南の短編集

「コーヒーで良い?」

『あっ有り難う』

『!?』

『ってこれ、麦茶だよ』 

「え、」

「ウチではコーヒーって読んでるけど」 

『麦茶だよ、コンビニとかで売ってるの
 飲んだこと無いの?麦茶

「へぇ」

『あれ?コーヒー豆あるじゃん。』

『コーヒーミルもあるんだ。
 しかも手動。オシャレだねっ。』

 『悪いんだけど、
 これでもぅ一回コーヒー頼めるかな。』

『有り難う、ごめんね挽く所から、
 ウチもさ電動の持ってるんだけど、
 へーゴリゴリこれはこれで、ねぇ』

『あっもう良いんだ。
 さすが!手慣れてるね
 じゃあ、はいドリップペーパーを 
 カップに乗せて』

『そうそう、ペーパードリップね、』

『良いね~挽いて淹れると香りがいいよね』

『では、いただきます~

『って、やっぱコレ麦茶!』
ふと、窓の外に目を向けると
マジックアワーが広がっていた。

油絵のような質感の
橙と紫が空のキャンパス上で
思い切り絵筆で伸ばされた様な景色。

色んな感情の詰まった、
群像劇の小説をやっとラストまで
読み終える瞬間のような、
特別な安堵感。

目に映る物達、全てが口々に
「また明日」 「また明日」

と囁いている様にも聞こえる。

あぁ「また明日」

今、目を覚ましたばかりなのに。

その時、

世界には
僕と亀しか居なかったと思う。

いや、実際は
そうじゃなかったかもしれない。

ただ、僕と亀しか
この世に存在しないと
僕が思えたことが大事で、

僕と亀以外は全く重要じゃなかった。
周囲の目や期待とか
今までのプライドとか
レッテルの様な関係性とか
全く重要じゃなかった。

そう思えたことが大事だった。

もし、そう思えなかったら
ウサギが亀に謝ることなんて
永久に出来なかったと思う。 

後悔はしていない。

「亀くん、のろまなんて言ってごめんね。」
「失恋しちゃって、
 何を食べても美味しくないの。」

『亜鉛不足じゃない?』

「違うよ」

『亜鉛不足じゃない?』

「違うって」

『亜鉛注入~直にぃ~動脈にぃ』

「ちょっと!」

『はい、コンビニパンだよ』

「ファ!美味しい!」
hops
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