中学受験、成功する親、失敗する親

まえがき( 1 / 1 )

まえがき

 近年中学受験の受験者数は減少を始めています。2007年がピークで、リーマンショック後、公開模擬試験の受験者数も逓減していて、2012年度の受験生はやはり若干少なめ。また今年の進学塾の4年生募集を聞いていますと、決して多くはない。したがって中学受験はこれから、冬の時代に入っていくのではないかと思われます。 

 ただ、過去にもこういう上下動はあり、加熱したかと思うと、また少なくなりという繰り返しです。一方で上位校の倍率は3倍程度で毎年、大きな変化はありません。したがって中学受験は今後もある程度の層が、ある程度の学校の入学を競うという形が続くものと思います。特に関西の中学受験はそうですね。関西の場合、関東ほど学校が多くないこともあり、受験の中心は高校受験です。しかし灘をはじめとする私立中高一貫校の受験はなかなか熾烈です。これは塾の競争も同じで、ある程度決まったランクの生徒の獲得にしのぎを削っています。

 高校、大学が全入時代を迎えることを考えると、中学受験の競争はまだまだ厳しい状況が続くでしょう。関東でいえば、結局のところ小学6年生の20%だけが受験しており、その3分の2は偏差値55以上の学校を狙っているので、それなりの厳しさは全体の受験者数が減少したとしても、あまり変わりません。その厳しさを考えるならば高校受験でもいいのではないかと考えられる方も多いでしょう。

 しかしながら、高校受験は実はもうすでに公立と大学一貫校しか残っていない、と言っても過言ではないでしょう。多くの私立高校は中学を併設して、一貫教育を実践しています。したがって、高校受験はどちらかといえば公立高校受験にシフトしています。実際に公立高校受験の塾は、比較的、順調に生徒を集めています。ところがここにも落とし穴があります。公立高校の中で格差が広がっているからです。

 地域の1番手、2番手ぐらいしか、上位の大学受験に向いてはいないといっても過言ではないかもしれません。例えば大阪府では、府立高校10校を特別校として独自入試を始めました。(逆に神奈川の県立は独自入試をやめてしまいそうですが。)そうなると中学受験をやめても、高校受験である程度がんばらないと大学受験までたどり着かない。だからどこかでがんばらなければいけないのです。

 私はこれまで中学受験をずっとお勧めしてきました。それは今後も変わらないだろうと思います。なぜなら中学受験は保護者と子どもがひとつになって進めなければなりません。したがって保護者が受験にともなうデメリットをある程度、カバーしてあげることができます。中学受験をしないと、高校受験、大学受験と3年おきに受験が待っていることになります。じっくりと部活動をする余裕がないかもしれません。中高一貫であれば6年間というまとまった時間がありますので、将来を考えるにおいてもじっくり時間を使うことができるでしょう。 

 ただ、高校受験がだめなのかといえば、そんなことは全くありません。全国レベルで見れば、圧倒的に高校受験の割合が高いのです。高校受験は高校受験でやり方があります。ただ、チャンスがあるならば、まず中学受験を考えてみられた方が良いと私は思うのです。 

 中学受験では、保護者のかかわり方が非常に重要です。したがって成功例をたくさん聞かれたことがあるかと思います。ところがなぜ失敗したのか、ということはなかなか目にすることができないでしょう。実際、人に聞くこともむずかしいでしょうから。そこで今回は「中学受験、成功する親、失敗する親」と題して、お話を進めていきたいと思います。今後、保護者のみなさんに上手に子どもたちを引っ張って行っていただければうれしいです。

 現在田中貴.com(http://tanakatakashi.com)というサイトでも引き続きお話を続けています。こちらもご参考になさってください。お役に立てば幸いです。

第一章 苛烈な中学受験( 1 / 5 )

高望みの傾向

 ここ数年の入試で男子は、偏差値55以上の学校に3分の2の生徒が出願しています。もともと中学受験は子どもたちが自分の学力で受ける最初の入学試験ということもあり、どうしても高望み傾向が出てくるのですが、その状況は変わっていません。というよりは、最近はさらに拍車がかかってきたかもしれません。男子の場合は学校の数も女子に比べて少ないし、だめなら高校受験という考えもあるからでしょう。

 しかし、例えば合格可能性が20%だったとして、受験するかどうかは悩ましいところです。

 というのも入試に20%の合格というのはありえない。合格か、不合格か、それだけです。したがって単純に確率の問題で考えれば、5人に1人は受かることになるわけだから、その1人になるのか、それとも落ちる4人に入るのか、ということになります。

 関東の入試では慶應中等部が2月3日に動いてから、2月1日から3日までの3日間入試という色合いが強くなりました。その貴重な1日に対してとるリスクとしては確かに高いと言えるかもしれません。が、一方で最初から狙って、学校別対策までやってくると、直前に落とすということはなかなかしんどい部分もあります。

 私は前から第一志望は変えず、安全圏はきっちり数字通り、というお話しをしてきました。

 中学受験の場合、保護者のみなさんにも夢があるし、どうしても志望は高くなるでしょう。それ自体は大きな問題ではありません。狙うところは狙う、押さえるところは押さえる、メリハリがしっかりしていればそれでいいのです。ただ第一志望に引きずられてしまって全部、実力以上の学校を受けてしまうことはあまり感心しません。

 中学受験は短期決戦ですから、ある意味勢いが大事です。しかも受験しているのは12歳の子どもたちですから、精神的にタフではありません。不合格が続けば、本人の力が出ないケースが考えられますし、逆に勢いがついてしまえば、波に乗って実力以上の力を発揮してくれることもあるでしょう。だから本当は2月1日から3日までの間に必ず1校は合格することを考えておかないと戦略としては失敗です。例えば1月校で、行きたい学校に入ってしまえば、これはこれで勝負という面も出てくるでしょうが、そうでない限り自分の実力以上の学校ばかりを受けるということは良い選択とは言えません。

 もちろん受験する学校にはご家庭なりの考え方があるでしょう。あるレベルの学校以上しか受けない、もしだめなら公立に進めばいい ― これもひとつの考え方です。本人を含めてそういう考え方で臨むのであれば、それはそれで良いと思います。

 問題は、受験しているうちにだんだん子どもがかわいそうになってくるご家庭のケースです。あわてて受験できる学校を探してみる。でもその学校の対策をしているわけでもないし、本人もがっかりしているのでなかなか合格できない。かえって自信をなくしてしまうかもしれません。これはあまり良い受験法とはいえないでしょう。

 それにあまり知らない学校に入った後、その学校のことがいやでまた高校受験に回る子どもたちも少なくありません。一時の感情に左右されるよりは、最初からのプランを押し通した方が最終的には良いということが多いようです。

 だから事前の準備が非常に大切なのです。

 受験校の選択については保護者の判断が非常に重要になります。止めるべきはしっかり止めるべきだし、狙うところはしっかり狙っていい。その意味で、中学受験は親と子がいっしょにがんばらなければいけない受験であり、実際の結果もその良し悪しで大きく左右されるといって良いでしょう。

第一章 苛烈な中学受験( 2 / 5 )

僅差の勝負

 競争率が上がるということは、それだけ僅差の勝負になります。最近の入試でいえば、併願校を考えるにあたって、安全圏を考える保護者の方が多かったので、中堅校の競争率が上がりました。今までの入試ではその学校をあまり受けなかった上位層が受験することになったのです。特に2月2日以降の学校ではこの現象が顕著でした。その結果、合格ラインにはこれまでだったら上位で悠々合格できた子どもたちが並びました。結果ほんのわずかの差で合否が分かれたのです。

 つまり、1問の計算間違い、ちょっとした問題の読み違いをしてしまったために、合格ラインに届かなかった子どもたちが少なくないのです。これまで上位校でしか見られなかった現象が、中堅校へ広がってきています。したがって、中学受験の対策としてこの僅差の勝負をどう制すかという課題が出てきます。

 私が受験準備の中で一番重要なのは「ていねいさ」だとお話しているのは、このためです。いかにミスを少なくするか、ということを特に受験前には考えていかなければなりません。1点で10人、20人すぐ変わってしまうのです。そして当たり前ですが合格ライン付近には多くの受験生が集中しています。ここを突破するために、ていねいな勉強は不可欠なのです。

 合格ラインに1点不足するだけで補欠になってしまいます。補欠になれば、合格が回ってくる場合もそうでない場合もあるわけですから、あまり精神的に良いものではありません。

 さて、ていねいに勉強する具体的な方法として、いくつかあげてみましょう。

1)問題文の条件に下線を引く。
 ただ下線を引くだけでは不十分で、解答を書く前にその条件を確認する作業が必要です。時速なのか、分速なのか。リットルなのかデシリットルなのか、条件を確認しましょう。

2)計算、式を残す
 途中でこちょこちょこと書いていくと、答えが合わなくなったときに、また最初からやり直しになります。しかし、過程を書いていれば、確認して進めますから、途中で間違いを発見できます。これがなかなか難しい。特に男の子はそうです。ですから、毎日解いている段階から、式や計算を残すということはくせにしておくべきでしょう。できる子どもたちもミスをしないわけではありません。ただ、自分でミスを発見できるから、最終的に正解にたどり着くのです。この違いが合否を分ける差といってもいいでしょう。

3)字をていねいに書く
 自分の字を見間違えて、ミスをするということもありますし、0と書いたつもりが、採点者には6と見えて間違う場合もあります。入試は答案が戻ってきません。したがって「これは0です。」と主張することはできません。誰がみても0だという字を書かなければならないのです。子どもたちの答案を見ていますと、まだまだ汚い答案が多いもの。模擬試験を受けながら、そういうところから練習する気持ちが必要でしょう。

第一章 苛烈な中学受験( 3 / 5 )

学校はブランドで選ばない

 学校選択にも流行があります。最近は、大学受験の面倒を良く見てくれる学校に人気があります。中学、高校は反抗期でもありますから、なるべく学校がいろいろな面倒を見てくれるところが良いと、保護者のみなさんが考えるからでしょうか。しかし以前はブランドとして聞こえの良い学校に人気が集まっていました。麻布、開成、駒場東邦、桜蔭、女子学院、雙葉、慶應、早稲田などはもちろんですが、学校がどこにあるかということも大きく影響するようです。そのために学校名に響きの良い地名を加えて改名する学校も出てきました。田園調布学園(前校名・調布学園)や広尾学園(同・順心女子)などはその例でしょう。また高輪(高輪駅)や渋谷学園渋谷(原宿駅)など都心にある学校もなかなか人気があります。交通の便が良くなって、人気が出てきたところもあります。私立は生徒が集まらなければ経営が成り立たないので、募集に関してもいろいろな手を考えます。学校のイメージを良くするという意味では建物にも力が入っています。食堂を完備して食べ盛りの生徒たちが十分に満足できるように気を遣っています。お母さんもお弁当を作らなくても済むので喜ばれているようです。

 受験する学校の内容については、十分に調べておく必要があるでしょう。例えば、実際にその学校の英語の授業は何をやっているのか、知らないで入れてしまう方が多いのではないでしょうか。もちろん各校とも教科や指導内容の充実には力を入れていますし、土曜日に授業をやる学校の方が多いでしょう。しかしその内容はやはり学校によって違いがあります。

 英語に力を入れている学校は多くなりました。例えばプログレスという特別な教科書を使っている学校も少なくありません。ただプログレスはすぐ過去形が始まるなど、独特なカリキュラムになっている分、文法がわかりにくくなる傾向があります。その点を学校側が理解して、別に文法の授業を行っていれば良いのですが、そうでない場合は、かえって英語が不得意になる可能性があります。

 また独自の教科書やシラバス(講義予定表)で進んでいく学校もあります。英語ではアメリカやイギリスの教科書を使う先生もいますから、進んでいくうちに英語がわからなくなったという生徒も出てきます。オリジナルの教科書を使っているところもあります。ある学校のオリジナル教科書には解答がついていません。もちろん授業で先生が解説をしてくれるので、その授業をきちんと聞いていれば、問題はないのです。ところがそれを聞いていないと、期末試験では大変苦労します。学校は自分で問題を解決すべきだと考えています。私はこの考え方はとても良いと思います。しかし、ただ甘やかして、親がいろいろなことをしてあげた子どもにとっては大変つらい学校になるでしょう。そのことに親が気づいていなければならないのです。

 学校がブランド化するにつれて、その学校をただ「良い学校」だと思い込んでしまう傾向が親子ともに見られるようです。しかし、せっかく合格したにもかかわらず途中でやめてしまった子もいます。ただブランドにあこがれていただけで、本当に通う学校としてしっかり検討されていなかったのかもしれませんね。

 ですから、学校をブランドとしてみるのではなく、子どもを通わせていいのか、本当に自分の子どもに合うのかをしっかり考えておくべきでしょう。

田中 貴
作家:田中 貴
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