アザーワールド <第1話>

「やっと憧れのセイレンになれたね!」
千花は嬉しそうに花帆に言った。
よほど嬉しいのかずっと隊員服の袖を見たり、辺りを見渡したりしていた。
「憧れてるのはスーさんでしょ」
花帆は呆れた顔で言う。
こんなに興奮している千花を初めて見た花帆は少し驚いている。
「それにしても・・・まさかアンタ達もなるなんてね・・・」
そこには、花帆と千花以外に6人の少女がいた。
「花帆達がセイレンなりたいって言うから・・・」
腕を組みながらそう言うのは少しボーイッシュでショートカットの矢野夢乃だ。
花帆達の所属しているバドミントン部の部長を務めている。
「右に同じ」
夢乃の右隣にいた中原菜月が発言する。
少しツンデレだが、数少ないツッコミ要員だ。
「私は夢乃がなるって言ったから~~」ガシ
「うわっ!」
夢乃の腕に飛び込みながら言ったのは押川和奏である。
簡単に言えば天然で不思議ちゃん。
「私は2人がなるって言ったから、やりたいなって・・・」
控えぎみに言うのは鳴瀬朱夏。
美人でおしとやかな少女でうるさい和奏とは正反対。
しっかり者でバドミントン部の副部長をしている。
「あれ?あの2人遅いね」
夢乃が辺りを見渡しながら言った。

「へ?あの2人って?」
花帆は首を傾げる。
マヌケな変な声が出たが、そこはスルーする。
「もうすぐ来ると思うよ」
朱夏がそう言ったのも束の間、噂の2人がやって来た。
走って来たせいか息切れしている。
息をととのえた1人の少女が顔の前で手を合わせて、
「ごめん!家の鍵忘れて取りに帰ってた!美咲はその道連れ!」
と言った。彼女は若松叶芽。
忘れ物が多く、そのたびに取りに帰っている。
そのためか持久力があり、長距離が得意である。
隣で息を切らし、ハァーハァー言っているのは永田美咲。
叶芽が言っていた美咲とはこの人の事だ。
叶芽が忘れ物をしたとき、いつも一緒に取りに帰る。
とても優しく、特に叶芽のお願いになると断れない。
「家の鍵ないと入れないもんね」
千花そう言って笑っている。
「ねぇ、強くなるためにはさぁ、師匠とか見つけないといけないのかな」
菜月がスマホをいじりながらそう言う。
スマホをいじりながらのため、みんな独り言と思い、スルーしかけた。
「なっちゃん、そういう事は顔上げて言ってくれないかな?スルーするとこだったから」
朱夏がスマホを持った菜月の肩に手を置いて言った。
「ごめんごめん」
そう言いながらもスマホをいじる菜月。全く反省してなさそうだ。
「師匠かぁ~。スーさんがいいなぁ~」
千花は上の空だ。
スーが師匠になった時の事を考えているのだろう。
徐々に千花の顔が緩んでいく。
「うわっ。こんなちー見たの初めて・・・」
成績優秀,スポーツ万能,しっかり者で優しい千花が妄想でにやけているところなんて見たことないのだろう。
みんな驚いている。
そんな時、階段から
「おーい、君達訓練しないのかぁ?」
と男の人の声がした。
ナンパと思った花帆達は無視。
するとその男の人は階段を下り、花帆達に近づいて来た。
花帆達は凍りつく。
(ヤバい、近づいて来たんだけど・・・。キモッ!)
その男の人が近づいて来た時のみんなの心の中はこれ。
男の人は花帆達の反応を疑問に思ったのか首を傾げる。
「なぁ、訓練しないのか?もうすぐここ閉まるぞ。やるならさっさとやれ」
どうやら男の人は忠告をしてくれたらしい。
今まで勘違いしていたのが恥ずかしかった花帆達は小さな声で
「ありがとうございます・・・」
と言った。
その男の人は笑顔で、
「おう!訓練頑張れよ!」
と言ってくれた。
「勘違いしてた私恥ずかしい・・・。めっちゃいい人・・・」
花帆は頭を抱えてしゃがみこんでいる。
「あの人にさ!師匠の見つけかた教えてもらおうよ!」
切り替えが早いのはこの方。そう、押川和奏だ。
みんなが止める間もなく、いつの間にか男の人を連れて来ていた。
「師匠が欲しい?」
「はい!そうなんです!」
和奏曰く、男の人は大倉紅葉という名前らしい。
赤い色の隊員服ですぐに4軍ではない事が分かった。
大倉は悩んでいるのか、「う~む」と頭を抱えている。
そして何か思いついたのか分かりやすく手をポンッと叩いた。
「それなら、俺の弟子紹介すんぜ。知ってるか?和泉隊のスー」
[和泉隊のスー]という言葉を聞いて千花は飛び上がった。
「和泉隊のスー!!?」
またもや千花が興奮状態に陥る。
大倉は驚いている。
「知ってんのか?」
「はい!スーさんに憧れてセイレンになりました!」
大倉は千花の言葉を聞いてフッと微笑んだ。
「アイツも成長したな・・・。・・・言っておくが和泉隊を師匠にするのは難しいぞ」
「でも、どうしてもスーさんの弟子になりたいんです!」
千花の熱意のある言葉に大倉はニィと口角をあげた。
「そんじゃぁ、和泉隊基地に行くかぁ!」
大倉は大きな声で言った。
青い狸
作家:青い狸
アザーワールド <第1話>
0
  • 0円
  • ダウンロード

5 / 9

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント