柴ちゃんは、事故で、利き腕の右腕が、不自由な身体障害者です。
そんな、不遇な境遇ながら、明るい性格の柴ちゃんを嫌う人は、誰もいません。
そんな、柴ちゃんが、ある日お酒を飲んだのか酔っ払って、昔の話をしてくれました。
「俺はね。俺が、もし、体を壊しても大丈夫なようにね、昔、美容師の嫁さんを貰って女の子が生まれたんだけど。その娘がね。今年、結婚するの。」と。
娘さんから送られてきた写真も見せてくれました。
写真を見たある者は、
「凄く美人だね。柴ちゃんに全然、似ていない。」
ある者は、「誰の娘?」
ある者は、「俺に紹介してくれ。」
と。冗談交じりに言いたい放題のことを言ってからかっていました。柴ちゃんは、本当に俺の娘だよー。お前らに紹介できる訳ないでしょ。本当に結婚するのだから。と。珍しく怒った口調で言いました。
皆で、それならそれで、良かったねー。めでたい日だねー。と、口調を揃えて言うと、
「娘さんの結婚式のスピーチにお手紙書こうよ。」と看護婦さんが、言いました。」
「いいね。それ。書こう。書こう。」
と私が、柴ちゃんに勧めると。
「でも、俺の腕じゃ、字がかけないから。」と柴ちゃんは、右腕を眺めました。
「そっかー。柴ちゃん、書きたくても、書けないもんね。」なんて暗いこと言ってないで、書いちゃおうぜ!!!」
と。その場は、私が、押し切り、とうとう柴ちゃんは、結婚を控えた娘さんに手紙を書くことになったのです。
柴ちゃんが熟考するなか、「あーでもない。」「こーでもない。」と口をはさみ続け構想3日、ついに、
柴ちゃん作(校正柴ちゃんの愉快な仲間達)
『この度、結婚する娘へ』
は、無事完成したのでした。原文の内容は、
[A子、お父さんが、こうして事故にあってからは、貴女のことは、ほとんど、お母さんにまかせっきりに、なってしまって、本当にすみませんでした。
父親らしいこともほとんど出来ませんでしたが、貴女がこんなに素敵な女性に育ち、こんな日が、訪れてくれたことを、本当に幸せに思います。~中略~
お父さんは、貴女が無事生まれてきてくれて、何より貴女に出会えたことが、お父さんにとっては、幸せなことでした。
幸せな家庭を作って行ってください。
おとうさんより]
と決定した。
はじめは、冗談交じりに、横から口を挟んでいた愉快な仲間達も、看護婦さんも私も、勿論、柴ちゃんも
泣き出しそうであった。
そして、手紙を正書するさい
「これ、汚い字でいいから、柴ちゃんが書こうよ。」と私が、言うと、
柴ちゃんは書き写した。 動かない手で・・・・。
東京に住む、娘さんに手紙を郵送した数ヵ月後
「あれ、届いたかなあ?きっと喜んでくれたよね。
と皆で、話していると、私達と同じく、感動し、結婚式で泣いてくれたと言う娘さんが、
「なんと、面会にきてくれたのだ。」
父の姿を見、汚すぎる字のわけを知った娘さんは、また、泣いていた。
それなのに この間、子供の日だったから、「鎧兜かってあげたんだ。」
なんて幸せそうにいう、柴ちゃんは、世界一幸せな障害者なのかもしれない。