算命学余話 #U108玄

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算命学余話 #U108玄 (page 1 )

 当兵(ダンピン)という言葉が中国語にある。「当たる」と書いて「何かになる、変わる」という用法は日本語では一般的でないので馴染みが湧かないが、「兵士になる」という意味である。戦前の庶民が兵士として従軍を余儀なくされた状況を日中で比較するという議論を、昔中国人の友人としていた時に出てきた言葉だ。友人は史学生であり、大学における入党勧誘を危険も顧みず断った強者でもあり、嘘まみれの社会にあって嘘を嫌う稀有な人物であった。
 そんな人物と胸襟を開いた私的な歴史談義を交わしたところ、三国志の時代から近代戦争に至るまで、中国の兵士は貧しさのあまり衣食を求めて自ら兵士になる(当兵)という形態が常套だという話であった。そこには自分の属する軍団への好悪の判断もなく、判断するだけの知識も知性もなかった。当然誰と闘っているかも知らないか、知っていてもどちらが正しいなどとは微塵も考えない。そんな兵士に対して将らも忠義や奮闘などは期待していない。兵士は文字通り消耗品である。
 一方日本の兵士は、下剋上のありえた戦国時代はともかく、戦前の兵士ならお上から一方的に召集され、行きたくなくても行かねばならず、別に貧しくて食えないから食べ物が支給される軍隊に自ら入ろうという動機はなかった。一兵卒が所属する隊に対する好悪や主義主張の是非を云々することがなかったのは中国兵士と同じだが、所属したからには全力で奮闘すべきだという気分は一般にはあった。忠義もあれば褒められたし、死ねば美談にしてもらえた。
 
 学生レベルの議論ではあったが、こうした互いの国の草の根事情の相違を認識し合うことは有意義だった。当時の私は「当兵」などなんと浅はかな動機か、これでは士気も理想もないから弱くて当然、日本の兵士が強かったのも頷けると納得したものだが、それから十数年経って世界を眺めるに、現在のISなどはまさに食いはぐれた各地の貧困層の若者を「当兵」して戦闘員を増やしているのだから、日本式のリクルートの方が人類史的には珍しいのかもしれない。ガラパゴス日本である。
 『戦場中毒』の著者でカメラマンの横田徹氏によれば、今日の米軍兵士は格差社会で貧困にあえぐ低所得層がどうにも仕事を得られずやむなく軍隊に就職つまり「当兵」し、一番きつい中東の現場に送られ、テロリストをやっつける鉄砲玉として使われ、しかもそのテロリストときたら、イスラム社会でやはり貧乏して仕事のない若者がISの甘い雇用条件に釣られて「当兵」となった貧民なのである。哀れな弱者が哀れな弱者と殺し合っている、これが現代の戦争なのだそうだ。果たしてこれは、人類史的にはスタンダードな文明形態なのだろうか。
 
 将兵は業が深い。命令されて殺生を行う兵士もただでは済まないが、命令を出す側の将の方はより業が深くなる。しかし将もまた更に上の命令に従っているため、上に行けば行くほど業は深くなる。
 能には修羅能というジャンルがあります。多くは源平合戦で命を落とした平家の公達が亡霊となって登場し、合戦を語り、死後地獄に落ちた自分の魂を救ってくれと僧侶に訴えるストーリーなのですが、これらの主役はもちろん兵を率いた将たちです。将の業が深いからこそ、能の演目として取り上げられるのです。そして地獄に落ちるという発想は仏教のものです。
 算命学は宗教ではないので道徳や魂の救済は扱いませんが、殺生という「他者から命を奪う」所業がただでは済まないことは認めています。それは子孫への影響という形で清算されていくものと考え、これを「殺傷の因縁」と呼んでいます。殺傷の因縁は、その業が大きければ大きいほど威力を増し、その威力は子孫の命式そのものを左右するほどのものだと、算命学は考えています。だから兵士による個々の殺傷よりも、将軍の命令による大量殺傷の方が強く子孫に影響するのです。
 
 今回の余話は玄番ですので、ややデリケートな問題ではありますが殺傷のお話です。それも個人的怨恨ではなく、戦争という大掛かりな事業としての殺傷について考察してみます。具体的には局法の1つである八相局(はっそうきょく)のうち、名誉と殺傷に深く係わるとされる八相官局を取り上げますが、再三申し上げている通り、この命式なら必ずこうだという保証はどこにもありません。ただ傾向として可能性が高いということと、どうして八相官局が名誉と殺傷に関連付けられているのかを、公式を鵜呑みにするのではなく、順を追った考察によって解き明かしていきます。
 
 八相局は細分すると五種類あります。却(ごう)局、食局、財局、官局、印局の五つです。字面からして五行による分類であることは明白ですが、八相官局はその名の通り、官星に特化した命式です。同時に八相局の中でも最も先祖の因縁が強いとされていますが、なぜそうなのか、先祖の所業とは何なのか、普段は考えないことについて考えてみます。
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