死神サークルⅢ

 このシーンが、事実ならば、へまをした佐藤警部とそのヤクザは、責任を取らされる。つまり、消される。こう考えれば、佐藤警部は、この世にはいないということになる。遺体は、地中か?海底か?大野巡査は、顔をブルブルと振った。嫌なイメージを頭から追い出したかった。野球部の先輩が、悪事を働いたとは、思いたくなかった。今のところ、何も、解明されていない。勝手な、妄想でしかない。何も悪い方向に考える必要はない。佐藤警部は、心をリセットするために、修行の旅に出たのかもしれない。菅原先輩は、宝くじに当たって、しばらくお城巡りの旅に出たのかもしれない。何も、心配する必要はないのかも知れない。警察官は、いつも、悪い方向に考える。よくない職業病だ。

 

 ソリオは、そば道場の駐車場に停車した。「着きました」疲れた表情の伊達は、車から降りると大きく背伸びした。「いい天気だな~~。サンタクロースよ、俺にも何かくれ~~」伊達は、青空に向かって叫ぶと、ワハハと笑い声をあげた。大野巡査もハハハと笑い声をあげた。二人が店内を覗くとお客は、3人だけだった。コロナ禍のせいで、観光客の客足が遠のいたに違いなかった。窓際のテーブルに着いた二人は、お品書きを手にした。伊達が、つぶやいた。「スペシャルそば、にするか。俺のおごりだ。好きなの、食っていいぞ」大野巡査は、笑顔で返事した。「それじゃ、お言葉に甘えて、私も、スペシャルそば、お願いします」

 

 閑散とした店内を眺め、伊達がか細い声で話し始めた。「このままじゃ、客商売は、お先、真っ暗だな。どうにか、ならないのか?ガ~ス~よ」大野巡査は、うなずき応答した。「春日大明神は、なにやってんですかね。昼寝でも、してるんですかね」伊達は、窓の外に広がる青空を眺め返事した。「どんなに立派な人でも、悪いことをする。なぜなんだ。そんなに、お金や、権力が欲しいのか?俺は、凡人でよかった。偉くなりたい、金持ちになりたい、と思ったこともあったが、今は、全く思わない。もし、人は生まれ変わるとしても、何も考えないそこいらの小石でいい。生きてると、なんだか、さみしい」大野巡査は、うなずき返事した。「今度生まれるときは、神様に生まれ変わりたいです。そして、すべてを幸せにしたいです」伊達は、即座に返事した。「お前は、大物になれるよ」目じりを下げた二人は、クスクスと響きを抑えるような笑い声で肩を震わせた。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
死神サークルⅢ
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