エロゴルフ(2)

 駐車場には、ベンツS550の横に沢富のかわいいブルーのクロスビーが並んでいた。松山はクロスビーを左右交互に眺めてから話し始めた。「新発売のクロスビーですね。息子の嫁さんがスズキファンでして、ピンクのラパンからオレンジツートンのクロスビーに乗り換えたんですよ。スズキはかわいいのを作りますね。沢富さんもスズキファンなんですね」ニコッと笑顔を作り頭を掻きながら答えた。「はい、ダチがスズキのメーカーにいまして、彼に勧められて乗るようになったんです。とにかく、かわいいですよね。僕もかわいいのが好きなんです」クロスビーに乗り込んだ二人は、松山に会釈すると下り坂をゆっくり進んだ。

 

                口止め

 

 210日(土)午後2時に皇帝KGBジャパンツーリストの大原がやってきた。用件は、タイゴルフツアーで迷惑をかけた謝罪ということだったが、二人は、やはり来たかと大原の探りに警戒した。松山は、正面に腰掛けた大原のミニスカートから伸びた白い脚を見つめにやけた顔であいさつした。「お詫びなんて、N大臣の件は、別に気にしていません。思いもかけず、降りかかってくる災難は、誰しもあることですから」

 

 大原はなんとなくよそよそしい態度から二人がN大臣自殺事件に関して何か隠していると感じ取っていた。「いえ、松山様には、大変ご迷惑をおかけしました。何らかの形でお詫び申し上げたいと思いながら、謝罪が遅れまして申し訳ありません。お二人にいかような形でお詫び申し上げようかと本社に問い合わせたところ、皇帝KGBナカスホテルでのディナーショーに招待してはどうかとのことで、早速そのご案内に参りました。

 

 わざわざ糸島までやってきて、謝罪として二人をディナーショーに招待するとは、あまりにも不自然だと松山は思った。二人は、お互いの顔を見合わせて、小さくうなずいた。「大原さん、そのようなことは結構です。先ほども言いましたように、別に気にしてはいません。タイゴルフツアーは、とても楽しまさせていただきました。4月になったらまた、ツアーに参加したいと思っています。その時は、よろしくお願いします」

 

 

 笑顔を作った大原は長い脚をゆっくり組みかえ、松山の視線を引き付けた。股間に目のない植木は一瞬のぞき込んでしまった。「松山様、こちらの気持ちですから、軽い気持ちで、お越しくださいませんか。そのディナーショーでは、ロシアで有名なベリーダンサーたちが参ります。日本では、見ることができない美人ぞろいなんですよ。いかがですか。ロシア人のコンパニオンもお付けいたしますので、心行くまでお遊びくださって結構です」

 

 二人は、顔を見合わせて、首をかしげた。「コンパニオンまでつくディナーショーとは、贅沢ですね。私たちのほかに、どのような方がいらっしゃるのですか?」大原は、ちょっとためらうようなしぐさを見せたが、笑顔で返事した。「ここだけの話にしてください。今回のディナーショーは、ロシア皇帝KGBバンクの幹部役員の接待なのです。松山様も植木様も大切なお客様ですので、ご招待するようにとの本社からの指示なのです。

 

 二人は目を丸くして顔を見合わせた。透き通るシルクのショーツが目に突き刺さり勃起してしまった植木が、股間を抑えて興奮しながら尋ねた。「福岡に、

かの有名なロシア皇帝KGBバンクの幹部役員がいらっしゃるんですか。ということは、福岡で何らかのプロジェクトが進められていると言うことですね。もしかして、今話題のカジノですか?」大原にとって、いつも能天気の植木が、即座にプロジェクトを察するとは意外であった。大原は目を丸くして答えた。「さすが、植木様。極秘にしてくださいね。私もはっきりしたことは知らないのですが、上司の話では、カジノではないかと」

 

 植木は、ジャーナリストの岡崎からカジノの情報を得ていた。CIAマフィアがカジノ建設地として大阪を予定していると聞いていたが、まさか、ロシア皇帝KGBバンクまでが水面下で動いているとは、意外だった。植木は、幹部役員とやらの風貌を見たくなった。植木の目はギラギラと輝き始めた。カジノの話は植木の好奇心を刺激してしまった、と思った松山は、これ以上好奇心を刺激しないようにと話しに割り込んだ。「それはそれは、結構なおもてなしには恐縮いたします。でも、我々、平民がのこのこと出向くディナーショーではありません。お気持ちだけ、頂戴いたします」

 

 大原は植木の好奇心を利用してディナーショーに招待する作戦に切り替えた。植木に笑顔を向けると情報を投げかけた。「本当に、ここだけの話ですよ。今回の招待客は、世界的大物ぞろいなんです。かれらのほかに、サウジやクエートの王族たち、さらに、東京から数人の国会議員もやってくるとのことです。そのために、夜のコンパニオンも。ということは、かなり大きなプロジェクトじゃないでしょうか?」

 

 松山は、ますます大原がうさん臭く感じられた。このような極秘情報はどんなことがっても他言できないはず。もしかすると、ディナーショーには、マフィアが紛れ込んでいるのではないかと思えた。だとすると、我々の顔をヒットマンに見せるのが、招待の目的ではないか?身震いが起きた松山が、改めて招待を断る返事をしようとしたとき、真剣な表情の植木が口をはさんだ。

 

 「会長、わざわざ、糸島までお越しいただいたのですから、今回の件は、考えさせてもらったらどうでしょう。その返事は、いつまでにすればいいのですか?」植木は、松山に振り向いた。松山は、ここではっきりと断るべきだと思ったが、大原の好意も配慮して日を置いて断ることにした。「そうですね、それじゃ、少し考えさせてください。二人で、相談したうえで、ご返事いたします」

 

 大原は、この場で返事をもらいたかったが、きっとこの招待に乗ってくると判断した大原は、笑顔で返事した。「さようでございますか、ディナーショーは225日、日曜日に予定していますので、217日、土曜日までにご返事いただけますか」大原は、ゆっくりと股間がのぞけるように脚を組み替え、二人に笑顔を見せた。植木は身を乗り出してあからさまに覗き込んだが、松山は、大原の色仕掛けに警戒を示した。

 

 

 植木は、頭の中で密かに今後の作戦を練っていた。国会議員と皇帝KGBバンク役員との秘談をネタに国会議員を利用できるかもしれない。もしかすると、メインバンクをめぐっての談合なのかもしれない。いや、建設予定地か?今のところ、大阪に予定されているが、九州では、長崎、宮崎も候補地にあがっていたはず。建設予定地に関しては、不動産会社がかかわるわけだ。不動産会社といえば、九州ではトップの華丸不動産も動くはず。

 

 岡崎は、カジノの件にかなり詳しかったが、もしかしたら、華丸不動産専務である父親に依頼されて、カジノ建設予定地を探っていたのかもしれない。いつものごとく、買収して、地上げをするつもりだな。そうか、ジャーナリストというのはカバーで、華丸不動産のスパイってわけだな。どおりで、金回りがいいはずだ。植木は、ディナーショー招待の話を餌に、取引をしてみることにした。政界とつながりの深い華丸不動産を味方につければ、会長の政界進出は夢でないように思えてきた。

 

                取引

 

 早速、211日(日)、午後8時に、植木は中洲のクラブミニスカで岡崎と会う約束をした。植木は約束時刻の10分前に到着した。予約を確認したボーイは、左奥のテーブルに案内した。テーブルに着くとまだ145歳と思われるような浅黒い少女が右横に腰掛けた。この店には、未成年者と思われる少女がたくさんいる。本当に未成年であれば、風俗営業法違反に当たると思ったが、年齢を確かめる気にはならなかった。

 

 「オジサン、アタシー、ミク。ヨロピク。ミズワリデ、イ~?」ぎこちない日本語が耳に入った。植木は、一瞬身を引いた。色白もいれば浅黒いのもいる。この子たちは、日本人じゃない。不法入国のタイ人、ベトナム人、フィリピン人たちじゃないだろうか?やはり、ここはヤバイ店かもしれない。引きつった顔で「ハイ」と返事するとあどけない少女はカウンターに走っていった。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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