安田は、ポンと胸を右手でたたいた。「俺を信用してないな。俺は、リーダーだ。ゆう子のことは俺が必ず守ってやる。ゆう子は、優秀な同志だ。俺の考えに全面的に賛同してくれている。これからも、同志として戦ってもらう。ゆう子がいるだけで、同志が増えているんだ。ゆう子はジャンヌダルクのような存在だ。鳥羽の参加も大きな力になっている。これからも、頼む」鳥羽は、ゆう子姫がジャンヌダルクのようだといわれ、ますます不安になってしまった。また、みんなに祭り上げられて、革命軍に引き込まれてしまうのではないかという不吉な予感が湧き起こった。
鳥羽は革命軍を非難するきっかけを作るために話題を替えたのだったが、ゆう子姫を人質に取られてしまったような気分になり、これ以上革命軍を非難できなくなってしまった。「先輩の配慮はよくわかりました。でも、ゆう子姫を革命軍にだけは引き込まないでください。デモだけでも危険だと思っているんです。先輩も暴力行為だけはやめてください。警察沙汰になってしまえば、先輩の人生は地獄になってしまいます。リノさんも悲しみます。先輩には若旦那という未来があるじゃないですか。幸せな家庭を築いてください」
安田は、笑顔で返事した。「わかった。暴力はよくない。穏便な革命をやる。まあ、そう心配するな。必ず革命は成功する。連合赤軍みたいなバカなことはしない。あれはCIAの仕組んだお芝居さ。CIAにもマフィアにも、奴らの手には乗らないさ。一発勝負に出る。鳥羽は、学生運動のことは考えるな。医者になることだけを考えていればいい」穏便な革命という意味不明な言葉を聞いて、安田はいったい何を考えているのか?全く見当がつかなくなった。歴史上多くの犠牲者を伴ったいくつかの革命が起きた。だが、ソ連も中国もキューバも、結局崩壊した。
現在は、マフィアが多くの国家と多国籍企業を牛耳っている。今の流れでは、北海道は中国マフィアが、四国はロスの私有地だから別として、本州はアメリカマフィアが、九州はロシアマフィアが、支配する。もしかすると、安田はマフィアと戦うためにどこかの国と手を結ぼうとしているのかもしれない。そうであれば、一見穏便な革命になる。まさか、イスラエル?イスラエル国家をヤマト国家の同盟国にするというのか?YAP遺伝子といったのは、このことを意味していたのかもしれない。
仲間
そのころ、ゆう子、リノ、峰岸の三人は、前原のマックで落ち合っていた。最近、学生運動が激化するにつれて警察の警戒も厳しくなりつつあった。そのことに憂慮したゆう子は、警察の動きを探るため、婦人警官の峰岸を呼び出たのだった。ゆう子はオレンジジュースをチュ~~と吸って、ニコッと笑顔を作った。「そう、警察って、結構乱暴ね。デモを目の敵にしてるんじゃない。学生運動について、警察は何と言ってる?」峰岸は、交通係で学生運動に関しての仕事はしていなかった。今の仕事は、駐車違反の取り締まりが任務だった。
「デモでしょ。ちょっと乱暴よね。デモは、暴力じゃないんだから、もう少し、配慮すべきよ。私は、交通係だから、よくわからないけど、噂では、学生集会の取り締まりを強化するみたい。ここだけの話よ。絶対、他言しないと約束してくれる」ゆう子とリノは、目を丸くしてうなずいた。周りの客に聞こえないように峰岸は小さな声で話し始めた。「学生たちが、革命軍を作っているらしいのよ。内容は、よくわからないけど、F県警では、学生取り締まりのための特別班を先月作ったの。絶対、誰にもしゃべっちゃだめよ。いい」
革命軍と聞いたゆう子は、眉をひそめた。はやり情報は漏れていた。執行部の中にスパイがいると安田は言っていたが、そのことは事実だと確信した。リノは学生運動には無関心だったが、安田がたびたびデモをやっているのが気に食わなかった。「安田のやつ、休みっていうのに、私をほっぽらかしにして、デモでしょ。デモなんかして、いいことでもあるの?さっぱりわかんない。国会って、最後には、強行採決じゃない。それじゃ、デモなんかしても、意味ないじゃん。そう思わない?」
ゆう子と峰岸は、コクンと頭を落としてうなずいた。峰岸が愚痴をこぼした。「そうなのよ。今の国会って、意味ないんじゃない。議論しているようで、単なる時間つぶしって感じ。最後は、強行採決でしょ。いったい、国会は何やってんのよ。これで、近代国家といえるの。やってられないね。国民をバカにしてるんじゃない。本当に革命が起きればいいのよ。今の日本なんて潰れてしまえ。ガンバ、革命軍」ゆう子は、周りを見渡した。峰岸は、興奮して自分の声の大きさに気づいていないようだった。
ゆう子は、峰岸に声をかけた。「ちょっと、トーンを落として。気持ちはわかるけど、落ち着いてよ。確かに学生運動は全国的に活発化してるみたい。安田が、海外の同志も集めていると言っていた。もはや、日本だけの問題じゃないのよ。日本の悪政は、世界的に非難され始めたのよ。福祉国家の日本は、昭和の話よ。平成に入って、マフィア国家に突き進んでるのよ。その手始めに、強行採決をやって、マフィアの力を見せつけているのよ。カジノ許可、水道事業民営化は、まさにマフィアの策謀よ。日本は、マフィアに牛耳られたってわけ」
リノが身を乗り出して質問した。「え、なんだって。マフィア国家。いったいこれから日本はどうなるのさ。まさか、日本の温泉がぶっ潰れるってことはないでしょうね。うちには、多額の借金があるんだからね。温泉をつぶされたら、一家心中じゃない。どうしてくれるのよ。とにかく、マフィアは御免こうむるわ。安田に頑張ってもらわなくては。今の政府はマフィアの回し者に違いないわよ。日本を救うためだったら、一肌脱ぐわ。ゆう子、手伝うことはない?」峰岸もこのままマフィアの言いなりの政府が続けば、日本は不法地帯になって、アメリカと同じ犯罪国になってしまうような不安が込み上げてきた。
峰岸が不安げな顔つきで話し始めた。「三島も最近は、剣道より学生運動に明け暮れてるみたい。最近、九学連の執行部役員になったみたいで、夕方から執行部の会議に出席してるみたい。デートしたくても会議で忙しいといわれて、いつも断られるの。でも、学生にとっては、今後の日本のことが心配じゃない。今の現状で社会人になっても、マフィア企業の奴隷になるようなものだから。断固として、学生は立ち上がるべきなのよ。デートができないのは、悔しいけど、三島を応援する」
ゆう子は、安田の話を思い出しながら話し始めた。「安田も言っていた。一刻の猶予もないって。今の国会議員は、マフィアの言いなりだって。それと、国会議員はマフィアの怖さを知らないって。国会議員は、使い捨ての駒だってことがわかってないって。役に立たないとわかれば、簡単に抹殺するんだって。とにかく、女子も戦う時が来たのよ。男子も女子も力を合わせてマフィアと戦うのよ。ヤマト民族を守りましょ。くノ一の力を発揮するときが来たのよ。いい、これからが正念場よ。安田は、革命軍をつくるといっていた。情報が入れば、みんなに知らせるわ」
ゆう子はすでに革命軍執行部役員になっていた。だが、役員メンバーは極秘事項だった。というのも、革命軍には、イスラエル留学生もいたからだ。彼らはモサドとかかわりがあった。彼らは、日本の学生を是非とも支援したいと、九学連に参加していたのだった。また、革命軍の軍資金も支援したいと申し出ていた。日本に攻勢をかけているマフィアについての情報は、彼らから得たものだった。安田は、イスラエルの情報は、的を射てると判断し、彼らを同志と認めた。