幸せなうさぎ

 

僕たちのいるところから、1番近くて、1番遠いところに、おおかみの王様の国がありました。

 

ある日、王様がお供の者を連れて散歩していると、一羽のウサギが、畑仕事をしていました。

 

ウサギはお尻を振り振り、ニンジンを畑から抜いています。

 

その様子を見た王様は、

 

「うむ、うまそうなウサギだな。最近ウサギを食べていないから、俺様の次の誕生日にあのウサギを食べよう。」

 

あらあら、かわいそうなウサギは、王様のお供の者に捕まえられ、逃げられないようにお城の塔のてっぺんの

 

部屋に連れていかれました。

 

塔のててっぺんの窓からは、かわいそうなウサギの住んでいるおおかみの王様の国が見渡せます。

 

どこまでも続く緑に、青い空、美しい湖。

 

初めて自分の住んでいる国を見たかわいそうなウサギは、感動してしまいました。

 

 

 

次の日、王様がかわいそうなウサギの様子を見にやってきました。

 

「俺様のごちそうは元気かな?」

 

見ると、かわいそうなウサギは、畑仕事で汚れて灰色です。

 

「俺様の誕生日の大切なごちそうだ。きれいに洗ってやれ!」

 

かわいそうなウサギは、泡だらけのいい香りのするお風呂で、きれいに洗われました。

 

すると、灰色だったかわいそうなウサギは、真っ白でフワフワの美しいウサギになりました。

 

「はっはっはっ!誕生日のごちそうらしくなったぞ。でも、ちょっと痩せすぎだなぁ。

 

これでは食べ応えがないぞ。たくさん食べさせて太らせろ!」

 

それから、かわいそうなウサギのもとには、毎日毎日国中から集められたおいしいごちそうが、

 

たくさん運ばれてきました。

 

真っ赤なニンジン、みずみずしいキャベツ、緑の四葉のクローバー、かわいそうなウサギはおいしいごちそうを

 

毎日毎日たくさん食べて、コロコロ太ってきました。

 

「うむ、美しく太ってきて特別なごちそうらしくなってきたぞ。

 

明日の俺様の誕生日には、特別着飾ってやれ!」

 

ついに明日は王様の誕生日。明日には食べられてしまうかわいそうなウサギは、どんな気持ちなんでしょう。

 

その夜、かわいそうなウサギは、塔の窓から美しい夜空をいつまでもいつまでも眺めていました。

 

 

そして、やってきた王様の誕生日。

 

国中から、たくさんの贈り物が届き、立派なテーブルにはごちそうが並んでいます。

 

でも、王様にとって1番のお楽しみは、特別なごちそうの、あの、かわいそうなウサギです。

 

「特別なごちそうをここへ!」

 

王様のお供の者が言うと、ラッパが鳴り響き、銀のお盆に乗せられた、かわいそうなウサギが運ばれてきました

 

かわいそうなウサギは、真っ白フワフワ、コロコロして健康的な体には緑の繻子のリボンをつけられ、

 

目をキラキラと輝かせています。

 

「おお、見違えたぞ。最高の贈り物らしくなっているぞ。」

 

王様が言うと、かわいそうなウサギは、その小さな口を開きました。

 

「誕生日おめでとうございます、王様。 そして、ありがとうございます。」

 

「ん?なんでありがとうなんだ?」

 

王様が聞くと、かわいそうなウサギは目を輝かせて言いました。

 

 

 

「私は、王様に連れてこられるまで、自分の国がこんなに美しいということを知りませんでした。

 

まず、それがひとつめのありがとうです。

 

そして、初めていい香りのするお風呂に入りました。自分がこんなに白くてきれいだったなんて知りませんでした

 

これがふたつめのありがとうです。

 

あんなに美味しいごちそうを、お腹いっぱい食べたのも初めてです。これがみっつめのありがとう。

 

そして、こんなにきれいなリボンをつけて着飾ったのも初めてです。ありがとうございます。」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

王様はびっくりしてしまいました。

 

今、自分が食べるごちそうからお礼を言われたことなんて、なかったのですから。

 

そして、今まで自分が当たり前のようにしてきたことに、こんなに感謝しているウサギをみて、

 

胸の奥にある今までの心が、ゆで卵の殻のようにひび割れて、

 

胸いっぱいに光がさしたような、温かい湯で満たされたような、そんな気持ちになりました。

 

 

「よし・・・食べるぞ!」

 

王様がいいました。

 

「はい」

 

かわいそうなウサギが一歩前に出ました。

 

 

「お前も食べるんだ。」

 

「えっ?」

 

かわいそうなウサギは耳を動かして王様のほうをみました。

 

「お前も一緒にごちそうを食べるんだ。」

 

王様はそう言うと、テーブルに並んだごちそうを食べ始めました。

 

その日の王様の誕生会は、夜がふけて、お月さまがあくびするまで続きました。

 

僕たちのいるところから、1番近くて、1番遠いところに

 

おおかみの王様と、幸せなウサギの住むお城がありました。

 

 

すばる

 

 

 

 

 

subaru
作家:すばる。
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