ゆう子は、即座に笑顔で答えた。来週の土曜日、11日。でも、ダブルデートよね。どこで待ち合わせしようか?現地集合、ってことでいいの?」安田はうなずきそうになったが、返事を躊躇した。現地集合ということは、イサクが車を出すことになる。ということは、行きは問題なとしても、送り狼ってことが考えられる。ゆう子を車に乗せてしまえば、イサクの思いのままだ。これは、まずい。「いや、ダブルデートをお願いしたのは、俺だ。車は、俺が出す。四人一緒に、行こう。ヴェルファイアだから、道中もゆったりできるぞ。そうしよう。待ち合わせは、前原駅だ。よっしゃ~~」
ゆう子は、ちょっと安心した。やはり、素性の分からないイサクと車の中で二人っきりになるのは怖かった。「いいの?乗せてくれるの。わかった。何時にする?」安田は、すんなり承諾してくれて、ホッとした。「そうだな~~。9時ごろってのはどうか?俺は、早めに行って、駅の駐車場で待ってるから」ゆう子は、笑顔でうなずいた。「ありがとう。ダブルデートのほうが、楽しいわよね。久しぶりにリノと騒げるし。9時ね。わかった。イサクも安田とだったら、OKすると思う。なんせ、二人は、革命軍の同志なんだから」ゆう子は、皮肉を言いながら笑顔を見せた。安田は、身辺警護はこれで一件落着と思ったが、問題は、リノがダブルデートを承諾してくれるかだった。断られた時のことを考えると不安になった。
翌日、安田は、重要な話があると鳥羽を自宅に呼んだ。重要な話と聞いた鳥羽は、リノさんとの結婚のことではないかと思った。一度、革命軍の話を聞いたときに、大学を中退しリノさんと結婚するのが一番だと言ったことを思い出した。とにかく、話を聞いて、最善の方法をアドバイスしようと考えた。約束の時間は、10時だったが、スズキアドレス125を飛ばして、9時半には玄関の前に立っていた。インターホンを鳴らすと、返事を待たず、ドスドスと足音を立ててキッチンに走っていった。テーブルでは右手に麦茶のグラスを握った安田が、間抜けな顔でぼんやりと天井を見つめていた。「先輩」と声をかけると安田の正面にドスンと腰掛けた。
正面の鳥羽の顔を見つめると麦茶のグラスを口に当てた。一呼吸置いた安田は、気まずそうな表情で話し始めた。「おい、ちょっと、ゆう子のことで話をする。いいか、興奮するんじゃないぞ。冷静に聞け」改まった口調に鳥羽は、背筋を伸ばし両手を両太ももの上に置いた。安田は、大きく深呼吸して話し始めた。「もう一度言う。絶対に興奮するんじゃないぞ。ゆう子がだな~~、デートするらしい。俺は、素性の分からないヤツとのデートは、危険だから、やめろと、全力で反対したんだが、どうしてもデートすると言い張るんだ。俺の力不足だ。すまん。だが、責任もって、監視する。安心しろ」鳥羽は、突然のデートの話に口をポカ~ンと開けていた。
まさかとは思ったが、念のためにデートの相手を確認した。「デートの相手は、留学生?」安田は、ちいさくうなずいた。突如、鳥羽の顔が夜叉の表情に激変した。「まさか、例のイケメンですか?この前話していた外人ですか?絶対、ダメです。外人は。やられるにきっまています。ゆう子姫もゆう子姫だ。いったい、何を考えているのやら。ヤマト撫子は、ニッポン男児とデートすればいいのです。絶対に、だめです。先輩、僕が、今から、ゆう子姫を説得に行ってきます」鳥羽は、ジャンプするように立ち上がった。
あわてた安田は顔を引きつらせて立ち上がった。そして、鳥羽の両肩を抑えた。「待て、そう、怒るな。すべては、俺に任せろ。俺が、命を懸けて、ゆう子を、守る。いいな。とにかく、落ち着け」安田も興奮してしまい、言葉が途切れ途切れになっていた。納得がいかない表情の鳥羽は、ゆっくり腰掛けた。「もうこの世の終わりです。情けない。ア~~ゆう子姫のバカバカバカ。きっとやられる。ア~~、死にたい、死にたい、死にたい」鳥羽は、駄々をこねる子供のようにア~~~と大声で泣き始めた。安田は、バカな奴だと思ったが、慰めることにした。
涙を流すブサイクな顔を見て笑いが込み上げてきたが、マジな顔つきで声をかけた。「そんなに嘆くな。今言ったろ。俺が監視するって。安心しろ。二人っきりには、絶対させない」3Pデートなどあり得ないと思い、尋ねた。「3人でデートするんですか?そんな事できっこないでしょ。監視するなんて、気休めは言わないでください」落ち込んでしまった鳥羽は、頭をガクンと垂れた。心では笑っていたが、とにかく元気づけることにした。「だからだな~~。俺を信じろ。3人でデートするはずないだろ。ダブルデートをするってことだ。そうすれば、ゆう子をバッチシ監視できる。名案だろ」
ダブルデートと聞いて、少し気が楽になったのか、ヒョイと頭を持ち上げた鳥羽は、左手で涙をぬぐうとほんの少し笑顔をつくり尋ねた。「ダブルデートってことは、先輩、リノさん、ゆう子姫、忌々しい外人、ってことですか?まあ、リノさんがついていてくれれば、ちょっとは安心だな~~。とにかく、監視よろしく。ところで、その外人って、どんな奴です?」少し元気が出てきたと安心した安田は、海水浴デートのことを話すことにした。「外人というのは、イスラエルの留学生だ。名前は、イサクという。同志ヤコブの友達だ。まあ、そう心配するな。ちょっと、海水浴に行くだけだ」
海水浴と聞いたとたん、鳥羽の頭の中にビキニ姿のゆう子が浮かんだ。口をとがらせ、問い返した。「海水浴ですか?」安田は、笑顔でうなずいた。「そうだ。虹の松原に行く。俺が車を出して、ゆう子たちも乗せることにしているから、イサクもそう簡単には手を出せまい。ちゃんと、俺は考えているんだ」しばらく鳥羽は、頭に浮かんだゆう子のビキニ姿を見つめていた。なぜか、頭の中のゆう子の胸は、巨乳だった。「海水浴ということは、水着を着るんですよね。スクール水着ってことはないから、ビキニ?野獣にビキニを見せるんですか。なんと危険な行為。ゆう子姫は、気でも狂ったんですかね」
安田は、自分と同じことを考えていると思い、笑いが込み上げてきた。「鳥羽もそう思うか。そうだよな。ゆう子のヤツ。今年流行のビキニを着るんだってさ。野獣に食べてくださいって、言ってるようなもんだよな。ゆう子もどうかしてるよ」鳥羽の指先が小刻みに震えていた。鳥羽の頭の中のビキニ姿のゆう子が、徐々にクローズアップされ、目の前に股間が一気に迫ってきた。鳥羽は、頭を掻きむしり、悲鳴のようなア~~~と大きな叫び声をあげた。「先輩、僕も行きます。虹の松原に。ゆう子姫がやられるのを指をくわえて見ているわけにはいきません。イケメンやろ~~、指一本でも振れたら、ぶんなぐってやる」
鳥羽の気持ちもわからなくもなかったが、鳥羽が出しゃばってしまえば、デートはぶち壊しになってしまう。「おい、そう、むきになるな。大丈夫だ。俺がついている。万が一、デートをぶち壊してしまえば、一生、お前は、ゆう子に恨まれることになるんだぞ。それでもいいのか?今回は、とにかく、俺に任せろ。いいな」鳥羽は、悔しそうな表情を見せたが、デートをぶち壊してしまえば、ゆう子姫に憎まれるのは目に見えていた。だが、イケメンと安田の二人だけが、ビキニの恩恵を受けるのがどうしても許せなかった。「あ~~、僕も見たいんです。ゆう子姫のビキニ姿。ア~~見たいな~~、ゆう子姫のビキニ姿」
あまりにも未練がましい鳥羽を見ていると同情心が起きてしまった。「そんなに、ビキニが見たいか。それじゃ、遠くから双眼鏡で見るがいい。それだったら、ゆう子にも気づかれないからな」鳥羽は、身を乗り出し目を輝かせた。「そうですよね。見つからなければいいんですよね。となれば、僕はどうやって虹の松原に行けばいいか?先輩の車に乗れないわけ出し、僕は車を運転できないし。先輩、どうしましょ?」呆れた顔の安田は、即座に返事した。「原チャリに決まってるだろ。一足先に、虹の松原に行ってろ。俺たちが到着したら、どこのあたりで泳ぐか、電話する。まあ、好きなだけ、ゆう子のビキニを鑑賞するんだな」