サンタクロースパイ

2.変わった名前の喫茶店

〝ウ~〟(犬の鳴き声)、

夜になった。



「寒ぃな~。どっか暖かい、飲食店にでも行ってみようかな?」



自分でも、何が食べたいのかは分からない。

店を探した。



喫茶窓際族きっさまどぎわぞく」と書いてある店があった。



(変な名前、でも、これは面白い。

それに「窓際族」って名前は何となく好きだから入ってみよう)



〝カランコロン〟



「いらっしゃい」、

「店員さん、ちょっと温まるコーンスープを

一杯ください」

「はい」



〝コト〟



ジュ~ッとすすりながら、

思いにふけった。

「は~。皆大人になったら酒を呑むけど、

身体的に良くないし、やっぱ、

こっちの方が良いよな!」と一人で思う。



他の大勢の人達と

関わるのは別に嫌いではないが、

身体や精神を傷つけて、苦しくなるのは

嫌だし、暴れている人が多い、騒がしいところはとても苦手で、

そういうところは、いつも極力避けてきていた。そう、彼は、

隠しているだけで、とても繊細なのだった。



悩みを抱える繊細な彼は、自分で

その時その時で良い居場所を探す、風来坊剣士のような、

この時代では特殊と思われがちな存在だった。

あまり言うと長くなるので、これくらいにしておこう(笑)。

そこで店長さんが尋ねた。



「お客さん、随分と渋い顔してコーンスープ飲むね(笑)」

「え?悪いですか?(笑)」

「いや、悪かねぇけどさ、初めて見るもんだから、俺も驚かされちまって…、

まるで酒飲んでるみてぇに飲むな (笑)」

「はぁ」



しかし、店長さんが言う。

「お客さんがそれだけそのコーンスープを

酒を呑むような顔で飲めるって事はな、

そのコーンスープがお客さんにとって、

それだけ尊い存在、つまり、

お客さんにとって、普通の人の〝酒〟と

同じくらい、なくてはならない〝高価なモノ〟ってワケだ」と言った。



霧河は、この時、

店長のおじさんの言っている事が

どういう事なのか、

解るようで、まだピンときていなかった。



〝ジュー〟、



霧河はその後、

コーンスープの続きを飲んだ。

(ここで考え事をするのは不思議な感覚だ、

いや、いつも、考え事って不思議なんだ…)

そして、しばらくして・・・

3.調査

現在は、

2010年11月22日(月)。

ちょうど11月下旬なのだ。

霧河の会社は不定休で、その日、平日だが、

仕事が休みだった。最近は、「クリスマスセール」なんてイベントも、

始まるのが早く、11月下旬にもなれば、

あらゆる家庭の親子、あるいは、

小学校の、友達と友達の間で

「ねぇ、今年はサンタさんから何を

もらいたい?」、

「○○かな?」などという会話が良く交わされる。


霧河も、もう大人なのだが、幼い頃からずっと、今も変わらず、

「クリスマス」や「サンタクロース」が

大好きなのだ。それから毎日、彼は、

あらゆるところで、あえて地味な服装をして、

何でもない、まるでただの〝通行人〟を装いながら、

誰かと誰かの会話や独り言から、子供達の欲しいモノを聞いて、調査、

まぁ、言ってしまえば、「盗み聞き」をしていたのだ。



15時40分頃、霧河は「流星小学校」という

小学校のそばに立っていた。



ある、少女と少女の会話が聞こえてくる。



少女B「ねぇ、今年のクリスマスプレゼント、

もう、何をもらうか決めた?」

少女A「決めたよ!」少女B「何もらうの?」少女A「私はワンちゃんが好きだから、

ワンちゃんのお人形さん!!」

少女B「へ~!可愛いね!!」

少女A「うん!!」

少女B「でもサンタさんってさ、本当は

いないかもしれないよ?」

少女A「え?そりゃいるでしょ?もし、いないと思うなら、何でこんな事聞くの?」

少女B「ん~、私もクリスマスプレゼントは毎年もらうけど、

いつもお母さんがくれるから」

少女A 「そうなんだ」

少女B「そうだよ。

お母さん、優しいから!!」

少女A「そうか~」

そして、2人がそれぞれ別々の道を歩くところまで来たところで、

2人は、お互いに「じゃあね~!バイバイ~!」と手を振り合って別れた。そこで、

2人の後ろを歩いて2人の会話を聞いていた霧河は、「そうか~、犬の人形か~。

女の子らしいな~」と思った。



霧河は、その後も

少女Aのあとをつけて、家に帰るところまで

見ていた。そして、少女Aは家に着いた。



「ただいま~」

少女Aの母が「おかえり~」と言った。そして、

自分の部屋に入った後、少女Aはその後、帰り道で友達に言われた事を考えていた。



「サンタさんか~。確かに、私も今までサンタさんの姿を見た事はないから、

もしかしたらサンタさんは、本当はいないのかもしれないな」

初めてそんな事を思った。



「は~。いなかったらどうしよう?まぁでも、どうせ、

まだまだクリスマスまでは大分時間があるからな~」

その娘がそんな事を考えている間、霧河は、

スマホでその家やその周りの写真を撮り、

その娘の欲しいモノが何なのかを、手持ちのメモ帳と鉛筆や消しゴムを使って、

メモにとっていた。



(ふ~ん、なるほど、良い家だな。ふむふむ。この娘が欲しがっているのは

犬の人形か。でも、犬が好きなら、何で

本物の犬を欲しいと思わないんだろ?まぁ、そこは良いか)

考え事をしながらメモをとった。



ついでに、別の家の周りでも、聞き込み調査を行った。あっちこっちに行って、

会話でもひとり言でも、

「クリスマスは〇〇が欲しい」という声が聞こえてこないか気になり、

あっちこっちでそういった言葉を聞き取る。



別の家の庭では、

別の女の子が「マフラーが欲しい」、そのまた別の家では、

またまた別の女の子が「マグカップが欲しい」などと言っていた。



「なるほど、女の子はオシャレなモノや可愛いモノが好きなんだな」、

霧河はそう言いながら黙々とメモを取っていた。他にも、

調査を進めていくと、ある家庭の男の子が

「〝グロリアスライダー〟の変身セットが欲しい!!」と言っていた。



「なるほどね。特撮モノが好きとは男の子らしい。俺も昔、めっちゃハマったな」と

言いながらまたメモをとる。色んな家庭を見てみれば、「電車のおもちゃが欲しい」と

言っている子もいて、「剣のおもちゃが欲しい」と言っている子もいた。

(ふむふむふむふむ。なかなか皆、良い趣味してるな!)と思った。そして、そこで、

その日の調査が終わった。



(なるほどね。特撮モノが好きとは男の子らしい。俺も昔、めっちゃハマったな)と思いながらまたメモをとる。色んな家庭を

見てみれば、「電車のおもちゃが欲しい」と

言っている子もいて、「剣のおもちゃが欲しい」と言っている子もいた。(ふむふむふむふむ。なかなか皆、良い趣味してるな!)

そして、そこで、

その日の調査が終わった。自宅に帰った後、布団に入って、その日聞いた、子供達の色んな言葉を思い出した。

(やっぱり皆、カッコ良いモノや可愛いモノが好きなんだな~)

4.ある少年の、素晴らしいプレゼント

―ここで突然だが、情景が変わる―



季節は、今と同じ〝冬〟。



12月に入ったばかりの頃だった。



名札に名前が書いてあるが、

網田謎留あみだなぞる」という名前の小学生の男の子が自分の両親に

「ねぇねぇ!今年のクリスマスは

サンタさんからギター(アコギ)を

もらいたい!」と言っている。



それに対し、

母親が「ギター?ずいぶんとぜいたくなモノが欲しいのね」と言う。



謎留は、

「だって、僕、小学校の音楽の授業で吹く

〝リコーダー〟は全然吹けないし、それだったら、何か別の楽器が出来るようになりたいし、テレビとかでギターを弾いてる人見てたら凄くカッコ良いもん!!」と言う。



隣の父親は、「そっか。もらえると良いな!!」と言った。



それから時間が経ち、クリスマスイヴの夜、「ギター、もらえると良いな!!」と思いながら謎留は眠りについた。



翌朝、

目が覚め、起き上がってみると、ギターケースがあった。開けてみると、

なんと、本当にギターが入っていたのだ!!



「わ~!やった~!!」謎留は大声を上げて興奮する。



「お父さんお母さん~!見てみて~!サンタさん、本当にギターくれたよ!!」と母親に言った。



「良かったわね!!」と

母親は微笑みながら言った。



父親も微笑み、

「良かったな!上手くなるように、しっかり

頑張るんだぞ!!」と言った。



謎留は

「うん!!」と嬉しそうに頷いた。

5.少年と両親の悲劇

しばらくしてからの事。ある日、謎留の父と母は

謎留に少しの間だけ家の留守番を頼み、車で

料理の食材を買いに行った。

そこで対向車にぶつかり、交通事故に巻き込まれてしまった。2人は、運悪く即死。

ぶつかった車の運転手は、

飲酒運転をしていたのだ。もちろん、

その運転手は逮捕されたが、失われた2人の

命は決して戻ってこない・・・



その頃、謎留は

「それにしても遅いな~。どうしたんだろ?」と、何も知らずに待っていた。

だが、謎留の両親が死んでしまった事は、後に親戚から聞かされた。



謎留は、何日も何日も、泣き叫び、悲しんだ。もちろん、

両親が死ぬ原因にもなってしまった〝酒〟も

「大人になっても絶対飲まない」と決めた。



それから、謎留は、両親の死を謎留に教えた親戚の夫婦の家に移り住み、その親戚の夫婦に育ててもらう事となった。


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