エロゴルフ(2)

 植木は、ホッとしたような表情を見せ、松山に忠告した。「それは、よかった。私たちが推察したようにN大臣が暗殺されたのであれば、マフィアがもっとも警戒するのは、あの夜同室していた会長です。今、指紋のことを警察に訴えれば、たとえ公開されなくとも、その情報は警察内部から犯罪組織に流れるでしょう。そして、犯罪組織の打つ手は、火を見るより明らかです。会長、この指紋の件は、絶対に他言してはなりません。私も、聞かなかったことにいたします」

 

 松山の体は、小刻みに震えていた。「まさか、俺まで暗殺されるってことはないよな。おい、植木。冗談じゃないぜ。俺は、何も知らないし、警察でも、N大臣のことについては全くなにもしゃべってない。こんなことになったのも、あの大原というメギツネのせいだ」植木も大原のことが気になっていた。セールスレディーの大原も暗殺事件に加担していたならば、きっと、会長の様子を探りにやってくるような気がした。

 

 「会長、どうも、あの大原は気になりますね。彼女が、暗殺に加担していたという確固たる証拠はないわけですから、何とも言えませんが、なんとなく、近々、会長に接近して来るように思えます。彼女が、N大臣自殺事件のことに探りを入れてきたなら、彼女も一枚かんでいるとみて間違いないでしょう。どんなことがあっても、指紋の件だけは、黙っていてください」松山は、大原の股間を思い出すと色仕掛けにやられた自分がみじめに思えた。

 

                忠告

 

 25日(月)午後3時に、雷山の別荘で松山はN大臣自殺事件の件で二人の刑事と会う約束をした。その事件のことは、すでに警察にはすべてを話したからこれ以上話すことはないと伝えたが、皇帝KGBゴルフ俱楽部について少し伺いたいというのでやむなく面会することにした。二人の刑事は、定刻に別荘にやってきた。松山は、何も話したくなかったが、質問を促した。

 

 

 「どういうご用件でしょうか?」伊達は皇帝KGBゴルフ俱楽部の件で伺ったといった手前、まず、タイゴルフツアーについて聞くことにした。「突然、刑事二人も押しかけまして、誠に申し訳ありません。皇帝KGBゴルフ俱楽部のことなのですが、世界中の大物政財界人が会員になっていると伺っています。日本では、特に問題になっていないようなのですが、欧米では会員に不審な事故死が起きているのです。そこで、タイゴルフツアーなのですが、何か気になるようなことはありませんでしたか。何でも構いません。勧誘に際しての営業マンについてでも構いません」

 

 色仕掛けの勧誘について話そうかと思ったが、そのことをきっかけにN大臣のことを根掘り葉掘り聞かれるような気がして、黙っていることにした。「そうですね。特に、トラブったことは、一切ありませんでした。営業マンの説明通り、とても、楽しくプレーさせていただきました。二日目にA大臣とまわったときは、2アンダーで、三日目にN大臣とまわった時が、3アンダーでした。フェアウェーは広く、ラフは浅めで、グリーもやさしめでした。距離もそれほど長くなく、シニアでも、十分楽しめる手ごろなコースでした。また、4月に行く予定にしています」話し終えた松山は、大臣の名前を出してしまたことに、ちょっとまずかったと内心思った。

 

 伊達は、アマゴルフ界については全く知らなかった。当然、松山が日本アマに出場するほどのトップアマであることも知らなかった。アンダーパーと聞いて、目を丸くした伊達は、少しビビってしまった。「松山さんは、シングルでいらっしゃるですね。それでは、ゴルフを満喫なされたことでしょう。私は、100も切ったことがない、ド素人でして、ゴルフについて話をするのは、お恥ずかしいんですが、N大臣ともラウンドなされたのですね。ああいうことになって、誠に残念です。日本の宝をなくしたような心持です」

 

 自らN大臣の名前を出してしまった手前、話を繋げざるを得なかった。「政治のことはわかりませんが、プレーは礼儀正しく、スコアをごまかすこともなされませんでした。確か、スコアは、97だったでしょうか。アプローチは、なかなかのものでした。かなりやられているみたいでしたね。謙虚な方で、ぜひ日本に帰っても、ご教授いただきたいといわれてました」一瞬、口が滑ったと思った松山は話をやめた。

 伊達は、日本に帰っても、という言葉を聞いて、ますます、暗殺説に傾いた。そして、N大臣自殺のことについて尋ねれば、警察にはまだ言ってないことをポロリと話すように思えた。「97ですか、N大臣は、文武両道とは聞いていましたが、ゴルフの腕も大したものですね。松山さん、話は変わりますが、タイ警察も日本警察も、N大臣の死は、間違いなく自殺と判断しました。今回の事件は、松山さんにとって、不運な事件だったと思います。でももう、この事件は、解決いたしました。ぶしつけで、失礼とは思いますが、できれば、N大臣自殺の件は、忘れていただきたい」 

 

 松山も忘れる気でいたが、警察に念を押されるとN大臣の顔が脳裏のスクリーンにクローズアップされてしまった。ブルブルと顔を左右に振ると、すべてを忘れる決意をして、返事した。「わかりました。N大臣のことは今日限り、きっぱりと忘れます。そして、心よりご冥福をお祈りいたします」その言葉を聞いてほっとした二人の刑事は、笑顔を作った。伊達は、厚かましいと思ったが、帰る前に、ほんの少しゴルフのレッスンを願い出ることにした。

 

 「松山さん、誠に恐縮なのですが、ちょっとでいいですから、ドスライスが出るスイングを見てもらえませんか。相方も、私と同じく、どうしようもないスイングなのです。ほんのちょっとでいいんです。シングルの方に見ていただければ、少しはよくなるんじゃないかと思っているんですが。お願いできますか?」二人の刑事は、そろって頭を下げた。伊都ジュニアゴルフ俱楽部の顧問をしている松山は、笑顔を作ると快く引き受けた。

 

 「そんなに、悲観なされることはありませんよ。誰しもスイングには癖があるものなのです。ほとんどの方は、スライスに悩まされるものです。私でも、最初から上手だったわけではありません。それじゃ、隣のトレーニングルームに移りましょう。さあ、どうぞ」松山は、すっと立ち上がるとリビングの東側にある部屋に向かって歩き始めた。二人は、松山の後に続いて歩き始めた。

 

 隣の部屋には、ウェイトトレーニング器具、ランニングマシン、大型モニター、バーチャルスクリーン、グリーンのネット、などのゴルフに必要とみられるトレーニング器具がそろえられていた。「それじゃ、伊達さん、こちらに立って、まず、アドレスをやってみてください」伊達は、ピンのドライバーを手渡されると、小さなグリーンのマットの前に立ち、いつものアドレスをとった。松山は、いろいろと問題点を発見したが、大きな問題点から矯正することにした。

 

 「一度にいくつも矯正されると、誰しも、スイングができなくなってしまうんです。今日は、特に大切なポイントをお教えします。まず、スタンスですが、伊達さんのスタンスは大きすぎます。しかも、かなりオープンになっています。肩幅より小さいぐらいがいいのです。それと、左手のグリップは、もう少しかぶせてください」伊達は、言われたようにスタンスを狭めて、スクエアにした。左手親指の根元をかぶせるようにグリップを少し右に回した。

 

 松山は、次にスイングをさせた。「それでは、軽く素振りをしてみてください」伊達は、硬い体を回転させてブ~~ンと一振りした。テークバックで肩が十分に回っておらず、ダウンスイングで右肩を前に突き出していた。「ほとんどの場合、スライスするのは、右肩を前に突き出すからなのです。右肩は、前に出すのではなく、あごの下にグイっと押し込んでください。肩は、水平に回すのではなく、縦に回転させるイメージです。最初から、うまくいきませんが、何度も練習すれば、スライスは、かなり小さくなります」

 

 松山は、沢富に顔を向けるとホンマのドライバーを手渡し、声をかけた。「沢富さんもアドレスをとってみてください」スタンスには問題なかったが、ハンドダウンとフックグリップに問題があった。「沢富さんは、もう少し頭を上げてください、そして、左グリップがかぶせすぎですから、左手を少し左に回してください。それでは、軽く素振りしてください」沢富は、左脚を上げて右にスエーして、左腰を引きながらダウンスイングした。

 

サーファーヒカル
作家:春日信彦
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