エロゴルフ(2)

 隣の部屋には、ウェイトトレーニング器具、ランニングマシン、大型モニター、バーチャルスクリーン、グリーンのネット、などのゴルフに必要とみられるトレーニング器具がそろえられていた。「それじゃ、伊達さん、こちらに立って、まず、アドレスをやってみてください」伊達は、ピンのドライバーを手渡されると、小さなグリーンのマットの前に立ち、いつものアドレスをとった。松山は、いろいろと問題点を発見したが、大きな問題点から矯正することにした。

 

 「一度にいくつも矯正されると、誰しも、スイングができなくなってしまうんです。今日は、特に大切なポイントをお教えします。まず、スタンスですが、伊達さんのスタンスは大きすぎます。しかも、かなりオープンになっています。肩幅より小さいぐらいがいいのです。それと、左手のグリップは、もう少しかぶせてください」伊達は、言われたようにスタンスを狭めて、スクエアにした。左手親指の根元をかぶせるようにグリップを少し右に回した。

 

 松山は、次にスイングをさせた。「それでは、軽く素振りをしてみてください」伊達は、硬い体を回転させてブ~~ンと一振りした。テークバックで肩が十分に回っておらず、ダウンスイングで右肩を前に突き出していた。「ほとんどの場合、スライスするのは、右肩を前に突き出すからなのです。右肩は、前に出すのではなく、あごの下にグイっと押し込んでください。肩は、水平に回すのではなく、縦に回転させるイメージです。最初から、うまくいきませんが、何度も練習すれば、スライスは、かなり小さくなります」

 

 松山は、沢富に顔を向けるとホンマのドライバーを手渡し、声をかけた。「沢富さんもアドレスをとってみてください」スタンスには問題なかったが、ハンドダウンとフックグリップに問題があった。「沢富さんは、もう少し頭を上げてください、そして、左グリップがかぶせすぎですから、左手を少し左に回してください。それでは、軽く素振りしてください」沢富は、左脚を上げて右にスエーして、左腰を引きながらダウンスイングした。

 

 「テークバックの時、腰が右に動いています。左脚を上げずに肩だけを回すようにしてください。フィニッシュでは、右足に体重を乗せるのではなく、左脚に乗せてください。では、お二人のスイングをモニターで見てみましょう」壁に据えられた大型モニターに目をやると伊達のスイング姿が映し出された。「伊達さん、自分のスイングを見られてどうですか?」伊達は、目も当てられないへんてこりんなスイングを見て、唖然としてしまった。「いや、これはひどい。恥ずかしくて、見ていられませんな」

 

 つぎに沢富のスイング姿が映し出された。「沢富さんのスイングです。いかがですか?」沢富も自分のスイングを見て腰を抜かしそうになった。「何ですか、このへっぴり腰、石川プロと全然違うじゃないですか。石川プロをまねてるつもりなですがね~。練習すれば、石川プロみたいに、なれますかね~~」松山は、大声でワハハ~~と笑ってしまった。「プロみたいには、そう簡単になれませんよ。シングルの私でも、石川プロとは、程遠いんです。とにかく、根気よく練習してみてください。時々、私がチェックしてあげますから」

 

 伊達は、あまりにも醜いスイングを見せられ、クラブを見ると恨めしくなった。ゴルフなんかくそくらえと内心思ったが、とにかく、レッスンをしてもらったお礼を言って帰ることにした。「松山さんにレッスンしていただいて、練習意欲がわいてきました。しっかり、練習して、100を切れるように頑張ります。ぜひ、また、レッスンお願いします」伊達は、心にもないことを言って、沢富に振り向き目配せした。

 

 「いや、まったく、こんなド素人の我々にレッスンしていただき、ありがとうございました。必ず、100を切って見せます。そうだ、もし、100が切れたら、ラウンドレッスンしていただけますか?」ニコッと笑顔を作った松山は、うなずいて返事した。「はい、ご一緒いたしましょう。向上心の強いお二人だったら、きっと100は切れます。頑張ってください」松山は二人を駐車場まで見送った。

 

 駐車場には、ベンツS550の横に沢富のかわいいブルーのクロスビーが並んでいた。松山はクロスビーを左右交互に眺めてから話し始めた。「新発売のクロスビーですね。息子の嫁さんがスズキファンでして、ピンクのラパンからオレンジツートンのクロスビーに乗り換えたんですよ。スズキはかわいいのを作りますね。沢富さんもスズキファンなんですね」ニコッと笑顔を作り頭を掻きながら答えた。「はい、ダチがスズキのメーカーにいまして、彼に勧められて乗るようになったんです。とにかく、かわいいですよね。僕もかわいいのが好きなんです」クロスビーに乗り込んだ二人は、松山に会釈すると下り坂をゆっくり進んだ。

 

                口止め

 

 210日(土)午後2時に皇帝KGBジャパンツーリストの大原がやってきた。用件は、タイゴルフツアーで迷惑をかけた謝罪ということだったが、二人は、やはり来たかと大原の探りに警戒した。松山は、正面に腰掛けた大原のミニスカートから伸びた白い脚を見つめにやけた顔であいさつした。「お詫びなんて、N大臣の件は、別に気にしていません。思いもかけず、降りかかってくる災難は、誰しもあることですから」

 

 大原はなんとなくよそよそしい態度から二人がN大臣自殺事件に関して何か隠していると感じ取っていた。「いえ、松山様には、大変ご迷惑をおかけしました。何らかの形でお詫び申し上げたいと思いながら、謝罪が遅れまして申し訳ありません。お二人にいかような形でお詫び申し上げようかと本社に問い合わせたところ、皇帝KGBナカスホテルでのディナーショーに招待してはどうかとのことで、早速そのご案内に参りました。

 

 わざわざ糸島までやってきて、謝罪として二人をディナーショーに招待するとは、あまりにも不自然だと松山は思った。二人は、お互いの顔を見合わせて、小さくうなずいた。「大原さん、そのようなことは結構です。先ほども言いましたように、別に気にしてはいません。タイゴルフツアーは、とても楽しまさせていただきました。4月になったらまた、ツアーに参加したいと思っています。その時は、よろしくお願いします」

 

 

 笑顔を作った大原は長い脚をゆっくり組みかえ、松山の視線を引き付けた。股間に目のない植木は一瞬のぞき込んでしまった。「松山様、こちらの気持ちですから、軽い気持ちで、お越しくださいませんか。そのディナーショーでは、ロシアで有名なベリーダンサーたちが参ります。日本では、見ることができない美人ぞろいなんですよ。いかがですか。ロシア人のコンパニオンもお付けいたしますので、心行くまでお遊びくださって結構です」

 

 二人は、顔を見合わせて、首をかしげた。「コンパニオンまでつくディナーショーとは、贅沢ですね。私たちのほかに、どのような方がいらっしゃるのですか?」大原は、ちょっとためらうようなしぐさを見せたが、笑顔で返事した。「ここだけの話にしてください。今回のディナーショーは、ロシア皇帝KGBバンクの幹部役員の接待なのです。松山様も植木様も大切なお客様ですので、ご招待するようにとの本社からの指示なのです。

 

 二人は目を丸くして顔を見合わせた。透き通るシルクのショーツが目に突き刺さり勃起してしまった植木が、股間を抑えて興奮しながら尋ねた。「福岡に、

かの有名なロシア皇帝KGBバンクの幹部役員がいらっしゃるんですか。ということは、福岡で何らかのプロジェクトが進められていると言うことですね。もしかして、今話題のカジノですか?」大原にとって、いつも能天気の植木が、即座にプロジェクトを察するとは意外であった。大原は目を丸くして答えた。「さすが、植木様。極秘にしてくださいね。私もはっきりしたことは知らないのですが、上司の話では、カジノではないかと」

 

 植木は、ジャーナリストの岡崎からカジノの情報を得ていた。CIAマフィアがカジノ建設地として大阪を予定していると聞いていたが、まさか、ロシア皇帝KGBバンクまでが水面下で動いているとは、意外だった。植木は、幹部役員とやらの風貌を見たくなった。植木の目はギラギラと輝き始めた。カジノの話は植木の好奇心を刺激してしまった、と思った松山は、これ以上好奇心を刺激しないようにと話しに割り込んだ。「それはそれは、結構なおもてなしには恐縮いたします。でも、我々、平民がのこのこと出向くディナーショーではありません。お気持ちだけ、頂戴いたします」

 

春日信彦
作家:春日信彦
エロゴルフ(2)
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