悪魔と病気

マキさん

男は、私をマキさんとよびました。男に故郷を追われてからも、男は執念深く私にとりつき、私が大事に思っていたネックレスの中に入り、マキさん、マキさん、と呪いの声を発しました。

こういうことは、現実であるのです。強い呪いを持った人間、悪魔のような人間は、乗り移るということすらできるのですね。

 

マキさん、その声が気持ち悪くて、しかし、ネックレスを捨てるにしのびなくて、私はハンマーでそのネックレスを叩きました。すると、声は消えたのですが、悪いことばかり起こります。私の大切な今の彼と大げんかしたり、毎日、呪わしい映像ばかり見えます。ついに、私はネックレスを外して捨ててしまいました。

統合失調症

ここでみなさんに打ち明けなければなりません。私もまた正常な人間ではなく、心に悪魔を持っています。統合失調症という、精神病なのです。悪い声が聞こえたりします。

しかし、その男が、「悪い」ということをどこかでわかっていたのでしょうね。だから、断ち切るために、大事なネックレスは犠牲になって私を守ってくれたのでしょうね。

 

私は病気。でも、守られているなあと思うのです。私の主治医の先生は、私が傷ついて死んでしまうことすら覚悟して私の悪魔を怒ってくれました。私は徐々に回復してきました。

私の病気は、物の中から声がするというものです。しかし、病気に守られた。何故なら、そのネックレスの死とともに、「マキさん」と語りかけられることはもうなくなり、私は今を生きているからです。

望郷

でも、私がその悪魔の男を好きだったという事実は何があっても消せません。悪魔などを愛してしまったということは、大きな傷です。その証拠に、私はその男に乗っ取られた故郷が今でもなつかしい。

 

何があったのか手短に書きますと、私はその男と共謀して、いつか大金持ちになって資産を一緒に操ろうとそそのかされていました。私には、その男のずるさと悪さがかっこよく見えていました。しかし、その男は、自分と私が思いあっていることがばれたとたん、自分の資産と地位を守るため、私の精神病を利用して言い逃れたのです。私は、全てを病気のせいにされ、故郷を両親に追われ、精神病院に入れられたのです。

 

望郷。これは、大きな傷です。私はその悪魔を街から追い出してでも、故郷に帰りたい。しかし、新しい土地で得た幸せ。仕事を得て、支えてくれる看護師の所長さん、そして、いつもそばにいて細やかなメールをくれる彼氏。

これだけのものを得たのに、悪魔に心を汚されたことが消えないなんて・・・。

消えない傷はある

残念ながら、この世に消えない傷はあるというのが、私の今の答えです。でも、その傷のおかげで、私は、なにくそと思ってがんばれるし、こんな文章を書く原動力も得ることができます。

もし、心に消えない傷があるときは、「いやすための人生」を生き続ければいいのです。それが、真に深く生きるということです。

最後に、その男には、純粋な子供がいました。その子供は私になついてくれていたので、この言葉を残したい。父親が悪魔でも、あなたたちには関係ないと。

 

もし、本当にいい人間に育てば、悪魔を無間地獄からすら救うことができるかもしれない。

私の病気がひどかったときに、あんなにひどかった私の母は、私が真面目に働き、前向きになるにつれて本当にいいお母さんになってくれました。

karinomaki
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