算命学余話 #R51

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算命学余話 #R51 (page 1)

 今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏は長崎生まれで、5歳の時一家と共に英国へ移り住みます。当時は旅行のような感覚で、日本にはすぐに帰れるものと思っていましたが、その後英国の子供の通う学校で教育を受け、家では日本人、外では英国人という二重生活を積み重ねた結果、もう日本語も日本の習慣も判らない大人になったことを自覚して、英国籍を取ることを選びます。
 当然のように帰るべき場所であった日本という国が、もう届かない淡い記憶になってしまったその経験から、彼の作風はノスタルジックで美しく、しかし誰にも知られない秘密を抱えた者がその秘密と共にひっそりと生き、人知れず死ぬような独特の悲哀や死の影を湛えるものとなりました。こうした追憶や悲哀は、移民ではない生粋の英国人には決して書けないものですが、イシグロ氏は寡作であるにも拘わらず英国で高く評価され、もしかしたら近年の国際問題としての移民・難民の立場を「忖度」して今年のノーベル文学賞に選ばれたのかもしれませんが、世界中で読者を魅了し続ける確かな作家として位置づけられています。
 
 そのイシグロ氏が興味深いことを言っていました。既に英国人としての思考法を身に付けている彼の発想は我々日本人にはちょっと違和感がないでもないですが、西洋的直線思考に則って、人間は成長と共に完璧に近付いていくものだという前提があります。生まれたばかりの赤ん坊はサルといくらも変わらないが、成長と共に学習し訓練され、理性と知性を磨き、動物とは明らかに違う(優越する、と西洋人は言いたいのでしょう)存在となる、それが人間として成長を成し遂げた「大人になる」ことだというわけです。我々日本人にはこうした前提はありませんが、イシグロ氏は英国でそういう教育を受けてきたし、そう思ってきた。
 しかし作家となった彼は、この前提を覆す考えに思い至ります。それは「人が完璧ではない自分に気付き、そうした不完全な自分自身を許すことが、大人になるということだ」という考え方です。つまり大人になるということは、進歩を続けて完璧になることではなく、逆に退化を受容するものだと。これは西洋的直線思考からは随分逸脱していますし、東洋的循環思想や陰陽論に通じるものがあります。私はこれが算命学の思想に非常に近いと思い、イシグロ氏の思想に興味を持ちました。
 
 というわけで、今回の余話のテーマはカズオ・イシグロ氏の命式です。といってもノーベル文学賞を受賞した理由を探すものではなく、彼の思想やその作風がどうして上述のような形を取るのか、その内面を探るのが主眼です。
 毎度繰り返しますが、彼と同じ生年月日の人が誰しもノーベル文学賞を受賞するわけではありません。作家になる人だっていくらもいないでしょう。だから「この命式だから作家だ、ノーベル賞だ」という考えは間違いです。しかし「この命式だとこういう傾向になるだろう」という見立てができるのは確かです。今回はそうした標準的な見立てから、イシグロ氏のような思想や作風に至る道筋を考えてみます。
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