中学受験、合格して失敗する子、不合格でも成功する子

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第一章 どうして中学受験をするの?( 3 / 5 )

(3)教育方針

 慶応幼稚舎が以前出していた募集要項に、入学試験に対する幼稚舎の考え方が説明されていました。その中で「うちの子どもをとらないような学校なら大した学校ではないとどうして考えられないのでしょうか」という一節がありました。この考え方は非常に大切だと私は思うのです。

 本来受験勉強とは、子どもがよりよい教育環境の中で育つ目的で準備するものです。したがって結果として、子どもの教育にプラスにならなければ意味がないし、また準備する過程も教育的なものでなければいけません。しかし結果を急ぐあまり、いろいろな無理が横行しはじめると、子どもに好ましくない影響がでる場合があります。したがってそれを防ぐためにも、我が家の教育理念のような基本的な方針を、親としてしっかり持っておかなければなりません。

 例えば思いやりのある子どもにしようとか、いろいろなことに積極的に挑戦できるような子どもに育てようとか、自主性のある子どもに育ってほしいとか、そういうことはどなたも考えることだと思います。ところが、こうした「理想の子ども像」の育成を望みながらも、一方で受験のことにとらわれ、子どもに勉強を無理強いする場合が少なくありません。

 しかしただ合格させるという目的のために、これらの教育方針を曲げる必要はないと思います。いろいろなことに挑戦できるようにしようと思えば、おけいこごとも大切な教育の場になります。ところが進学塾に通うために、それをすべてやめてしまうことは本当に必要なことでしょうか。もちろん受験勉強のために時間が必要なことは事実ですが、すべてを犠牲にすることはないはずです。  

 また、他の人としっかりコミュニケーションを図れる力というのも、子どもの教育の上では大切です。そして子どもは、この能力を遊ぶことによって身につけていきます。子どもを遊ばせるということはとても大切なことなのですが、受験生が遊んでいると親は腹が立ってきます。これもどこかおかしいのです。

 以前私が担当した6年生の男の子がいました。志望校はお父さんが卒業した学校。そこに弟さんは小学校から入っているので、お母さんとしても何とかと思っておられました。しかし、成績はなかなか上がらず、私どもにお越しいただいたわけです。

 私は、彼を見ていて、自信のなさを感じていました。何をやるにつけても、彼に不安感がつきまとっています。本当は力があるのに、精神的に負けているようなそんな印象を受けました。私はお母さんに、面接時間をいただいて、こんな提案をしました。

「お母さん、彼、剣道をやりませんか?お近くに剣道の道場がありませんか?」

 進学塾の先生に、剣道をやれと勧められたお母さんもびっくりされたと思うのですが、私の意をくんでいただいて、彼も納得して週2回剣道に通い始めました。

  ある日、彼に
「どう、剣道は」
とたずねると、彼はニコニコしながら、こう答えてくれました。
「あのね、僕のメンでもけっこう痛いんだって!」

 彼は初心者なので、小学校の低学年といっしょに練習していました。とはいってももう6年生ですから、彼がメンを打つと、小学校低学年の子には痛いでしょう。でもそれが、結構本人の自信になっていったのです。

 彼は、やがて自信を持ち始め、成績も上がっていきました。剣道の時間は勉強できませんが、その分彼は自分の器を大きくしていったのです。

 我が家としては子どもはこう育てたい、そのためにはこういうことをさせたい、こういう考えは親としてしっかりもつべきです。そしてその方針に従って家庭教育をまず充実させることです。その上で他の教育の機会を与えるべきなのです。我が家の教育理念を変えてまで何かをさせようとするとき、同時に何かを得る機会を失わせているということに親は気づいていなければなりません。

第一章 どうして中学受験をするの?( 4 / 5 )

(4)プラスイメージ

  プラスイメージは成功の近道とよく言われます。これはずいぶん前からいろいろな人たちが説明していますが、子どもたちのようすをみても、これはあてはまるようです。

 なぜプラスイメージが良いのかといえば、成長に必要なやる気と自信が引き出されてくるからでしょう。例えばテストがかえってきて成績が悪く、合格可能性が30%だったとしても、いろいろプラスには考えられます。これが本番でなくてよかったな、とか、今のうちにできないところがはっきりして良かったとか、ものは考えようです。そしてそういうふうに考えられる子どもは、たいてい勉強しようという動機づけはできていますし、プラスに考えられるということは、自分に多少自信があるのです。そして自分がはっきりこうしたいという方向が決まっていますから、そこへ向かってがんばろうという気持ちはよりいっそう充実しているのです。

 ずいぶん前の話ですが、入試会場に応援に行った時のことです。みんな、殊勝に握手していくのですが、後ろから私をどついた子がいました。振り返ると、満面の笑みをうかべて

「受かってくるからな」

と言い残して、校門に消えていきました。後ろからお母さんが恥ずかしそうに追っていかれました。この子は決して成績の良い子ではありませんでした。合格ぎりぎりで最後までその学校を受けるか、お母さんは悩んでいました。けれども本人は他の学校を受ける気など毛頭ありません。「絶対に合格する」の一点ばりでした。私はお母さんに、

「お母さん、いいじゃないですか。この子にとっては最初の受験だし、ここまで受けたいといっていますから、他の学校を受けてもし受かったとしても、きっと後悔するだけでしょう。もうここまで来たのだから、あの子のガッツにかけましょう」
とお話して、結局本人の希望とおりの受験となったのです。  

 で、結果は合格でした。しかし、おもしろいもので、本人が第一志望の学校のみ合格して、後は落ちました。塾としてはちょっとひやひやものなのですが、何校合格しても行く学校はひとつですから、本人としてはこれでOKなのです。

  子どものうちは、比較的自分の希望をストレートに表しやすいと思います。中学受験、高校受験、大学受験と年齢があがるにつれて、本人も客観的なデーターを理解するあまり、あまりこんな番狂わせ?が起こらなくなります。大学受験生に向かって、大丈夫だから受けてごらんといっても、

「先生、何いってんの。これはやはり無理でしょう」
といいます。ところが小学生は
「先生、やっぱり僕のことわかってくれてた?」
とニコニコします。

 私はそういう意味で、子どもの教育においてプラスイメージはすごく大事だと思うのです。多少なりとも、自信を持ってくれたほうが、いろいろとありがたいのです。結果も良くなるし、やはり人間の可能性を広げてくれるという意味においても、積極的で明るい方が良いのです。

 ところが、お母さんは一般的にいうとマイナスイメージの方が多いのです。ちょっとご自分のことを振り返ってみられると良いと思うのですが、ああなったらどうしよう、こうなったらどうしようと心配される方が多いと思います。そして困るのは、これが子どもに伝染してしまうことです。心配症のお母さんの子どもは、やはり臆病なことが多いようです。ですからこれはぜひ変えていただきたいと思います。

 ではどうすればプラスイメージをもてるのでしょうか。これは実はとても簡単なことなのです。プラスイメージをもつことを選択すればよいのです。

「でも、わたしはつい、くよくよ、心配してしまって」

と、おっしゃるお母さんはいますが、それは選択していないだけのことです。プラスイメージをもとう、いいことだけを考えようとすれば、そうなれます。

 そしてこれが大切なことですが、お母さんがプラスイメージをもつと、子どももプラスイメージをもつようになります。

「うちの子は先生、いい子なんです」

というお母さんのお子さんは本当にみんな良い子です。

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田中 貴
作家:田中 貴
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