エロゴルフ(2)

 大原は植木の好奇心を利用してディナーショーに招待する作戦に切り替えた。植木に笑顔を向けると情報を投げかけた。「本当に、ここだけの話ですよ。今回の招待客は、世界的大物ぞろいなんです。かれらのほかに、サウジやクエートの王族たち、さらに、東京から数人の国会議員もやってくるとのことです。そのために、夜のコンパニオンも。ということは、かなり大きなプロジェクトじゃないでしょうか?」

 

 松山は、ますます大原がうさん臭く感じられた。このような極秘情報はどんなことがっても他言できないはず。もしかすると、ディナーショーには、マフィアが紛れ込んでいるのではないかと思えた。だとすると、我々の顔をヒットマンに見せるのが、招待の目的ではないか?身震いが起きた松山が、改めて招待を断る返事をしようとしたとき、真剣な表情の植木が口をはさんだ。

 

 「会長、わざわざ、糸島までお越しいただいたのですから、今回の件は、考えさせてもらったらどうでしょう。その返事は、いつまでにすればいいのですか?」植木は、松山に振り向いた。松山は、ここではっきりと断るべきだと思ったが、大原の好意も配慮して日を置いて断ることにした。「そうですね、それじゃ、少し考えさせてください。二人で、相談したうえで、ご返事いたします」

 

 大原は、この場で返事をもらいたかったが、きっとこの招待に乗ってくると判断した大原は、笑顔で返事した。「さようでございますか、ディナーショーは225日、日曜日に予定していますので、217日、土曜日までにご返事いただけますか」大原は、ゆっくりと股間がのぞけるように脚を組み替え、二人に笑顔を見せた。植木は身を乗り出してあからさまに覗き込んだが、松山は、大原の色仕掛けに警戒を示した。

 

 

 植木は、頭の中で密かに今後の作戦を練っていた。国会議員と皇帝KGBバンク役員との秘談をネタに国会議員を利用できるかもしれない。もしかすると、メインバンクをめぐっての談合なのかもしれない。いや、建設予定地か?今のところ、大阪に予定されているが、九州では、長崎、宮崎も候補地にあがっていたはず。建設予定地に関しては、不動産会社がかかわるわけだ。不動産会社といえば、九州ではトップの華丸不動産も動くはず。

 

 岡崎は、カジノの件にかなり詳しかったが、もしかしたら、華丸不動産専務である父親に依頼されて、カジノ建設予定地を探っていたのかもしれない。いつものごとく、買収して、地上げをするつもりだな。そうか、ジャーナリストというのはカバーで、華丸不動産のスパイってわけだな。どおりで、金回りがいいはずだ。植木は、ディナーショー招待の話を餌に、取引をしてみることにした。政界とつながりの深い華丸不動産を味方につければ、会長の政界進出は夢でないように思えてきた。

 

                取引

 

 早速、211日(日)、午後8時に、植木は中洲のクラブミニスカで岡崎と会う約束をした。植木は約束時刻の10分前に到着した。予約を確認したボーイは、左奥のテーブルに案内した。テーブルに着くとまだ145歳と思われるような浅黒い少女が右横に腰掛けた。この店には、未成年者と思われる少女がたくさんいる。本当に未成年であれば、風俗営業法違反に当たると思ったが、年齢を確かめる気にはならなかった。

 

 「オジサン、アタシー、ミク。ヨロピク。ミズワリデ、イ~?」ぎこちない日本語が耳に入った。植木は、一瞬身を引いた。色白もいれば浅黒いのもいる。この子たちは、日本人じゃない。不法入国のタイ人、ベトナム人、フィリピン人たちじゃないだろうか?やはり、ここはヤバイ店かもしれない。引きつった顔で「ハイ」と返事するとあどけない少女はカウンターに走っていった。

 

 テーブルについて20分ほどすると両脇に少女を抱きしめた岡崎が、笑い声をあげながらテーブルにやってきた。ソファーに腰掛けると早速大きな目をギョロギョロさせて口火を切った。「折り入って、話とは?」植木は少女たちに話を聞かれるようで話しにくくなってしまった。「いや、ちょっと、ほら、N大臣の。でも、この子たちに聞かれるとまずいような」岡崎は、かぶりを振ってこたえた。

 

 「心配いらん、この子たちは、あいさつ程度しか、日本語はわからん。N大臣のことで、まだ取り調べがあるとね。ポリちゃんも、しつこかね~」少女たちのことが気になった植木は、N大臣の話は後回しにすることにした。「そっちの件は、まあ~、今日は、カジノのことを聞きたくて」岡崎は、カジノと聞いて、真剣な表情を作った。「カジノといいますと?」植木は、右横の小顔少女をちらっと覗き見ると話し始めた。

 

 「ほら、この前言っていたでしょ。第一号カジノは大阪が濃厚だと。福岡はどうなのかと思って」岡崎は、一つうなずいて答えた。「今のところ、第一号は大阪でしょ。第二号は、混戦ですな。関東では、東京、神奈川、千葉、九州では、長崎、宮崎、などの候補地が上がっています。そう、北九州に作りたいという議員もいますしね~。何とも言えませんな」やはりそうかと思った植木は、うなずき、話を続けた。「ここだけの話ですよ。本当にこの子たちは大丈夫でしょうね」岡崎は、マジな顔つきで答えた。「気にせんでよか~~」

 

 身を乗り出した植木は、小さな声で話し始めた。「国会議員が招待されているディナーショーに、会長と私も招待されたんです」国会議員と聞いた岡崎は、口元に運んでいたグラスをピタッと止めた。グラスをテーブルに置くとジャーナリストの表情を見せた。「その話は、ここではまずい。場所を変えましょう」岡崎は、立ち上がるとカウンターに向かった。ママと話し終えて戻ってきた岡崎は、「出ましょう」と声をかけてドアに向かった。

 

 二人は、六本松にある岡崎のマンションに向かった。岡崎は、一人住まいにもかかわらず、3LDKの高級マンションで優雅に暮らしていた。植木は、あまりの豪華さに目を丸くしてしまった。リビングに案内されると、岡崎はサイドボードからグラスとマッカランを取り出してきた。それをテーブルに置くとフリッジから氷と水を運んできた。「ここだったら、盗聴されることもない。早速、例の話をお聞きしましょう」

 

 岡崎は、水割りを二つ作り、一つを植木に差し出した。植木は、なんとなく緊張していた。ディナーショー招待の話は、N大臣暗殺の口封じのようで、他言することに慎重になっていた。「先日、タイツアーに勧誘したセールスレディーの大原がやってきましてね、タイツアーでは大変ご迷惑をおかけしました、と言って、お詫びにとディナーショーに我々を招待したんです。でも、会長は、この話は不自然だから断ると言ってるんですが、やはり、断るべきでしょうか、ジャーナリストでいらっしゃる岡崎さんのご意見を伺いたくて」

 

 グラスを傾けカランとグラスを響かせ、岡崎は首をかしげた。「ほ~、ディナーショーにですか。先程、国会議員のことを言われてましたね」植木は、一口水割りを流し込み、一息おいて返事した。「そう。それがですね、そのディナーショーというのは、ロシア皇帝KGBバンク幹部役員と国会議員たちへの接待らしいのです。そこに我々も招待するというのです。どう思われますか?」岡崎は、腕組みをして考えをまとめているような顔つきで、うなづいた。

 

 何かひらめいたような顔つきになると話し始めた。「なぜ、植木さんたちをディナーショーに招待したか?そこですね。確かに、会長がおっしゃるように不自然です。万が一、N大臣が暗殺されていたとするならば、犯罪組織の監視とも考えられます。でも、彼らの手に乗ってみるのもわるくない」植木は、腑に落ちなかった。「それじゃ、ディナーショーに招待されてみてはどうかと」

 

春日信彦
作家:春日信彦
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