もう一つのアリとキリギリス

もう一つのアリとキリギリス

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 とうとう冬がやってきました。夏の間、歌を歌って遊んでばかりだったキリギリスたちは食べ物がなくなって困っていました。

「アリさんのところへなにか食べ物をもらいにいこう」
 と、一匹のキリギリスが言いました。
「そりゃあ、だめだろう」
 と、別のキリギリスが悲しそうに首を振ります。
「働いてばかりのアリさんたちに、せっかくの夏を楽しまないなんてバカだねっていっちゃったもん」

「たしかに素晴らしい夏だったよねえ」
「いっぱい遊んだ」
「いっぱい歌った」
「いっぱい踊った」

「でも、夏の間アリさんはずっと働いてばかりだったなあ」
「ちょっとうっとうしかったもの」
「そうだよね」
「ついバカにしちゃった」
「怒っているだろうね、アリさんたち」
「私だったら怒るよ」
「ああ、おなかがすいた」
「寒くなったしねえ」


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 そのとき。
「あ、雪だ……」

「あのさ、わたしたちってアリさんたちのように働くなんてできないよね」
「うん、できない」
「歌って踊ることしかできないんだ」
「そうさ、歌って踊るの大好きだもん、私たち!」
「こつこつアリさんたちのように働くってむかないよね、性格的に……」
「だったら、踊ろうよ、歌おうよ」
「そうだな」
「そうだよ」
「最後かもしれないけどぱあっといこうよ!」
 開き直ったキリギリスたちは最後の元気を絞り出して歌い始めました。

 雪の中、キリギリスたちは歌って踊ってすっかり元気になってきました。
「楽しかった」
「とっても!」
 でも、そのとき一匹のキリギリスが突然力つきて倒れてしまいました。
「いよいよおしまいかな、私たち」
「ああ、もう最後なのかなあ」
 と、みんなががっくりしていると、
「あれ、あそこにいるのアリさんじゃない」
 と、一匹のキリギリスが気がつきました。
「あ、三、四匹ほどアリさんがいるよ」



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「どうしたんだろう」
「あ、手招きしている」
「ほんとだ、手招きしている」
 
 実はアリさんたちは、冬になって働かなくなって穴の中で退屈していたのです。そのうち、ささいなことでけんかさえするようになっていました。そんなとき、キリギリスたちの歌声が聞こえたので懐かしくなって穴の外へ出たのでした。
 アリさんたちはキリギリスたちの歌と踊りですっかり楽しくなりました。そして、もっと観たくなったので、キリギリスたちに食べ物をあげたくなったのでした。

 こうしてアリとキリギリスは楽しくなかよく冬を越すことができました。

 おしまい

倖和(サチナゴム)
もう一つのアリとキリギリス
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