そしてまた、
12月になり、クリスマスが近づいてきた。
その頃、その夫婦の旦那さんの方は仕事で外に出ていたが、おばさんは、
「もうすぐクリスマスだけど、サンタさんから何をもらいたいの?」と謎留に聞いた。
だが謎留は、
「う~ん・・・何かな~、もうサンタさんから何もらっても、すぐに自慢できるお父さんもお母さんもいないしな~。何でも良いや」と、なげやりな事を言った。
おばさんは、
「そうね~、もう、謎留君の両親は、謎留君にプレゼントをあげる事も出来ないしね~」
と、何か寂しがっているような表情で言った。
謎留は、その言葉の意味がどういう事なのか
気になった。
「おばさん、今言った事、一体、どういう事なの!?」と聞いた。
おばさんは、慌てて自分の口を手で抑え、
「しまった!口が滑っちゃった!!」と
思った。謎留は何度も聞いた。
「ねぇ、おばさん!答えてよ!!教えてよ!!何か知ってるんでしょ!?」と、大声で聞いた。
「仕方ないわね~。話すわ」と言って話してくれた。
おばさんの話によれば、
毎年、クリスマスに謎留にクリスマスプレゼントを渡していたのは、実は、
サンタクロースではなく、謎留の父親と母親だったのだ!!
謎留の父親も母親も、サンタクロースの存在を信じている謎留の夢を壊さないようにするために、毎年、謎留に
「クリスマスは毎年、サンタクロースが家に入って、プレゼントをくれる」と嘘をつき、
謎留が「欲しい」と言うモノを毎度用意し、それをクリスマスが来るまで家のどこかに隠して、
謎留が寝ている間の、ちょうどクリスマスの深夜に、枕元にプレゼントを置いていたのだという。
おばさんは、前からその事を本人達から聞いていたので知っていた。
それをおばさんの口から聞いた謎留は、
「サンタクロースは本当はいない」という事実を知ったショック以上に、
自分の夢を壊さないように、毎年、わざわざ嘘をついてバレないように気をつけながら、
密かにプレゼントを用意して、そっと渡してくれていた親の愛情と優しさに感謝、感動し、
嬉しさのあまり、大泣きした。
「あんな高いギターまで・・・!!お父さん・・・お母さん・・・うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫んだ。
しかし、もう、この感謝と感動は両親が亡き今、伝える事は出来ない・・・
おばさんは、泣き叫ぶ謎留を抱いて、
優しく背中をさすり、もらい泣きした。
「謎留君のお父さんもお母さんも、本当に
良い人だった・・・謎留君にプレゼントを
あげる事、毎年、楽しそうに話してたわよ」
やがて成長し、
高校生になった謎留は、冬のある日、かつての自分と同じように、サンタクロースを信じている子供達を見た。
「そうだよな~。良く
考えてみりゃ、魔法でも使えなきゃ、サンタクロースみたいに、どこかの誰かの家に入ってモノをあげるなんて出来ないよな~」と小声で言った。
しかし、数日経って、テレビのニュースで
「〝サムターン回し〟という手口で家の外から金属の棒を使ってカギをこじ開け家に侵入され、モノやお金が盗まれた」という事件があちこちで起こっていると知った。
謎留は、
(そうだ!大人になったら、このやり方で色んな家に入って色んな子供達にプレゼントを渡そう!そうすれば、自分が憧れのサンタクロースになれる!!)と思った。それと、
家のドアというのは、〝サムターン回し〟で開けられるモノばかりではないので、色々なピッキングのやり方も学んだ。
しかし、
何ともまぁ、狂った発想だった。いくら他人にモノを渡そうが、〝サムターン回し〟やピッキングは犯罪だ。だが、この時、
謎留は、そうやってたくさんの子供達に
プレゼントを渡せば、
両親が死んだ時にポッカリと開いてしまった、大きな心の穴を
埋められる気がしたのだ。
―そして、情景は戻り、霧河の自宅・・・―
〝ガバッ〟
「は~、夢か~」そう、今のは夢。
「
「霧河竜令 (きりかわりゅうれい)」というのは、実は、偽名である。
そして、
さっきまで見ていた夢は、霧河自身の実体験なのだ。
そう、彼は毎年、クリスマスに、スパイのようなやり方で色んな子供達に
プレゼントを与えているのだ。
これは霧河が毎年、冬に
調査をして、クリスマスに色んな家でプレゼントを渡す
〝サンタクロース〟となるきっかけ、全ての始まりだったのだ。
ちなみに偽名は、万が一何かあって、「クリスマスに色んな家に
サムターン回しなどの
ピッキングで入っている人間がいる」
という事が世間に知られた時にそれが自分だと特定されないようにするために使っている。
もちろん、
前日していた「盗み聞き」による調査も、
クリスマスの夜に色んな子供達にプレゼントを渡すために行っていた事だ。
霧河はリビングへ移動した。テレビを観ながら朝食を食べたり、コーヒーを飲む。
それから数日後、霧河はいつものように仕事へ向かう。今日は、12月6日(月)だ。
会社でも、「クリスマスプレゼントは〇〇が
・・・」などという声が何人もの人から聞こえてきた。
その中には、霧河と同じように、幼い頃、サンタクロースを信じていた者、
子供がいて、その子供にクリスマスプレゼントを渡す者もいる。
霧河は、(へ~。やっぱり、大人でも、クリスマスが好きな人が多いんだな)と思った。
ある女性社員が霧河に
「霧河君、サンタさんって、本当にいると思う?」と尋ねてきた。
それに対し霧河は、
「あ~、昔は信じてたよ」と答えた。女性社員は、「そっか。私と同じね」と言う。
霧河は、
「え?」と言った。
女性社員は、「だって、
そもそも、良く考えたら、遠い国から空飛ぶソリで色んな国に行って、たくさんの家の子供達にたった一日でプレゼントを渡すなんて、出来るワケないし、疲れるじゃん(笑)。
しかも、おじいさんがよ(笑)」と言った。
「確かにそうだね(笑)」
「でも、あたし、何であの頃は本気で信じてたんだろ?」
「・・・・・・」
その時、霧河は、自分と彼女が重なった。
(そうだよな~・・・俺も昔は本気でいると思ってたんだよな~・・・)と思った。
彼女は、「でも、毎年、自分が寝てる間に
枕元にプレゼントを置いてくれてたのはお母さんだって知った時はショックを受けたわよ。
〝サンタさんはいなかったのか〟って。でも、
プレゼントをもらえるなら、別にサンタさんがいない事には困らないのに。何でだろうね?(笑)」と言った。
それを聞いて霧河は、
(確かに。言われてみれば、そんな事考えた事なかったな。そういや何で、クリスマスにプレゼントをもらう時は、サンタさんにもらいたいんだろ?別の人からもらっても、欲しいモノは手に入るのに)と思った。
それは、霧河が今まで抱いた事のない疑問だった。
やがてその日も夜になり、仕事が終わった。
伸びをして、「ん~!疲れた~!今日も仕事が終わったな~!!」と言った。