが、冒頭にある後藤さんからの電話だったのです。

自分の中でも頭の整理が付かないのが分かりました。

「あの人が交通事故なんて起こす訳がない・・・。」

話( 2 / 12 )

2.交通事故死という現実を受け止めて(2)

電話が来た時には、既にサダさんが危篤だという状態でかかってきました。

 

ぶ「なんで、そんな事故なんか起こしちゃったのよ・・・。自転車か?」
後「いえ、車です。」
ぶ「ぶつけられたのか?」
後「いえ、サダさんの方からぶつかってしまったようです。」
ぶ「サダさんの方からって、あの人は無茶な運転もしないだろうよ。
後「そうなんですけど・・・、なんか運転中にめまいがしちゃったみたいで・・・。」
ぶ「めまいがしたって、なんで分かるんだよ。」
後「事故直後は意識があったらしいんです。」


 

ぶ「で、今はどんな状態なんだよ。」
後「先ほど言ったように生命維持装置が付けられているようで、今日持つかどうかと・・・。」
ぶ「今日持つかどうかって、そんなに危ないのか?」
後「えぇ・・・。サダさんが、いつも僕と話す時に、ぶーすかさんの話を出していたので・・・。」
ぶ「そっかぁ。」
後「なので、ぶーすかさんには先に知らせておかないとと思いまして・・・。」
ぶ「悪いなぁ。」
後「そんなことは、ありません。ほんと、ぶーすかさんがっていつも言っていましたから。」

 


ぶ「しかし心配だねぇ。助かりそうにないのか??」
後「既に、お嬢さんも病院に着いているらしいんですけど、多分ダメだと・・・。」
ぶ「そうなのかぁ。」
後「良くても意識は戻らないらしいです、けど、その可能性もほとんどないそうですが・・・。」
ぶ「だし、どんな状況で起こしたのさ。」
後「集金に行く途中で、緩やかなカーブだったんですけど、そこで目眩がしたらしくて・・・、」
ぶ「うん。」
後「それで、中央線をはみ出してしまい、そこに正面から2トントラックが来たらしいんです。」
ぶ「うん。」
後「それで、正面衝突をしちゃったと・・・。」
ぶ「そっかぁ、可哀想になぁ。」
後「そうなんです。」

 

ぶーすかも運転するので、状況は容易に想像できます。

事故を起こした直後は意識があったということですから、

きっとサダさんの性格・・・、「申し訳ない」と相手に謝っていたに違いありません。

ぶーすかも以前、バイクに乗って車と衝突した時、痛みよりかカバンを心配したのでした。

声が出なくても、カバンだけは自分の手許に・・・。

救急車に乗った時に、脈拍数を図られながら、救急隊員から

「聞こえますか?カバンは、そばにあるから大丈夫ですよ。」

と言われたのを覚えています。

カバンを持って行かれたら大変だ・・・。きっとサダさんだって、そう思っていたに違いありません。

 

今の若い人はそんなことを思う人は少なくなっていますが、

カバンと自分の身体は常に繋がっていなくてはいけないという感覚があるのです。

ぶーすかと一緒に働いていた若い子なら、必ず「カバンと身体が繋がっていないじゃないか。」

と注意されているはずなのです。

 

続きを読む方は、ここをクリックしてからどうぞ。

話は戻りますが、

ぶ「2トントラックと軽自動車じゃ、どう見ても勝てないしなぁ。」
後「そうですね。」
ぶ「悪いけど、何かあったら連絡くれよ。」
後「分かりました。」
ぶ「ありがとうな、気を遣ってもらって・・・。」
後「いえいえ。」

 

そして、一晩が明けました。

 

会社に着くなり、気になっていたものですから、後藤さんに電話をかけたのでした。

 

ぶ「サダさん、どうした?」
後「残念ながら・・・。」
ぶ「亡くなったか?」
後「はい・・・。昨夜だそうです。」
ぶ「そっかぁ・・・・、助からなかったか。可哀想にな・・・。」

 

 

 

しばらくは、言葉も出ません。

 

ぶ「日取りとかは決まったのか?」
後「いえ、まだ何も決まっていないそうです。」
ぶ「決まったら教えてくれ。」
後「分かりました。」

 

車社会という大変な便利な時代に生きている自分たちですが、

最大の凶器ともなりうる車・・・。

安全運転だけでは、避けることのできないこともたくさんあるんですね。

後藤さんも、朝は「行ってらっしゃい」と声をかけたのに・・・

ご家族だって、当然ながら「行ってらっしゃい」と声をかけたはずなのに・・・、

 

命を落とすということは、どこで起こるか分かりません。

命あるぶーすか達は、それこそ1日1日を大切にしていかなくちゃいけないのだと痛感するのです

怒ろうが、愚痴を言おうが、笑おうが、八つ当たりしようが・・・・

「こんな仕事辛いなぁ。やってらんねぇなぁ。全くよぉ。」

言ってもいいことなんでしょうが、それって言えるだけ幸せなんですね。

 

サダさん・・・、きっとみんなの「ココロ」の中に残っていくでしょう。

誰かが言っていました。

「心」と漢字で書くより「ココロ」とカタカナで書くのが好きだって。

うまくは表せませんが、「ココロ」とカタカナで残すことが合っているような気がしました。

ご冥福をお祈りします。

話( 3 / 12 )

3.みんな、どこかで支えられている

正にサバイバルゲームと化したぶーすかの部・・・。また1人、戦線離脱をしました。

負荷がかかり過ぎていると思われるぶーすかの部ですが、それでも走らなくてはいけません。

たまたま今日の夕方のことですが、ぶーすかの同期が本部にやってきました。

自分の案件を持ち込みに来たそうで、食堂でその同期と話したのでした。

この時代、現場で働いている人も結構なプレッシャーの中で仕事をしているのは、

ぶーすかにとっても百も承知です。

そんな彼からぶーすかに対して色々と意見が出ました。

 

同期「どうなのよ、最近本部は・・・?」
ぶ「そうだねぇ、相変わらずの生活を送ってるよ。」
同「そっかぁ、いやさ、俺も色々と思うんだけどさ。」
ぶ「うん、どうかしたか?」
同「やっぱりさぁ、ぶーすかも含めて、本部は甘いよね。」
ぶ「どの辺が?」
同「どの辺というか、全般的にだよ。」
ぶ「具体的には、どんなところだ?」
同「現場の状況を理解できていないよ。」

 

ぶ「まぁ、確かに現場で働いているわけじゃないからな。」
同「だろ。その辺が判断基準がおかしいんだよ。」
ぶ「確かに本部だと色々とあってさ、お前の言うことも分からなくもないよ。」
同「俺が、ぶーすかのところにいたら、色々と変えられると思うんだよねぇ。」
ぶ「そうかなぁ。」
同「そうだよ。そうでもしてやんなくちゃ、営業店が可哀想だろ。」
ぶ「まぁ営業店が大変なのは分かってるけどさ。思うようにいかないのも本部の宿命よ。」
同「それは、ぶーすかの甘えだよ。」

 

個人的には、言われるのも仕方のないことだと思っている部分もあります。

事実、ぶーすかが営業店にいる時には、そういう風に思っていたのですから・・・。

本部業務というのは実に特殊で、営業店にいた時代には理解できないこともたくさんあります。

来てみなくては分からないこともたくさんあるのです。

 

「じゃぁ、お前が俺と入れ替わってやれるもんならやってみろよっ!」

 

決して口に出してはいけない言葉・・・。

営業店での仕事と本部での仕事の両方を経験して初めて分かるこの感触。

1つのものに対して、ゴーサインを出すには大変な労力を必要とします。

 

その同期が続けました。

同「俺なんかさぁ、周りの人間とか全然働かないじゃん。」
ぶ「へぇ・・・。」
同「結局、仕事とか俺に集中しちゃうんだよね。」
ぶ「そうなんだぁ。忙しいんだな。」
同「忙しいどころじゃないよ。普通の人じゃ、俺の仕事は回らないぜ。」
ぶ「すごいんだねぇ。」
同「でも、そういうのは周りの人間は分からないじゃんか。」
ぶ「ふぅん、そうなのかもしれないね。」
同「だからさ、ぶーすかなんか帰りは遅いかもしれないけど、やっぱり甘いんだと思うよ。」
ぶ「うぅん・・・、甘いねぇ・・・。」
同「そうだよ。現場では俺達みたいのが汗水たらしてやってあげてるんだぜ。」
ぶ「まぁ、それは否定しないよ。ぶーすか達は何も稼いでないからな。」

 

同「そうだろ。明日だって月末が近いから契約が続いて、てんてこまいだしさ。」
ぶ「そっかぁ、大変だな。」
同「だからさぁ、その辺を少し改善できるような策を講じないと。」
ぶ「そうだねぇ。なかなかうまくいっていないもんな。」
同「だからさ、帰りは遅いのもいいけど、少しは役に立つようにさ・・・、頼むよ。」
同「そっかぁ。まぁ、ほんと大変だな。身体を気を付けてくれよ。」

 

色々と話した後に、自分の部に戻りました。

しばらくしてから、辺りを見回したのですが、みんな黙々と仕事をしています。

それを見て思ったのでした。

ぶーすかの部って、まるで池で泳ぐカモみたいだなと・・・。

 

どういうことかと言うと、池で泳いでいるカモって、なんとなくスイスイと泳いでいるように見えます。

しかし、よくその水面下を見てみると、カモの足って、

ありったけの力で必死にバシャバシャと動いているんですよね。

水面から出ている身体は、そんなに動いてはいませんが、

水面下にある足だけは全く落着きがないのです。

 

ふと自分の席に着くまでにいる、ぶーすかの部の皆さんの仕事に対する姿勢をみて感じたのでした。

どんな係にせよ、声を大にして「やってられませんよ。」と言いたいんだろうなぁと・・・。

チームで打ち合わせをしている様子を見ても、営業店の担当者には決して映ることのない姿なんだと。

自分を誇示してはいけません。


強い口調で話すぶーすかの同期だって、そんな本部の人たちが見えないところで、

苦労してくれているからこそ活動出来ているんだと考えてほしいものですね。

 

部内で、ある人と言葉を交わしました。

「結果が形となって見えない自分たちの仕事って、ほんと達成感が感じられませんよね。」

営業店にいた頃、ノルマを与えられて獲得するごとに、自分のノルマに対して

実績を色で塗りつぶして、全部塗れば達成ですみたいなことをしていました。

それとは180度も270度も変わってしまった本部業務・・・。

「結果が形として見えない仕事」という言葉に強烈な協調感を覚えたのは言うまでもありません。


みんな、どこかで支えられているんですよ。


是非、心のどこかで意識しておきたいものです。

kobat
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