エロゴルフ(2)

 岡崎は、グイっとウイスキーを飲み込むと眉間にしわを寄せ話し始めた。「N大臣のことですが、私は、暗殺と確信しています。自殺の動機が、全くないわけですから。おそらく、マフィアによる暗殺でしょう。そう考えると、ここで招待を断れば、ますます、お二人を警戒すると思われます。むしろ、素直に招待されたほうが、相手方は警戒を緩めるように思われます。それと・・」

 

 植木も岡崎の考えに同感だった。「それと、何か?」岡崎は、国会議員のことが気になっていた。「ロシア皇帝KGBバンクの役員と国会議員の密談が、気になるのです。国会議員が絡んでいるとなれば、水面下で大きなプロジェクトが推し進められていると考えてもおかしくありません。もしかすると、カジノかも?」植木はカジノと聞いて身を乗り出した。「やはり、カジノですかね」

 

 岡崎は、東京まで出かけジャーナリストの仲間からカジノに関する情報をとっていた。もしかしたら、N大臣の暗殺は、カジノの件が絡んでいるのではないかとふと思った。カジノ運営には、日本の暴力団だけでなく、国際的ないろんなマフィアが絡んでくると考えられる。利権が絡み、マフィアの抗争は避けられない。いったん、カジノが運営されれば、付属して麻薬の売買、不法入国者の売春、議員とマフィア間の贈収賄、など日本警察でも手が出せないような国際的な犯罪が勃発する。

 

 岡崎は「虎穴(こけつ)にいらずんば、虎児(こじ)を得ず」とつぶやき、話し始めた。「植木さん、彼らの手に乗って、ディナーショーに招待されてみてはいかがでしょう。もしかすれば、国会議員連中についたコンパニオンたちから、カジノ予定地についての情報を得られるかもしれません。どうです?」植木は、地雷が埋め込まれた危険地域に一歩足を踏み入れるような恐怖を覚えたが、会長を国会議員にするために一か八かの賭けに出ることにした。

 

 「虎穴にいらずんば、虎児を得ず、ですね。もし、カジノ予定地に関する情報が入りましたら、いの一番に、岡崎さんにお知らせします。でも、私も命がけです。その代わりというのもなんですが、会長の政界進出にご協力いただけませんか」岡崎は、カジノ予定地の情報が喉から手が出るほど欲しかった。しかし、名もないジャーナリストでは、選挙に関しては力不足と思った。「協力といいましても、選挙に関してド素人の私には、投票を左右するほどの力はありませんからね~」

 

 ニコッと笑顔を作った植木は、部屋をグルっと見渡した。そして、高級テーブルを右手でさすりながら上目遣いで話し始めた。「いやいや、ジャーナリストで、この高級マンション。かなり、方々に力がおありと見えますが。特に、華丸不動産には」岡崎の顔が固まった。「いや、まあ、このマンションは、おやじの名義でして。ちょっと、使わせてもらってるだけですよ」目を丸くした岡崎は、震える手でグラスを口元に運んだ。うろたえた岡崎を見て、追い打ちをかけた。

 

 「岡崎さんは、カジノ予定地の情報が欲しいんじゃありませんか?華丸不動産のために。岡崎さん、お願いします。華丸不動産に渡りをつけてほしいのです。華丸不動産なら、福岡の票を動かすことができます。ぜひ、お力をお貸しください。この通り」植木は、フロアに正座すると土下座をしてお願いした。困り果てた岡崎は、弁解がましく話し始めた。「ジャーナリストとして、カジノ予定地の情報は、確かに欲しいのです。でも、政治にかかわりたくないのです。選挙の件は、勘弁してください」

 

 茫然自失となった植木は、さみしそうな声で話し始めた。「そうですか。だめですか。頼みの綱が切れてしまっては、会長に会わせる顔がありません。死んでお詫びを・・」跳び上がった岡崎は、悲壮な顔で正座している植木に声をかけた。「植木先輩、そう、悲観なされずに、今日は楽しく飲み明かしましょう。さあ」椅子に腰掛けた植木は、グラスを勧められたが、ガクンとうなだれて今にも泣きだしそうな表情を作った。

 

 岡崎は、父親に政治にはかかわるなと強く念を押されていたが、植木の悲しそうな表情を見ているとやるせなくなってしまった。この際、ほんの少しだけ協力することにした。「先輩、それじゃ、ほんの少し、協力いたしましょう。でも、あてにはならないですよ。私は、選挙に関しては、ド素人なんですから。いいですか」目の前がパッと明るくなった植木は、大声で感謝の言葉を述べた。「ありがとう。華丸不動産がバックにつけば、当選したも同然。本当にありがとう」

 

 あまりの喜びように困惑した岡崎は、後でがっかりさせては申し訳ないと思い、念を押した。「先輩、喜ぶのは、早すぎます。選挙というのは、権力争いなんです。お金も絡んでくるし、とにかく、厄介なんです。あまり、当てにしないでください」植木の喜びは、止まらなかった。「何をおしゃいます。専務のお父様は、天下の笹川家とも親しくなされているとか。鬼に金棒とは、このことじゃないですか」

 

 岡崎は、植木がここまで能天気だとは思わなかった。いったん、協力するといった手前、専務の父親だけでなく、医師会に影響力のある吉岡にも協力を依頼せざるを得ないように思えた。あまりの嬉しさに、植木は、足をヒョイヒョイと持ち上げながら、やすき節を踊り始めていた。岡崎は、植木の能天気さにあきれていたが、突然、胸騒ぎがすると、震えが起きた。その時、ドジョウすくいのポーズをとりながら踊るアホ~のすぐ後ろまで、デビルが影が迫っていた。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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