算命学余話 #G104

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算命学余話 #G104 (page 1)

 今回の余話は「印」の話です。
 先日「アート・シンキング・フォーラム」なるシンポジウムを聴講する機会がありました。会場は大手町で、対象は企業人。利益第一主義の産業界がとかく殺風景で味気なく、中には心を病んで休職・退職する社員も少なくない昨今、産業界にアートを導入して創造性を豊かにし、個人から社会までを明るく活性化させようという思想や取組みを紹介・議論する催しでした。
 アーティストでもなく企業人でもない私には、このテーマの議論は企業人相手ではなく、学生や言論人を相手にするべきではないかと思ったくらい、やや浮世離れした、おめでたい感じのフォーラムでした。要するにピンと来なくて、感銘を受けなかった。どうして感銘がなかったかを考えるに、最終的には「印」に落ち着きました。

 まず、アートという言葉。これは既にカナカナの日本語になってはいますが、それはアートの対訳が日本語にはないからです。対訳がないということは、概念がないということです。従ってカタカナの「アート」と欧米の「アート」では、概念の捉え方自体にズレがある。「アート・シンキング」という発想も日本のものではありません。登壇者らは「アート×創造」を掲げ、もっとアートを社会全体に作用させれば、営利目的の分野にも刺激となって新たな創造が期待できる、といった提唱をするのですが、欧米風の頭でない日本的な聴講者には、アートは好事家のお遊び的イメージが強く、心を病むほどシビアな企業活動とはなかなか結び付きません。登壇者はこの「なかなか結び付かないからやらない」日本的な凝り固まった思考を打破して、もっと柔軟で快適で豊かな社会の営みへと変革しよう、と力説します。

 言いたいことは判ります。しかし、ロシア色を帯びてはいても欧米色に染まってはいない日本の頭の私は、アートには既に「創造」が含まれているのだから、どうせ論じるなら「アート×哲学(思想・商業哲学)」なのでは、と思いましたし、登壇者には気の毒ですが、要するに社会にもっとアートを入れろという、アート関係者である登壇者たちによる押し売りに聞こえました。なにより「もっと自己表現を」的な話が多かったのが気に食わなかった。ひと昔前は「もっと個性を」とか叫ばれていたのを思い出し、今は叫ばれていないことを考えると、あれと同レベルの、単に字面のいい流行語ではないのか。つまり普遍的な価値のある発想ではないように感じました。
 創るのは大いに結構ですし、自己表現も否定はしませんが、算命学ではそれは「寿」の範疇であり、寿の発露が良質となるその前提には「印」が必要です。知性を論じずに表現だけに着目しても、一時の流行で終わるような空虚な創造物しか生み出しません。

 なぜこのフォーラムを引き合いに出したかと言うと、実は登壇者のひとりに落合陽一氏がいて、この人だけが「印」を前提としたアートを語っていたからです。勿論落合氏は算命学なんて知らないでしょうし、「表現(寿)の根底には知性(印)が不可欠だ」などと明確な発言をしたわけでもありません。しかし彼だけが、今を生きる我々の活動が過去や歴史といった時間の積み重ねの上に成り立っているのであり、そうした積み重ねを視野に入れた活動や彼流の「面白み」について言及していたのです。私は日頃から落合氏の思想には感銘を受けていましたが、それは彼の思考や生き方そのものが「印」を具現しているからだと、この時も得心しました。
 それに引きかえ、他の登壇者はしきりに「未来」を強調するのですが、未来は「寿」の司る所であり、過去を司る「印」とは遠いので、話に重層性が備わらず、残念ですが知性のない表現の話に終始して聞こえました。(「フューチャリスト」という肩書の人がいました。)「インスパイア」も連発していましたね。何がそんなにインスパイアにときめくのか。日本語にないカタカナ英語の響きのせいでしょうか? 積み重ねも何もない更地にどんなインスパイアもあり得ないと、私は意地悪く思って聴いていました。また「創造性を取り戻す」という日本人に向けられたスローガンも、アートや創造をしているという自負のある発言者からの上から目線に聞こえて、同意しかねました。まあ、従来アーティストといった人々は社会の端に追いやられる傾向があったから、この機をとらえて巻き返したいのは判りますが、こういう態度では社会は共感してついてきてくれはしないでしょう。
 それでも最後に司会者が、「自分が影響を与えうる未来について考えること。他人事ではない未来や周囲や社会にアート的な柔軟性を以って関わること」といったまとめ方をしていて、どうにか形になった感じでした。そもそも無理のあるテーマと会場だったように、私には思われます。

 さて前段が長くなりましたが、ここからの本論は印についてです。八相印局については『算命学余話#U110「印局の諦念と達観」』で、金白水清については『算命学余話#U57「金白水清と木秀火明」』で既に解説済みなのでそちらを参照下さい。今回は、実生活における印や八相印局の様相、金白水清の印にかかる発現・見分け方について論じてみます。
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