白と黄

 美緒は鳥羽の正面に腰掛けるといつものなれなれしい口調で話しかけてきた。「やっぱ、ここだったか。鳥羽君の動きって、わかりやす~。マヌケ顔で、ボ~~と、ナニ、考えてたの?ゆう子先輩のこと?」的を射た言葉にグサッグサッときた。美緒と話をしていると長話になるとさっさと立ち去ろうと思うが、いつも引き留められて話に付き合わされていた。というのも、美緒はリッチでいつもコーヒー代をおごってくれるからだった。鳥羽は、おごってもらえると聞くとつい甘えてしまった。バイトの時間がない鳥羽は、いつも、金欠病で、いつの間にか、美緒が”金のなる木”に見えて、しがみついていた。

 

 図星の美緒の言葉が癪に障ったが、気持ちを隠すように重たい口を開いた。「まさか。毎日、忙しくて、大変なんだ。今、ちょっと息抜き。今日も、午後から資料整理」美緒は、見え透いた嘘は通用しないというような顔つきでじっと鳥羽を見ていた。「へ~~。そう。それじゃ、ゆう子先輩の話は聞きたくないってことか~。そんなに、忙しいんだったら、さっさと帰ったら」鳥羽は何か意味ありげな話しぶりをした美緒の顔をそっと覗き込み、少し考え込んだ。このタイミングで帰ったほうが得策のように思えたが、ゆう子姫についての話があると聞くと興味をそそられてしまった。

 

 気まずそうに返事した。「まあ、忙しいといっても、今すぐってことではない。もう一杯飲もうかな~。美緒さんもどうぞ。今日は、僕がおごるから」美緒は、素直に聞きたいといえばいいのに素直さがないんだから、と思ったが、サービスしてやることにした。「そお~。おごってくれるの?そんなに見栄張らなくてもいいのに。ビンボ~学生なんだから。美緒がおごってやるって。それより、ゆう子先輩の話、聞きたいでしょ~」鳥羽は、ゆう子姫の話と聞いてヨダレが出てきたが、グッと我慢して一呼吸おいて返事した。「いや、まあ。ゆう子姫は、いかがお過ごしかな~、って思っていたんだけど。ムチャをされなければいいんだがな~」

 

 美緒は、アイスレモンティーをストローでチュッと吸うと返事した。「今度の土曜日、ゆう子先輩のウチに泊まるの。積もり積もった話があるし。ゆう子先輩に何か伝えたいことある?」伝えたいことといっても特になかった。あえて言うならば、デモには参加しないように伝えてほしかった。「特にないけど。デモはほどほどに、って伝えてくれ。デモなんて、ゆう子姫には、似合わないんだよな~~。ゆう子姫には、日本舞踊とか・・」鳥羽は、ポカ~~ンと口を開けて、ゆう子姫が桜の木の下で優雅に舞う姿を想像していた。アホは死んでも治らない、と思った美緒は、ちょっとからかってやることにした。「あ、そう。先輩のアレ、捨てちゃったの?」鳥羽は、アレと聞いて一瞬首をかしげたが、言いたいことがピンときた。「あ~、アレね。家宝にしてるさ。美緒さんには、感謝してるよ」美緒はうなずき、笑顔を作った。

 

 鳥羽にとって、アレは、三種の神器の一つであった。密かに、アレは八咫鏡(やたのかがみ)と思っていた。毎日、箱を目の前に置き、手を合わせ、”ゆう子姫が健やかにお過ごしなされますように”と神にお願いしていた。一月に一度、箱から出しては、甘い香水の香りをかいでいた。美緒は、マジな顔つきで話し始めた。「それはよかった。あ~いうことは、二度としたくない。鳥羽君のためと思って、命がけでネコババしたんだから。あの時、すっごく、ビビッたんだから。美緒って、どちらかっていうと、尽くすタイプなのかな~。鳥羽君に、そんなに感謝されると、こそっと、アレをもらってきてあげようかな~」ゆう子姫のショーツだけでも幸運の神器と思っていたが、さらに、ゆう子姫の神器をいただけるのかと思うと興奮してきた。「アレって?まだ、何かいただけるのでしょうか?美緒オジョ~様」

 

 周りにお客がいないのを確認した美緒は、もっとからかってやれと思い、お風呂の話をすることにした。「女子って、お風呂で遊ぶのが、好きなのよね~。シャボンをたくさん作って、シャンプーマットまでつくちゃうの。そいで、お互い、洗いっこすんの。ちょっと、くすぐったいんだけど、楽しいのよ。先輩って、洗ってあげると、キャーキャー言って、喜ぶんだから」鳥羽の頭には、真っ白なシャボンに包まれたゆう子姫とブルル~ン・ブルル~ン巨乳を揺らす美緒の姿が浮かび上がっていた。興奮し始めた鳥羽は、すぐにでも続きの話を聞きたかったが、冷静さを取り戻し、軽く返事した。「そうですか。女子は、お風呂が好きなんですね」鳥羽の紅潮した顔を見た美緒は、心でクスクス笑い、話を続けた。「美緒のって、バカデカでしょ。先輩ったら、両手で、ギュッギュギュッギュ揉みながら、デカすぎて洗えないって言うの。まったく、口が悪いんだから。悔しいから、抱きついて、グイグイ先輩の胸に押し付けてやるの」

 

 鳥羽にとっては、ちょっと話が過激すぎた。ヌードの想像がますます膨らみ、股間が膨らみ始めていた。「楽しそうですね。そんな話、初めて聞きました。女子と話す機会があまりないもので。仲がいいって、いいですね」鼻息が荒くなった鳥羽を見ていると噴き出しそうになったが、もっと、喜ばしてやることにした。「先輩も負けてないのよ。アソコ洗ってやるって言って、ゴシゴシ手のひらで、アソコをこするんだから。こっちも、負けてられないから、やり返したりして、キャッキャ、キャッキャ、バカ騒ぎスンの。ほんと、二人とも、アホなんだから。笑っちゃうでしょ」鳥羽の股間はこんもり膨らんでいた。鳥羽にとっては、笑い話ではなかった。美緒が言うアソコとは、アソコしかないと思い、クローズアップされたゆう子姫のアソコを想像してしまった。

 

 美緒は、からかうかのように反応を確かめてみた。「あきれたでしょ。先輩も、結構アホなのよ。これ以上、こんなバカ話、聞きたくないでしょ。もう、やめる?」ここまで聞かされたなら、やめられるわけがないと言いたかったが、コーヒーをすすり喉を潤して、冷静に返事した。「いや~、ゆう子姫も、ヤンチャなところがおありなんですね。いいことじゃないですか。愉快な話を聞かせてもらって、ありがたい。僕は、女子のことは、全く知らないから、参考になります」カラになったカップを見た美緒は、もう一杯、勧めた。「のど、乾いたでしょ。もう一杯どう?」カラになったカップを確認した鳥羽は、アイスミルクティーを注文した。

 

 美緒は、レモンスカッシュを注文した。「あ、そう。さっきのアレのことだけど」美緒が考えているアレは、口に出して言えるようなものではなかった。ちょっと声を小さくして話し始めた。「今度、泊まるじゃない。そいで、お風呂にも一緒に入るじゃない。だから、こそっと、アレを失敬しようかなと思ってるの」鳥羽は、いったい何を言いたいのかさっぱりわからなかった。ショーツのほかにもらえるものといえば、ブラではないかと思ったが、ちょっとネコババしにくいのではないかと思えた。お願いしてもらえるものでもないと思えた。というのは、ゆう子姫のCカップブラは、美緒のIカップのバストに合わないからだ。

 

 

 

 何を今度はネコババしてくれるのだろうかと考えていると美緒が話を続けた。「ちょっと、口では言えないのよね。ほら、アソコのアレを23本失敬してこようかなと思って。鳥羽君、欲しくない?欲しくなかったら、いいんだけど。すっごく、ネコババって、気を使うのよね。ドキドキするんだから。いらない?」23本と聞いて髪の毛なのかなと思ったが、髪の毛であれば、アソコとは言わないと思い、まさかと思った。まさか、アソコのアレって?アソコの?ゆう子姫のフサフサ盛り上がったアソコのケを想像した途端、ゴックンと生唾を飲み込んだ。こんなチャンスは二度とないと思った鳥羽は、勇気を出してお願いすることにした。「23本もいただけるのですか。まったくかたじけない。天国まで家宝としてお持ちいたします。ぜひ、お願い申し上げます。美緒オジョ~様」

 

 意味が通じたと思った美緒は、笑顔で返事した。「了解いたしたぞ。鳥羽君のお願いとあらば、命がけで頑張る。任せて。先輩って、すっごくモサモサだから、意外とうまくやれそう。これで、三種の神器の2つ目がそろうってことね。それに、もっと、二人の秘密を話してあげてもいいんだけど、ここじゃね~。あ、もう、お昼じゃない、お腹すいちゃった。鳥羽君、お昼は?」鳥羽は、腕時計で時刻を確認した。「あ~、もうこんな時間か。弁当買って帰ろうかな~」美緒が、即座に食事を誘った。「土曜日じゃない。外食したら。美緒がおごってやるから~。チャンプ・カフェ、って言うハンバーグのおいしいとこ、知ってんのよ。行かない?」鳥羽は、一応は断るべきだと思ったが、頭は、うなずいていた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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