小説の未来(17)

  小説は娯楽の一つではありますが、小説世界における人間関係の仮想体験を通して参考にしていただける点も多々あると思います。だから、そう意味においては実用性も兼ね備えていると言えるかもしれません。

 

 妄想世界の小説は、当然、日常生活に役立つような具体的な実用性を提供するわけではありません。だからといって、役に立たないというわけではないのです。実用性はなくてもちゃんと脳機能(精神)に役立つのが小説なのです。

 

 小説の本来の役割は、日常生活に役立つ実用性の提供にあるのではなく、”感情、理性、運動生理を含めた脳機能(精神)の理解と有効利用の補助”にあるのです。私の小説は、この点を最重要視しています。


                              

                                 娯楽の必要性

 

 人は、生まれながらに恐怖遺伝子を持っています。それは動物が身を守るための不可欠な遺伝子です。一方、生きている限り何らかの事象によって恐怖心が発生します。

 

 そして、その恐怖心は苦痛を伴う悩みを引き起こします。そこで、誰しも苦痛から逃れようとして、苦しい気持ちを癒そうとして、いろんな娯楽麻薬に依存するようになります。

 

 ご存知のヘロインのような薬物麻薬は即効性があります。だから、世界中で薬物麻薬に依存する人が増加しているのです。麻薬は、薬物だけではありません。すでに述べたように、長い歴史を持ち、数十億の人々が利用している精神的麻薬である宗教があります。

 

 私たちは、痛みを伴う苦悩がある限り、痛みをいやしてくれる娯楽を求めます。例えば、宗教、ギャンブル、セックス、ヘロイン、酒、タバコ、音楽、スポーツ、ゲーム、映画、TV、書物など。

 

 人の心から痛みを伴う苦悩がなくならない限り、上記の薬物的、感覚的、精神的麻薬もなくならないでしょう。ということは、小説の役目もなくならないと思っています。

 



                              小説の必要性

 

 苦悩という物は千差万別といっていいのではないでしょうか。また、具体的な悩みは、無限にあるでしょう。だから、具体的な考察も無限にあることになります。

 

 小説において苦悩を考察することは、脳機能(精神)を考察することにもなります。おそらく、脳機能の考察は医学の役割と思っておられる方がほとんどではないでしょうか。

 

 確かに医学は物質的な脳とその生理的運動である脳機能を研究しています。でも、脳機能(精神)というものは、医学だけによって解明されるような代物ではないのです。

 

 前述しましたように、宗教のような精神的麻薬などにおいて、理論的な解明ができないわけではないでしょうが、学術的な理論を用いた説明を行ったとしても、専門知識のない一般の人たちに納得いく考察をさせることはかなり困難と思われます。

 

 そこで、小説の世界を利用せざるを得ないのではないかと思うのです。小説が必ずしも苦悩と精神的麻薬の考察に最適な方法といえるかどうかは疑問ですが、私としては、小説に頼っている現状です。

 



                                欲と大脳

 

 ここで生きる上で不可欠な欲について確認しておきましょう。誰しも思いつくのが食欲ですね。人間は、生命を維持しようとする食欲の遺伝子を持っています。また、種族保存のための性欲遺伝子も保持しています。

 

 食欲がなくなれば、衰弱死します。また、性欲がなくなれば、子孫を残すことができなくなってしまいます。つまり、この二つの欲を満たすことができなくなれば、人類は消滅します。だから、これらの欲を満たすために、生死をかけた精神活動が起きます。利害が対立すれば、殺人も起きることになります。

 

 当然、人間以外の動物にも食欲と性欲はありますが、これらの欲が作用する脳機能には、人間と他の動物とでは大きな違いがあります。第一に言えることは、人間においては他の動物より高度に発達した大脳が働くということです。

 

 大脳の中でも言語・記号を作り出す中枢が発達した人間の脳は、文化を創造してきました。また、同時に他の動物以上の破壊活動も引き起こしてきました。俗にいう、武器を使用した集団的争い、戦争です。

 


春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(17)
0
  • 0円
  • ダウンロード

2 / 9

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント