クオドリベット 中巻

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恋、そして策略( 4 / 4 )

だが柊は、はいはいと言う気にはなれなかったようだ。「グッナイ、ジョー」と送り出した後、小姑の様に小言を言い出した。いわく、ラクして1900万円の年収は得られないんだよ、おれが苦労しているから君もしろとは言わないが、ディナー作る時間は充分あったはずだ、とか、スムーズなビジネスにはバックアップが必要だ、おれがビジネスでへまをやったら君だって困ることになる、などなど。「おれは碧ちゃんを甘やかしすぎたのかも。言いたくないんだけど、社長夫人は一種の職業なんだ」

「…わかりました。反省してます。これからはちゃんとするわ」

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微笑む融の顔を見た途端に、碧の眼からは涙がわき出てきた。大人なのだから、と言う自戒の念は、昨晩から考えていた「まるで『ロミオとジュリエット』だわ」という心のうめきに勝てなかった。融は自分も困り顔になって、どうしたの、泣いてちゃわからないよと辛抱強く話しかけた。

「僕が運転してる横であなたが泣き続けてたらおかしいだろう」

「…ごめんなさい、もう大丈夫。わたしね…嬉しくて涙が出たのよ」茅島融は一瞬おいてから、それは男冥利に尽きるお言葉…とつぶやいてクルマを発車させた。

 

しかしながら碧は、別れる間際にも涙に暮れてしまい、ハンカチで顔を隠して融を呆れさせてしまう。

「…あああ、あなたってこんな情熱的なひとだったんだ…いやあ、現代では絶滅寸前、佐渡のトキと同じくらい貴重…でもね」

「わたしは『佐渡のトキ』じゃないわ!」

「比喩だよ、比喩!もとい、僕が言いたいのは…『うまく行く恋なんて恋じゃない』、これだよ」

それがいやなら、とやや表情を引き締める。「別れますか? 」碧は強く首を振る。会うために、会える時間を確保するために芝居をする、これが快楽に至る唯一の道であることは分かっていた。受け入れるしかない。計算した上で、「陶酔」を作り出さねばならないのだと碧は覚悟した。男が意外と、自分とともにロマンに没入してくれないのにも落胆した。だが、碧も心のどこかで、恋に陶酔するのを恐れてはいたのだ。これから彼女は、計算と策略を駆使する女となるだろう。「決して我を忘れない」彼女の決意は吉と出るか凶と出るか。

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深良マユミ
クオドリベット 中巻
5
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