エロゴルフ(2)

 「まあ、そう嘆くことはないさ。日本には神風があるじゃないか。全国には、春日神社がるだろ。春日の神様は、日本を邪馬台国の時代から守ってくださっているんだ。元寇襲来の時のように、きっと神風を起こして日本を救ってくださるさ。もっと、気楽に考えてもいいんじゃないか。いつもの強気の植木はどこに行ったんだ。そうだ、俺の厄払いも兼ねて、ナカスでパ~~とやるか」

 

 今の植木は中洲でパ~とやる気分ではなかったが、泡姫の色気で松山の臆病神が消え去ってくれるのなら、泡にまみれて踊るアホ~になるのも悪くないように思えた。「そうですね。もはや、日本は呪われている。このまま、犬死するのもしゃくじゃないですか。同じ死ぬなら、泡遊びをとことんやって死にましょう。泡姫といえば、ジャーナリストの岡崎が詳しいですよ。ちょっと、聞いてみますか」

 

 ちょっと元気が出てきた植木に松山はほっとした。「ああ、あの時の。能天気な遊び人か。それはいい。善は急げというじゃないか、早速、聞いてみてくれ」植木は、ルミ子似の泡姫を思い浮かべた時、突然、皇帝KGBツーリストの大原の股間が脳裏に浮かんだ。急激にピンクの股間がズームアップされると疑問が噴き出してきた。「そう、話は変わりますが、我々を色仕掛けで勧誘した大原というのは、N大臣暗殺に加担していたんじゃないでしょうか?まさか、大原が犯人ってことは?」

 

 勧誘と聞いた松山も大原の色仕掛けに疑問を感じていた。今回のN大臣暗殺は、綿密に計画された策謀のように思えてならなかった。「ウ~~、そうか。確かに。におう。大原のメギツネめ、一杯食わせやがったな。万が一、アイスピックに俺の指紋が残っていれば、俺が疑われていたところだった」指紋を消した誰かがいると思った植木は、目を輝かせ、松山を見つめた。

 

 「今、何と言われました。指紋が残っていれば・・」松山もはっとした。「そうだよな。そうだ。指紋がないってことが、おかしいんだ。確かに、俺は、あの時、N大臣に頼まれて、アイスピックで氷を割った。だから、俺の指紋が残っていなければならない。なのに、俺の指紋は、全く残っていなかった。つまり、誰かが、俺の指紋をふき取ったということだ」

 

 植木は右手のこぶしを左手のひらにパチンとぶち当てた。「指紋をふき取ったのはだれか?ヒットマン?。いや、こうも考えられます。N大臣は、会長に容疑がかからないようにと、あえて、会長の指紋が残らないようにアイスピックをきれいにふき取った。こう考えても、不自然ではないような気もします。ウ~~・・」植木は、腕組みをして考えこんだ。そういわれると、松山もN大臣が拭き取ったような気がした。

 

 松山は、大きくうなずき話し始めた。「確かにN大臣が俺のことを考えて、ふき取ったとも考えられなくもない。でもな~~、自殺するときに、そこまで頭が回るものだろうか?仮にだ、アイスピックに俺の指紋が残っていたとしよう。俺の指紋が残っていたからといって、俺が殺人罪に問われるだろうか?俺には、殺人動機がまったくない。冤罪になる可能性は、ないように思うが」

 

 植木も大きくうなずき返事した。「そうですよね。会長の指紋が残っていたからといって、殺人者になるとは到底思えません。殺人動機もなければ、争った形跡もなかったのですから。ということは、うかつにも、指紋をふき取った人物こそ、N大臣殺害の犯人ということです。指紋のことは、警察に話されたのですか?」松山は、顔をゆっくり左右に振った。

 

 植木は、ホッとしたような表情を見せ、松山に忠告した。「それは、よかった。私たちが推察したようにN大臣が暗殺されたのであれば、マフィアがもっとも警戒するのは、あの夜同室していた会長です。今、指紋のことを警察に訴えれば、たとえ公開されなくとも、その情報は警察内部から犯罪組織に流れるでしょう。そして、犯罪組織の打つ手は、火を見るより明らかです。会長、この指紋の件は、絶対に他言してはなりません。私も、聞かなかったことにいたします」

 

 松山の体は、小刻みに震えていた。「まさか、俺まで暗殺されるってことはないよな。おい、植木。冗談じゃないぜ。俺は、何も知らないし、警察でも、N大臣のことについては全くなにもしゃべってない。こんなことになったのも、あの大原というメギツネのせいだ」植木も大原のことが気になっていた。セールスレディーの大原も暗殺事件に加担していたならば、きっと、会長の様子を探りにやってくるような気がした。

 

 「会長、どうも、あの大原は気になりますね。彼女が、暗殺に加担していたという確固たる証拠はないわけですから、何とも言えませんが、なんとなく、近々、会長に接近して来るように思えます。彼女が、N大臣自殺事件のことに探りを入れてきたなら、彼女も一枚かんでいるとみて間違いないでしょう。どんなことがあっても、指紋の件だけは、黙っていてください」松山は、大原の股間を思い出すと色仕掛けにやられた自分がみじめに思えた。

 

                忠告

 

 25日(月)午後3時に、雷山の別荘で松山はN大臣自殺事件の件で二人の刑事と会う約束をした。その事件のことは、すでに警察にはすべてを話したからこれ以上話すことはないと伝えたが、皇帝KGBゴルフ俱楽部について少し伺いたいというのでやむなく面会することにした。二人の刑事は、定刻に別荘にやってきた。松山は、何も話したくなかったが、質問を促した。

 

 

 「どういうご用件でしょうか?」伊達は皇帝KGBゴルフ俱楽部の件で伺ったといった手前、まず、タイゴルフツアーについて聞くことにした。「突然、刑事二人も押しかけまして、誠に申し訳ありません。皇帝KGBゴルフ俱楽部のことなのですが、世界中の大物政財界人が会員になっていると伺っています。日本では、特に問題になっていないようなのですが、欧米では会員に不審な事故死が起きているのです。そこで、タイゴルフツアーなのですが、何か気になるようなことはありませんでしたか。何でも構いません。勧誘に際しての営業マンについてでも構いません」

 

 色仕掛けの勧誘について話そうかと思ったが、そのことをきっかけにN大臣のことを根掘り葉掘り聞かれるような気がして、黙っていることにした。「そうですね。特に、トラブったことは、一切ありませんでした。営業マンの説明通り、とても、楽しくプレーさせていただきました。二日目にA大臣とまわったときは、2アンダーで、三日目にN大臣とまわった時が、3アンダーでした。フェアウェーは広く、ラフは浅めで、グリーもやさしめでした。距離もそれほど長くなく、シニアでも、十分楽しめる手ごろなコースでした。また、4月に行く予定にしています」話し終えた松山は、大臣の名前を出してしまたことに、ちょっとまずかったと内心思った。

 

 伊達は、アマゴルフ界については全く知らなかった。当然、松山が日本アマに出場するほどのトップアマであることも知らなかった。アンダーパーと聞いて、目を丸くした伊達は、少しビビってしまった。「松山さんは、シングルでいらっしゃるですね。それでは、ゴルフを満喫なされたことでしょう。私は、100も切ったことがない、ド素人でして、ゴルフについて話をするのは、お恥ずかしいんですが、N大臣ともラウンドなされたのですね。ああいうことになって、誠に残念です。日本の宝をなくしたような心持です」

 

 自らN大臣の名前を出してしまった手前、話を繋げざるを得なかった。「政治のことはわかりませんが、プレーは礼儀正しく、スコアをごまかすこともなされませんでした。確か、スコアは、97だったでしょうか。アプローチは、なかなかのものでした。かなりやられているみたいでしたね。謙虚な方で、ぜひ日本に帰っても、ご教授いただきたいといわれてました」一瞬、口が滑ったと思った松山は話をやめた。

春日信彦
作家:春日信彦
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