「生き方」を説き続けて32年、今年75歳を迎えた田中真澄さんの定期講演会。
第9回「田中真澄の世直し説法」より収録。
東日本大震災、それに続く原発事故、台風被害、欧米でのデモ騒乱、トルコの地震と暗いニュースが続いています。
こうした時代をどう生きたらいいのか、明治維新を成し遂げた西郷隆盛は次の言葉を挙げています。
一灯を提げて暗夜を行く
暗夜を憂うるなかれ
ただ一灯を頼め(佐藤一斎)
一灯とは「生き方」「道筋」です。私たちはともすれば知識、技術だけに目を奪われがちですが、大切なのは、そのいずれでもない「生き方」なのです。
「知は情に従う」と言います。
人類誕生から500万年の歴史がありますが、生物誕生の3億年の歴史の中では、わずか60分の1に過ぎません。爬虫類の脳と言われる古皮質に感情は存在します。人もまた動物として古皮質=情を根底に誕生してきたのです。知識や技術に対して、情こそが「生き方」のバックボーンです。
そこで大切になるのが、表情、動作、姿勢といった「振り」です。この大切さにぜひ気づいていただきたいと思います。
私自身が社会教育家として独立して以来、パッと飛んでいく、誠心誠意お話するという姿勢で、今日までいっぱいの仕事をいただいています。情で成功してきたと言って過言ではありません。
便利屋を立ち上げた右近勝吉さんは、人に寄り添うことで月収300万円を稼ぎ出しました。「大変でしたねぇ」と、話を聞くだけで、専門性は必要とせず、事業を成功させてきたこと、情が大切なことが、『平凡な私が月300万円を稼ぐ7つの理由』といった書籍や、映画『ふうけもん』などに描かれています。
人生の基本は終身現役
スウェーデンは幸福を「次々と目標を達成しながら、懸命に働き続けること」と定義しています。人生100年の時代、60歳までは所属価値、次の40年は存在価値で生きるべきです。定年+余生=人生の時代は終わりました。
所属価値とは、組織に属して生きること、存在価値とは、何が得意か、何ができるか、何がしたいかを考え、オンリーワンの個業主として生きることです。自身でするまでもないことは、どんどんアウトソーシング=他者に任せることをすればよいのです。
事業主になるにあたって、みなさんが心配するのは倒産のリスクですが、倒産回避の方法は老舗に学ぶとよいでしょう。幸い、日本は創立200年以上の老舗が314
6社もある老舗大国です。そうした老舗のひとつが「越中富山の薬売り」、世帯所得全国一の富山県にあります。ちなみに富山県は日経新聞の購読率も日本一でした。
「越中富山の薬売り」、ここに人生の秘訣が伝えられています。
楽すれば楽が邪魔して
楽ならず
楽せぬ楽がはるか楽楽
楽が7回出てくることから、七楽の教えと言われます。
儲かる仕事より楽しい仕事をしてください。サラリーマン時代から、早朝、深夜、週末労働など、人が嫌がる仕事を楽しんでする練習をすることです。
たとえばクレーム処理はストレスの高い嫌な仕事です。私も日経BP時代にクレーム処理を経験しました。この経験は力になり、生きる知恵になって、その後の私を支えています。
そして、仕事の基本は厚遇サービス精神です。相手が困っていること、望んでいることを迅速に解決することであり、年中無休、24時間対応の気持ちが、良客を惹きつけることになります。
能力の基本は「情」、すなわち「心構え」が80%、知識10%、技術10%です。心構えとは心を作る習慣、ふだんの行動や考え方が大切です。当たり前の習慣を徹底的に磨くことに尽きます。
人生は今日が始まりです。前向き、元気に、明るくを実践していってください。
※最新刊『正社員削減時代をどう生きる』に、今回の講演の実践内容を詳細に書かれていますので、講演録はダイジェスト紹介とします。
【たなか ますみ】
昭和11年(1936年)福岡県出身。東京教育大学(現・筑波大学)卒業。日本経済新聞社、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)を経て、昭和54年(1979年)独立。ヒューマンスキル研究所を設立、所長に就任。以来31年間、社会教育家として講演・執筆に活躍中。