ハイエナは他の羊たちと違っていた。それを本人が最も強く感じていた。
羊たちが美味しそうに食べる牧草を、彼は全く美味しそうとも美味しいとも感じず、むしろ不味くて不快に感じていた。
体質にも合っていないようで、ハイエナは日に日に体を弱らせていった。
牧草を不快に感じるハイエナと仲間達は分かり合う事ができず、また不快な牧草しか与えない羊飼いへの不満を持つようにもなった。
優しい羊たちは、それでもハイエナと友好的な関係を持とうとしたが、決して理解する事のできぬ相手との関係にハイエナは疲れ、一匹で居る事を好むようになった。
理解者になれぬ孤独と、日々弱る体により、ハイエナの気持ちは徐々にささくれ、両親に対してさえも噛み付いたりはしないまでも、暴言を吐くようになった。
彼の両親はどうすれば良いのか分からず、心配するばかりであった。
ある日、仲間の一匹が死に、火葬される事となった。火葬は多くの羊に見守られて行われ、ハイエナもその中に両親と共に加わっていた。
仲間の死骸が火葬にかけられ、やがて肉の焼ける匂いがし始めた。ハイエナはその匂いを嗅ぎ、産まれて初めて「美味そうだ」と感じた。
火葬が終わり、皆が立ち去った後、ハイエナはこっそり焼けた死骸のもとに寄り、その肉を恐る恐る口にしてみた。
それは非常に美味しく感じられ、また口にし物で、産まれて初めて体内に正常に栄養として取り入れられたようにも感じられた。その喜びは仲間の肉を口にしたという罪悪感をもかき消す程であった。
それからハイエナは、仲間が死ぬ度にこっそりと、その死骸を貪るようになった。体は見る見る健康になり、ささくれていた気持ちも随分と和らいだ。孤独であるのは相変わらずであったが。
ハイエナの母親は、盲目ながらも子の行動の異常に気付き、事を察した。
すぐに親子三人での話し合いとなり、母親はすぐやめるようにと泣きながら訴え、父親もこのままでは子が羊飼いやその主により処分を受けるのではと思い悩み、母親同様やめるように言った。
しかしハイエナは「処分されても構わない。僕に必要な物は死肉なのに、羊飼いも主も、くそ不味い牧草だけを食べろと強要する。
必要な物は与えられていないというのに、十分に与えていると一人合点だ。必要な物は全て与えられている、そう言う権利があるのは与えられた側だというのに。」と言って反発した。
両親は驚いて、「私達にはどれだけ噛み付いても構わないが、羊飼いや主、他の羊たちには絶対に噛み付いてはいけない。」と諭そうとした。
「僕に死肉を食うな、と言うのは死ねと言うのと同じ事だよ。奴らに従い、身も神経もすり減らして死ぬ事が正しいと言うのか?それが連中の、そしてあんたらの正義か?」
ハイエナは泣きながらそう訴えた。
彼だって牧草を美味しいと言えるようでありたかったし、仲間や両親と笑って仲良く暮らせるようでありたかったのだ。
もう二度と死肉を食べないと、表面上の約束をする形でこの話は終わった。彼らは疲れてしまい、これ以上の議論は無理だった。
しかしハイエナは再び同じ事をし続けるであろう事を、本人も両親も知っていたし、実際そのようになった。
両親は針のむしろに座るような気持ちで、どうしていいの分からず嘆き、全てを知っているであろう羊飼いらが許してくれる事を願った。