さやかとアンナ

関 拓也(セキ タクヤ)は、白百合文芸女子大学教授(数学者)、年は45歳。

バツイチ。外見は四角い顔に眼鏡をかけた短足おじさん。血液型はエッチB型。

星座は乙女座。好きな食べ物はチョコレート。ペットはロボ・シャムネコ、名前は

ミーシャ(寂しいときの話し相手)。趣味はカラオケとミッキーグッズの収集。

あだ名は、オカマッチ。


女学生の間では、あだ名で呼び捨て。オカマッチの語源は、オカマティーチャー。

略して、オカマッチ。ついでに、ドクターはホモッチ。森はエロッチ。

あだ名の事を拓也に教えたのは、杏子という女学生。

彼女は、解答用紙の余白に”親愛なるオカマッチへ”と数学の問題は解かず、

拓也へ肉感的なラブレターを書いた。

拓也は少しムカついたが、リアリティーにとんだ文章にけっこう興奮

(将来、杏子はエロ小説家になるつもり?)


ドクターは、白百合文芸女子大学に赴任いて3年目。彼は、20代で精神医学の

グローバルライセンスと博士号を取得した医学博士。

常識的に考えると、彼は、世界的に最も権威のあるドイツのリーマン大学で

教鞭をとるべきだが、なぜか、偏差値の低い女子大の心理学講師。

さやかの話によると、ドクターは、この大学に来る前、

父親が経営している安部精神病院に勤務していたとのこと。

彼は今年の8月で37歳。いまだ独身。


さやかは、安部精神病院の看護師。

彼女は、20歳の時からドクターとつき合っているらしい

(8年ほど、つき合っているらしいが、本当なのか、嘘なのかはっきりしない)。

今年で、彼女は28歳?。


彼女は、童顔で小柄。見た目は女子高生。

また、服装からはまったく看護師に見えない。

拓也と会うときは、いつも、黄色のジーパンに、

チェス盤と駒がプリントされたTシャツ。

靴はピンクのスニーカー。

化粧は、薄いピンクのルージュとパールのアイシャドーだけ。

拓也のミステリーガールフレンド。



100億のクラシック電子ブック&アニメをそろえたブックセンターと

10万点の絵画&1億のバーチャルミュージアムが見られるアートセンターは、

ブルーの18階建て双子ビル。

世界のどこからでもアクセスできるとても便利なセンター。

その隣が拓也を待ち受けているお嬢様大学。

うわさによると、芸能人の子息がかなり在籍しているらしい。


もうそろそろ見えてくる。

バスが止まる。


ドクターは、拓也を置いて真っ先に飛び出していく。

拓也は、ゆったりと研究室に向かう。

女学生たちによる無料のファッションショーを眺めながら。


数学が悪いのか、数学を好きになった拓也が悪いのか、

拓也は、とことん女性にもてない。


それに比べ、ドクターの講義には、ロックシンガーのコンサート会場と

思わせるほど、どこからともなく女学生が集まってくる。

さらに、ドクターのサインがほしいのか、キャーキャーと研究室にまで押しかける

(はっきり言って、うらやましい)。


ただ不可解なのは、時々、ドクターは研究室に押しかけた女学生を

怒鳴ったり、追い返したりしている(女性が嫌いなのか?)。



数学者は、とかく誤解されやすい。

数学の講師は女性に興味がないと思っている女学生がいる。

講義中、拓也にとんでもない質問をした女学生がいた。


「先生は恋愛をしたことがありますか?」


(バカを言うな、こう見えても女好きだ。

ただし、お前らみたいな男あさりしか能のない女は、

ごめんこうむりる)と拓也は叫びたかったが、

「想像に任せる」とだけの一言で沈黙。


この女学生は、拓也にちょっぴり興味がある杏子、

講義中、拓也の顔を見る唯一の女学生。


情けない話。拓也の講義に出席する女学生は20人弱。

さらに、拓也の講義を聞いている女学生は、まったくいない。

講義中、携帯片手に恋愛ゲーム。



6月9日(月)

拓也が女性心理を学びたくなった記念すべき日。


約束の3時。

「先生!」

明るい声が拓也の耳に飛び込んでくる。杏子のつくり笑顔。

「冗談かと思っていたよ。数学の質問を受けるのは、

今年に入って初めてだよ」

「キャー、うれしい!」

「別に、うれしがることじゃなかろう!」


杏子は、太陽を原点とした立体座標に、銀河系内にある惑星を

色鮮やかにあらわしているロボ・MTポーンのディスプレイを珍しそうに眺めると、

勝手にコントローラーつきの椅子に座った。


「試験のことなんですけど」

杏子は、信号機のようなピアスを指でなでながら、

おねだりするようにつぶやく。

「あ~、試験範囲は、この前の講義のときに言ったはずだ。

メールも送ったぞ」


「そうじゃなくて、受けられないんです」

杏子は、スカートの裾をゆっくりと上下させて、拓也の目を覗く。

「入院でもするのか?」

「それが、チョット・・・・・」

杏子は急にうつむく。


「しかし、試験は受けないと、単位はやれんぞ」

こんなことを言う教授は拓也だけ(僕は完全に浮いている)。

「だから・・・どうとか・・・」

杏子は、スカートの裾をさらに引き上げる。


「だからなんだ、日本語ができとらん。ちゃんとした日本語を話したまえ」

「数学、ダメなんです。これ以上単位を落とすと卒業できないんです!」

杏子の甲高い声が爆発すると、びっくり箱から飛び出すように、

うつむいていた顔を振り上げる。


「そういうことではなくてだな、試験を受けられない理由を聞いているんだ。

事情があれば早めに申し出なさい」

「受けても同じです。結果は・・・もうだめです」

杏子は、またうつむくと、泣いているような声でつぶやく。


「君、心配いらんよ。数学の単位を落としても、卒業はできるから」

なだめるように言っては見たが、杏子は下を向いたまま。

「3年次のとき、ほとんど単位を取っていないんです。

親が離婚して、仕送りが途絶えたんです。今は、お金のほうは、どうにか・・・

「バイトの金か?」

「はい。卒業したいんです。お願いします。先生!」

顔を上げると、杏子の目には、まったく涙はない。


「まてまて。お願いするとか、お願いされるとかの問題ではない。

とにかく、試験は受けないと単位はやれんぞ」

「わたし大人ですから。年配の人、慣れましたから。

先生、お一人なんでしょう。食事おごります」

杏子は、突然、両手で拓也の右手をつかむ。

「冗談はよせ。もういい、帰りなさい」

「先生のこと好きなんです。先生、ステキ、また来ます。バイビー」


拓也の気分は、チョーイライラ。

心の中にわけのわからぬものが住みつき、手を焼いている気分。

このわけのわからぬものは、ドクター?さやか?杏子?



 



拓也は、短い足でトボトボと歩く。

モデルのような女学生の長い脚を横目に見ながらバス停に立つ。

右手からやって来る美女ロボ運転手。

ロボットといえども個性的。この運転手スペイン系美女。


美女ロボ運転手は、拓也のために(勝手な思い込み)

計算された笑顔をフラッシュする。

拓也はいつもより一つ前のバスに乗り込む。


「よう!」誰かが拓也の肩をポンと叩く。

「なんだ、君もこのバスに乗るのか」

拓也が振り向くとエロッチ(国文学の森)


「今日はチョットな」

いつもは持っているバレンチーノのショルダーバッグを持っていない。

「意味ありげだな」

「ご馳走してくれると言うから。それでな」

森は短い口ひげを左手でそっとなでる。


「ワイフに見つかるぞ」

「おいおい脅かすなよ」

エロッチは大きな目をさらに大きくして拓也の顔を覗き込む。

「そうそう、困った子がいるよな」

拓也は杏子のことを話すつもりはなかったが、つい口にだしてしまった。

「ほう」

エロッチは息を漏らすように低い声の相づちを打つ。


「別に、話すほどのことでもないけどさ。杏子って子、知ってるか?」

「英文科の杏子か?」

エロッチは少し間をおいて返事する。

「よく知ってるな。ああ、その子さ」

拓也はエロッチの大きな目を横目で覗く。

「いい子じゃないか。講義にもちゃんと出るし。何かあったのか?」

「いや、なんでもない。今日はうまくやれよ」

エロッチはフレンチ通りで降りた。


エロッチ(エロ小説家として有名)に言わせると杏子はいい学生。

食事の相手は杏子?エロッチが杏子のことをどのように思おうと、

拓也にとっては他人事(ただし、トラブルに巻き込まれるのはまっぴらごめん)。


去年、数学講師の高木が憤慨しここを去った。予期せぬ事件。

簡単に言えば、ある女学生と高木の関係が理事長の耳に入った。

まったく根も葉もないことなんだが。誰かの陰謀か?

高木は10年来つき合っている拓也の後輩。

彼は破廉恥な行為をするような講師ではない。

だが、いまさら理事長に詰め寄っても、高木の潔白が晴れるわけでない。

拓也もとんでもない大学に来たものだ。


ここは埼玉県浦和市の北部に位置するロボット学園都市。

学園都市の中心部には、50の大学がランク別ひ配置され、

それを中心として、5500のマンションが東西に伸びた楕円形を

形作るように整然と並んでいる。

この楕円形の二つの焦点となるところに、直方体の25階建てのビルがある。

そこでは、それぞれ100台の美男美女ロボットが学園都市専用コンピューター

を操作する。

20人の人間がロボットの補佐をしている。


春日信彦
作家:春日信彦
さやかとアンナ
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