サンタクロースパイ

3.調査

現在は、

2010年11月22日(月)。

ちょうど11月下旬なのだ。

霧河の会社は不定休で、その日、平日だが、

仕事が休みだった。最近は、「クリスマスセール」なんてイベントも、

始まるのが早く、11月下旬にもなれば、

あらゆる家庭の親子、あるいは、

小学校の、友達と友達の間で

「ねぇ、今年はサンタさんから何を

もらいたい?」、

「○○かな?」などという会話が良く交わされる。


霧河も、もう大人なのだが、幼い頃からずっと、今も変わらず、

「クリスマス」や「サンタクロース」が

大好きなのだ。それから毎日、彼は、

あらゆるところで、あえて地味な服装をして、

何でもない、まるでただの〝通行人〟を装いながら、

誰かと誰かの会話や独り言から、子供達の欲しいモノを聞いて、調査、

まぁ、言ってしまえば、「盗み聞き」をしていたのだ。



15時40分頃、霧河は「流星小学校」という

小学校のそばに立っていた。



ある、少女と少女の会話が聞こえてくる。



少女B「ねぇ、今年のクリスマスプレゼント、

もう、何をもらうか決めた?」

少女A「決めたよ!」少女B「何もらうの?」少女A「私はワンちゃんが好きだから、

ワンちゃんのお人形さん!!」

少女B「へ~!可愛いね!!」

少女A「うん!!」

少女B「でもサンタさんってさ、本当は

いないかもしれないよ?」

少女A「え?そりゃいるでしょ?もし、いないと思うなら、何でこんな事聞くの?」

少女B「ん~、私もクリスマスプレゼントは毎年もらうけど、

いつもお母さんがくれるから」

少女A 「そうなんだ」

少女B「そうだよ。

お母さん、優しいから!!」

少女A「そうか~」

そして、2人がそれぞれ別々の道を歩くところまで来たところで、

2人は、お互いに「じゃあね~!バイバイ~!」と手を振り合って別れた。そこで、

2人の後ろを歩いて2人の会話を聞いていた霧河は、「そうか~、犬の人形か~。

女の子らしいな~」と思った。



霧河は、その後も

少女Aのあとをつけて、家に帰るところまで

見ていた。そして、少女Aは家に着いた。



「ただいま~」

少女Aの母が「おかえり~」と言った。そして、

自分の部屋に入った後、少女Aはその後、帰り道で友達に言われた事を考えていた。



「サンタさんか~。確かに、私も今までサンタさんの姿を見た事はないから、

もしかしたらサンタさんは、本当はいないのかもしれないな」

初めてそんな事を思った。



「は~。いなかったらどうしよう?まぁでも、どうせ、

まだまだクリスマスまでは大分時間があるからな~」

その娘がそんな事を考えている間、霧河は、

スマホでその家やその周りの写真を撮り、

その娘の欲しいモノが何なのかを、手持ちのメモ帳と鉛筆や消しゴムを使って、

メモにとっていた。



(ふ~ん、なるほど、良い家だな。ふむふむ。この娘が欲しがっているのは

犬の人形か。でも、犬が好きなら、何で

本物の犬を欲しいと思わないんだろ?まぁ、そこは良いか)

考え事をしながらメモをとった。



ついでに、別の家の周りでも、聞き込み調査を行った。あっちこっちに行って、

会話でもひとり言でも、

「クリスマスは〇〇が欲しい」という声が聞こえてこないか気になり、

あっちこっちでそういった言葉を聞き取る。



別の家の庭では、

別の女の子が「マフラーが欲しい」、そのまた別の家では、

またまた別の女の子が「マグカップが欲しい」などと言っていた。



「なるほど、女の子はオシャレなモノや可愛いモノが好きなんだな」、

霧河はそう言いながら黙々とメモを取っていた。他にも、

調査を進めていくと、ある家庭の男の子が

「〝グロリアスライダー〟の変身セットが欲しい!!」と言っていた。



「なるほどね。特撮モノが好きとは男の子らしい。俺も昔、めっちゃハマったな」と

言いながらまたメモをとる。色んな家庭を見てみれば、「電車のおもちゃが欲しい」と

言っている子もいて、「剣のおもちゃが欲しい」と言っている子もいた。

(ふむふむふむふむ。なかなか皆、良い趣味してるな!)と思った。そして、そこで、

その日の調査が終わった。



(なるほどね。特撮モノが好きとは男の子らしい。俺も昔、めっちゃハマったな)と思いながらまたメモをとる。色んな家庭を

見てみれば、「電車のおもちゃが欲しい」と

言っている子もいて、「剣のおもちゃが欲しい」と言っている子もいた。(ふむふむふむふむ。なかなか皆、良い趣味してるな!)

そして、そこで、

その日の調査が終わった。自宅に帰った後、布団に入って、その日聞いた、子供達の色んな言葉を思い出した。

(やっぱり皆、カッコ良いモノや可愛いモノが好きなんだな~)

4.ある少年の、素晴らしいプレゼント

―ここで突然だが、情景が変わる―



季節は、今と同じ〝冬〟。



12月に入ったばかりの頃だった。



名札に名前が書いてあるが、

網田謎留あみだなぞる」という名前の小学生の男の子が自分の両親に

「ねぇねぇ!今年のクリスマスは

サンタさんからギター(アコギ)を

もらいたい!」と言っている。



それに対し、

母親が「ギター?ずいぶんとぜいたくなモノが欲しいのね」と言う。



謎留は、

「だって、僕、小学校の音楽の授業で吹く

〝リコーダー〟は全然吹けないし、それだったら、何か別の楽器が出来るようになりたいし、テレビとかでギターを弾いてる人見てたら凄くカッコ良いもん!!」と言う。



隣の父親は、「そっか。もらえると良いな!!」と言った。



それから時間が経ち、クリスマスイヴの夜、「ギター、もらえると良いな!!」と思いながら謎留は眠りについた。



翌朝、

目が覚め、起き上がってみると、ギターケースがあった。開けてみると、

なんと、本当にギターが入っていたのだ!!



「わ~!やった~!!」謎留は大声を上げて興奮する。



「お父さんお母さん~!見てみて~!サンタさん、本当にギターくれたよ!!」と母親に言った。



「良かったわね!!」と

母親は微笑みながら言った。



父親も微笑み、

「良かったな!上手くなるように、しっかり

頑張るんだぞ!!」と言った。



謎留は

「うん!!」と嬉しそうに頷いた。

5.少年と両親の悲劇

しばらくしてからの事。ある日、謎留の父と母は

謎留に少しの間だけ家の留守番を頼み、車で

料理の食材を買いに行った。

そこで対向車にぶつかり、交通事故に巻き込まれてしまった。2人は、運悪く即死。

ぶつかった車の運転手は、

飲酒運転をしていたのだ。もちろん、

その運転手は逮捕されたが、失われた2人の

命は決して戻ってこない・・・



その頃、謎留は

「それにしても遅いな~。どうしたんだろ?」と、何も知らずに待っていた。

だが、謎留の両親が死んでしまった事は、後に親戚から聞かされた。



謎留は、何日も何日も、泣き叫び、悲しんだ。もちろん、

両親が死ぬ原因にもなってしまった〝酒〟も

「大人になっても絶対飲まない」と決めた。



それから、謎留は、両親の死を謎留に教えた親戚の夫婦の家に移り住み、その親戚の夫婦に育ててもらう事となった。


6.衝撃の真実が!!!

そしてまた、

12月になり、クリスマスが近づいてきた。



その頃、その夫婦の旦那さんの方は仕事で外に出ていたが、おばさんは、

「もうすぐクリスマスだけど、サンタさんから何をもらいたいの?」と謎留に聞いた。



だが謎留は、

「う~ん・・・何かな~、もうサンタさんから何もらっても、すぐに自慢できるお父さんもお母さんもいないしな~。何でも良いや」と、なげやりな事を言った。



おばさんは、

「そうね~、もう、謎留君の両親は、謎留君にプレゼントをあげる事も出来ないしね~」

と、何か寂しがっているような表情で言った。



謎留は、その言葉の意味がどういう事なのか

気になった。



「おばさん、今言った事、一体、どういう事なの!?」と聞いた。

おばさんは、慌てて自分の口を手で抑え、

「しまった!口が滑っちゃった!!」と

思った。謎留は何度も聞いた。



「ねぇ、おばさん!答えてよ!!教えてよ!!何か知ってるんでしょ!?」と、大声で聞いた。



「仕方ないわね~。話すわ」と言って話してくれた。



おばさんの話によれば、

毎年、クリスマスに謎留にクリスマスプレゼントを渡していたのは、実は、

サンタクロースではなく、謎留の父親と母親だったのだ!!

謎留の父親も母親も、サンタクロースの存在を信じている謎留の夢を壊さないようにするために、毎年、謎留に

「クリスマスは毎年、サンタクロースが家に入って、プレゼントをくれる」と嘘をつき、

謎留が「欲しい」と言うモノを毎度用意し、それをクリスマスが来るまで家のどこかに隠して、

謎留が寝ている間の、ちょうどクリスマスの深夜に、枕元にプレゼントを置いていたのだという。

おばさんは、前からその事を本人達から聞いていたので知っていた。



それをおばさんの口から聞いた謎留は、

「サンタクロースは本当はいない」という事実を知ったショック以上に、

自分の夢を壊さないように、毎年、わざわざ嘘をついてバレないように気をつけながら、

密かにプレゼントを用意して、そっと渡してくれていた親の愛情と優しさに感謝、感動し、

嬉しさのあまり、大泣きした。



「あんな高いギターまで・・・!!お父さん・・・お母さん・・・うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫んだ。

しかし、もう、この感謝と感動は両親が亡き今、伝える事は出来ない・・・



おばさんは、泣き叫ぶ謎留を抱いて、

優しく背中をさすり、もらい泣きした。

「謎留君のお父さんもお母さんも、本当に

良い人だった・・・謎留君にプレゼントを

あげる事、毎年、楽しそうに話してたわよ」

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