小説の未来(17)


                              小説の必要性

 

 苦悩という物は千差万別といっていいのではないでしょうか。また、具体的な悩みは、無限にあるでしょう。だから、具体的な考察も無限にあることになります。

 

 小説において苦悩を考察することは、脳機能(精神)を考察することにもなります。おそらく、脳機能の考察は医学の役割と思っておられる方がほとんどではないでしょうか。

 

 確かに医学は物質的な脳とその生理的運動である脳機能を研究しています。でも、脳機能(精神)というものは、医学だけによって解明されるような代物ではないのです。

 

 前述しましたように、宗教のような精神的麻薬などにおいて、理論的な解明ができないわけではないでしょうが、学術的な理論を用いた説明を行ったとしても、専門知識のない一般の人たちに納得いく考察をさせることはかなり困難と思われます。

 

 そこで、小説の世界を利用せざるを得ないのではないかと思うのです。小説が必ずしも苦悩と精神的麻薬の考察に最適な方法といえるかどうかは疑問ですが、私としては、小説に頼っている現状です。

 



                                欲と大脳

 

 ここで生きる上で不可欠な欲について確認しておきましょう。誰しも思いつくのが食欲ですね。人間は、生命を維持しようとする食欲の遺伝子を持っています。また、種族保存のための性欲遺伝子も保持しています。

 

 食欲がなくなれば、衰弱死します。また、性欲がなくなれば、子孫を残すことができなくなってしまいます。つまり、この二つの欲を満たすことができなくなれば、人類は消滅します。だから、これらの欲を満たすために、生死をかけた精神活動が起きます。利害が対立すれば、殺人も起きることになります。

 

 当然、人間以外の動物にも食欲と性欲はありますが、これらの欲が作用する脳機能には、人間と他の動物とでは大きな違いがあります。第一に言えることは、人間においては他の動物より高度に発達した大脳が働くということです。

 

 大脳の中でも言語・記号を作り出す中枢が発達した人間の脳は、文化を創造してきました。また、同時に他の動物以上の破壊活動も引き起こしてきました。俗にいう、武器を使用した集団的争い、戦争です。

 


 食欲も性欲も不可欠な欲ですが、特に精神文化と大きくかかわってきたのが性欲なのです。精神文化の基盤となっている宗教において、教祖は異なっていても性欲が大きく影響しています。

 

 人間の性欲は、種族保存以外にも脳機能に大きな影響を与えています。そして、その作用を受けた精神は人間社会の形成に大きくかかわっています。例えば、政治、経済、宗教、法律、道徳、芸術、スポーツ、風俗、結婚、恋愛、など。

 

 だからこそ、性欲についての考察は、科学においても芸術においても永遠のテーマといえるのです。また、性欲を考察するということは、人間社会を考察することでもあるのです。



                            進化する娯楽

 

 人類の存続において不可欠な脳機能として性欲と恐怖心を取り上げました。性欲は大脳に作用し、大脳は性欲を満たそうと機能していきます。また、性欲を満たす過程で、それの障害となる事象に直面した場合、恐怖心が引き起こされます。

 

 このように、欲が脳を活性化させながら、恐怖心をも作り出されていきます。恐怖心は苦悩を引き起こし、さらに、この苦悩をいやそうとする精神活動が生まれていきます。結果的に、数えきれないほどの癒しのための娯楽が創造されるのです。

 

 視聴覚などから脳に伝達された情報は、大脳に作用し科学という精神を作りだしました。科学は文化の創造に寄与してきたことから、人類にとって最も崇高な精神とみなされるようになりました。

 

 その反面、非学問的と思われがちな娯楽は社会的にはそれほど尊重されていません。でも、科学と芸術の融合から生み出される娯楽は、科学以上に進化しているのです。

 

 世界中の大人から子供まで虜にしている感覚ゲームはますます進化し、それは娯楽の中心となり、喜怒哀楽を言語で楽しむ小説は、時代遅れの娯楽となりつつあります。

 


春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(17)
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