次の日、王様がかわいそうなウサギの様子を見にやってきました。
「俺様のごちそうは元気かな?」
見ると、かわいそうなウサギは、畑仕事で汚れて灰色です。
「俺様の誕生日の大切なごちそうだ。きれいに洗ってやれ!」
かわいそうなウサギは、泡だらけのいい香りのするお風呂で、きれいに洗われました。
すると、灰色だったかわいそうなウサギは、真っ白でフワフワの美しいウサギになりました。
「はっはっはっ!誕生日のごちそうらしくなったぞ。でも、ちょっと痩せすぎだなぁ。
これでは食べ応えがないぞ。たくさん食べさせて太らせろ!」
それから、かわいそうなウサギのもとには、毎日毎日国中から集められたおいしいごちそうが、
たくさん運ばれてきました。
真っ赤なニンジン、みずみずしいキャベツ、緑の四葉のクローバー、かわいそうなウサギはおいしいごちそうを
毎日毎日たくさん食べて、コロコロ太ってきました。
「うむ、美しく太ってきて特別なごちそうらしくなってきたぞ。
明日の俺様の誕生日には、特別着飾ってやれ!」
ついに明日は王様の誕生日。明日には食べられてしまうかわいそうなウサギは、どんな気持ちなんでしょう。
その夜、かわいそうなウサギは、塔の窓から美しい夜空をいつまでもいつまでも眺めていました。
そして、やってきた王様の誕生日。
国中から、たくさんの贈り物が届き、立派なテーブルにはごちそうが並んでいます。
でも、王様にとって1番のお楽しみは、特別なごちそうの、あの、かわいそうなウサギです。
「特別なごちそうをここへ!」
王様のお供の者が言うと、ラッパが鳴り響き、銀のお盆に乗せられた、かわいそうなウサギが運ばれてきました
かわいそうなウサギは、真っ白フワフワ、コロコロして健康的な体には緑の繻子のリボンをつけられ、
目をキラキラと輝かせています。
「おお、見違えたぞ。最高の贈り物らしくなっているぞ。」
王様が言うと、かわいそうなウサギは、その小さな口を開きました。
「誕生日おめでとうございます、王様。 そして、ありがとうございます。」
「ん?なんでありがとうなんだ?」
王様が聞くと、かわいそうなウサギは目を輝かせて言いました。
「私は、王様に連れてこられるまで、自分の国がこんなに美しいということを知りませんでした。
まず、それがひとつめのありがとうです。
そして、初めていい香りのするお風呂に入りました。自分がこんなに白くてきれいだったなんて知りませんでした
これがふたつめのありがとうです。
あんなに美味しいごちそうを、お腹いっぱい食べたのも初めてです。これがみっつめのありがとう。
そして、こんなにきれいなリボンをつけて着飾ったのも初めてです。ありがとうございます。」
「・・・・・・・・・・・」
王様はびっくりしてしまいました。
今、自分が食べるごちそうからお礼を言われたことなんて、なかったのですから。
そして、今まで自分が当たり前のようにしてきたことに、こんなに感謝しているウサギをみて、
胸の奥にある今までの心が、ゆで卵の殻のようにひび割れて、
胸いっぱいに光がさしたような、温かい湯で満たされたような、そんな気持ちになりました。
「よし・・・食べるぞ!」
王様がいいました。
「はい」
かわいそうなウサギが一歩前に出ました。
「お前も食べるんだ。」
「えっ?」
かわいそうなウサギは耳を動かして王様のほうをみました。
「お前も一緒にごちそうを食べるんだ。」
王様はそう言うと、テーブルに並んだごちそうを食べ始めました。
その日の王様の誕生会は、夜がふけて、お月さまがあくびするまで続きました。
僕たちのいるところから、1番近くて、1番遠いところに
おおかみの王様と、幸せなウサギの住むお城がありました。
すばる