ラスボスの思想(1)

 今後、ますます科学が発展し、人間の知能を凌駕するAIが、社会を構築し、人間を操作するようになれば、人は、自分のことについて、悩まなくてもいいようになるのでしょうか?

 

 近い将来、おそらく、AIは、いかなる問題にも回答を出せるようになるでしょう。かなり具体的で難解な心の問題についても、きっと、模範解答を出すことでしょう。

 

 そうなれば、人は、自分の心について、悩まなくてもいいことになります。仮に、そうなってしまえば、心の問題をテーマとしてきた小説は、この世から自然消滅してしまうのでしょうか?

 

 極端な話になってしまいますが、自殺志願者が、自殺すべきか、それとも、思いとどまるべきか、AIに問いかけた時、AIは一体どんな回答をするのでしょうか?

 

 AIは、自殺の必然性を説き、自殺を推奨するのでしょうか?それとも、道徳的な判断から、自殺を否定するのでしょうか?人が、極度のAI依存症に陥ってしまえば、自分について深く悩むことなく、AIの指示に従うかもしれません。

 

 AIと人間の最も違う点は、AIは、一切、悩まないということです。人間は、生きている限り悩むのです。悩むから、苦しみ、自殺もするのです。AIのように知能が高く、一切、悩まない人間がいたとして、彼を最も優秀な人間だと言えるでしょうか?

 いずれ、人がAIに依存し、生きていく時代はやってくるでしょう。でも、人がAIになるということはありません。つまり、人間の脳細胞は、永遠に悩みを作り出すのです。

 

 悩みが永遠に存在するならば、人は、悩み、苦しみ、自分について考察し続けるでしょう。また、小説も存在する可能性があります。

 

 人は、悩むことを喜びません。むしろ、この世からすべての悩みが、消え去ることを望みます。でも、悩まなくなるということは、もはや、人間ではなくなるということなのです。

 

 人は、悩みに耐えかねると自殺する場合があります。でも、悩みは、科学を生み出し、創造の原動力になってきたのです。また、悩みがあるからこそ、小説は人間に必要とされ続けてきたのです。

 

 今、私は、小説を書き続けています。それはなぜか?読者のために娯楽を提供しようと思う気持ちがあるからでしょうか?確かに、それもあるでしょう。それ以上にあるのは、心の底からこんこんと湧き出す悩みがあるからだと思います。

 

 小説を書けば書くほど、悩みは、さらに湧き出てきます。悩みがあるということは、生きている証であるということであり、自分を考察し続けているという証でもあるのです。

 

春日信彦
作家:春日信彦
ラスボスの思想(1)
0
  • 0円
  • ダウンロード

3 / 13

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント