ある夜、全ての羊が寝静まった頃、ハイエナは一匹こっそりと柵の外へ出た。
彼は去り際、いつものように番をしていた羊飼いの方を振り向き、非常に穏やかに言った。
「長い間世話になったね、色々酷い言動とってごめんな。しかし、これでも感謝しているんだよ。あんた、何だかんだで良い奴だよ。オレの事も最後まで面倒見てくれたし。」
「いや、すまなかったな。それでも…出て行くという事は、私が至らなかったのだろう。」
「仕方が無いよ。あんたも主も、飼いたかったのは羊であって、オレではないのだから。」
「羊として生きて行くのなら、ここに居ても構わない。」
「そりゃ無理だったよ。オレなりに努力もしたが…あんたもよく知っているだろう?」
「……両親の事が心配か?」
「あんたがしっかり面倒見てくれるだろう?彼らは羊だから。」
「そうだ。私の羊は私が責任を持って、しっかり見る。」
それを聞くと、ハイエナは安心した表情になり、しかし悲しそうに背を向けてとぼとぼ歩き始めた。泣いているようにも見える、その後ろ姿は、やがて夜の闇に消えていった。