エロゴルフ(2)

 「どういうご用件でしょうか?」伊達は皇帝KGBゴルフ俱楽部の件で伺ったといった手前、まず、タイゴルフツアーについて聞くことにした。「突然、刑事二人も押しかけまして、誠に申し訳ありません。皇帝KGBゴルフ俱楽部のことなのですが、世界中の大物政財界人が会員になっていると伺っています。日本では、特に問題になっていないようなのですが、欧米では会員に不審な事故死が起きているのです。そこで、タイゴルフツアーなのですが、何か気になるようなことはありませんでしたか。何でも構いません。勧誘に際しての営業マンについてでも構いません」

 

 色仕掛けの勧誘について話そうかと思ったが、そのことをきっかけにN大臣のことを根掘り葉掘り聞かれるような気がして、黙っていることにした。「そうですね。特に、トラブったことは、一切ありませんでした。営業マンの説明通り、とても、楽しくプレーさせていただきました。二日目にA大臣とまわったときは、2アンダーで、三日目にN大臣とまわった時が、3アンダーでした。フェアウェーは広く、ラフは浅めで、グリーもやさしめでした。距離もそれほど長くなく、シニアでも、十分楽しめる手ごろなコースでした。また、4月に行く予定にしています」話し終えた松山は、大臣の名前を出してしまたことに、ちょっとまずかったと内心思った。

 

 伊達は、アマゴルフ界については全く知らなかった。当然、松山が日本アマに出場するほどのトップアマであることも知らなかった。アンダーパーと聞いて、目を丸くした伊達は、少しビビってしまった。「松山さんは、シングルでいらっしゃるですね。それでは、ゴルフを満喫なされたことでしょう。私は、100も切ったことがない、ド素人でして、ゴルフについて話をするのは、お恥ずかしいんですが、N大臣ともラウンドなされたのですね。ああいうことになって、誠に残念です。日本の宝をなくしたような心持です」

 

 自らN大臣の名前を出してしまった手前、話を繋げざるを得なかった。「政治のことはわかりませんが、プレーは礼儀正しく、スコアをごまかすこともなされませんでした。確か、スコアは、97だったでしょうか。アプローチは、なかなかのものでした。かなりやられているみたいでしたね。謙虚な方で、ぜひ日本に帰っても、ご教授いただきたいといわれてました」一瞬、口が滑ったと思った松山は話をやめた。

 伊達は、日本に帰っても、という言葉を聞いて、ますます、暗殺説に傾いた。そして、N大臣自殺のことについて尋ねれば、警察にはまだ言ってないことをポロリと話すように思えた。「97ですか、N大臣は、文武両道とは聞いていましたが、ゴルフの腕も大したものですね。松山さん、話は変わりますが、タイ警察も日本警察も、N大臣の死は、間違いなく自殺と判断しました。今回の事件は、松山さんにとって、不運な事件だったと思います。でももう、この事件は、解決いたしました。ぶしつけで、失礼とは思いますが、できれば、N大臣自殺の件は、忘れていただきたい」 

 

 松山も忘れる気でいたが、警察に念を押されるとN大臣の顔が脳裏のスクリーンにクローズアップされてしまった。ブルブルと顔を左右に振ると、すべてを忘れる決意をして、返事した。「わかりました。N大臣のことは今日限り、きっぱりと忘れます。そして、心よりご冥福をお祈りいたします」その言葉を聞いてほっとした二人の刑事は、笑顔を作った。伊達は、厚かましいと思ったが、帰る前に、ほんの少しゴルフのレッスンを願い出ることにした。

 

 「松山さん、誠に恐縮なのですが、ちょっとでいいですから、ドスライスが出るスイングを見てもらえませんか。相方も、私と同じく、どうしようもないスイングなのです。ほんのちょっとでいいんです。シングルの方に見ていただければ、少しはよくなるんじゃないかと思っているんですが。お願いできますか?」二人の刑事は、そろって頭を下げた。伊都ジュニアゴルフ俱楽部の顧問をしている松山は、笑顔を作ると快く引き受けた。

 

 「そんなに、悲観なされることはありませんよ。誰しもスイングには癖があるものなのです。ほとんどの方は、スライスに悩まされるものです。私でも、最初から上手だったわけではありません。それじゃ、隣のトレーニングルームに移りましょう。さあ、どうぞ」松山は、すっと立ち上がるとリビングの東側にある部屋に向かって歩き始めた。二人は、松山の後に続いて歩き始めた。

 

 隣の部屋には、ウェイトトレーニング器具、ランニングマシン、大型モニター、バーチャルスクリーン、グリーンのネット、などのゴルフに必要とみられるトレーニング器具がそろえられていた。「それじゃ、伊達さん、こちらに立って、まず、アドレスをやってみてください」伊達は、ピンのドライバーを手渡されると、小さなグリーンのマットの前に立ち、いつものアドレスをとった。松山は、いろいろと問題点を発見したが、大きな問題点から矯正することにした。

 

 「一度にいくつも矯正されると、誰しも、スイングができなくなってしまうんです。今日は、特に大切なポイントをお教えします。まず、スタンスですが、伊達さんのスタンスは大きすぎます。しかも、かなりオープンになっています。肩幅より小さいぐらいがいいのです。それと、左手のグリップは、もう少しかぶせてください」伊達は、言われたようにスタンスを狭めて、スクエアにした。左手親指の根元をかぶせるようにグリップを少し右に回した。

 

 松山は、次にスイングをさせた。「それでは、軽く素振りをしてみてください」伊達は、硬い体を回転させてブ~~ンと一振りした。テークバックで肩が十分に回っておらず、ダウンスイングで右肩を前に突き出していた。「ほとんどの場合、スライスするのは、右肩を前に突き出すからなのです。右肩は、前に出すのではなく、あごの下にグイっと押し込んでください。肩は、水平に回すのではなく、縦に回転させるイメージです。最初から、うまくいきませんが、何度も練習すれば、スライスは、かなり小さくなります」

 

 松山は、沢富に顔を向けるとホンマのドライバーを手渡し、声をかけた。「沢富さんもアドレスをとってみてください」スタンスには問題なかったが、ハンドダウンとフックグリップに問題があった。「沢富さんは、もう少し頭を上げてください、そして、左グリップがかぶせすぎですから、左手を少し左に回してください。それでは、軽く素振りしてください」沢富は、左脚を上げて右にスエーして、左腰を引きながらダウンスイングした。

 

 「テークバックの時、腰が右に動いています。左脚を上げずに肩だけを回すようにしてください。フィニッシュでは、右足に体重を乗せるのではなく、左脚に乗せてください。では、お二人のスイングをモニターで見てみましょう」壁に据えられた大型モニターに目をやると伊達のスイング姿が映し出された。「伊達さん、自分のスイングを見られてどうですか?」伊達は、目も当てられないへんてこりんなスイングを見て、唖然としてしまった。「いや、これはひどい。恥ずかしくて、見ていられませんな」

 

 つぎに沢富のスイング姿が映し出された。「沢富さんのスイングです。いかがですか?」沢富も自分のスイングを見て腰を抜かしそうになった。「何ですか、このへっぴり腰、石川プロと全然違うじゃないですか。石川プロをまねてるつもりなですがね~。練習すれば、石川プロみたいに、なれますかね~~」松山は、大声でワハハ~~と笑ってしまった。「プロみたいには、そう簡単になれませんよ。シングルの私でも、石川プロとは、程遠いんです。とにかく、根気よく練習してみてください。時々、私がチェックしてあげますから」

 

 伊達は、あまりにも醜いスイングを見せられ、クラブを見ると恨めしくなった。ゴルフなんかくそくらえと内心思ったが、とにかく、レッスンをしてもらったお礼を言って帰ることにした。「松山さんにレッスンしていただいて、練習意欲がわいてきました。しっかり、練習して、100を切れるように頑張ります。ぜひ、また、レッスンお願いします」伊達は、心にもないことを言って、沢富に振り向き目配せした。

 

 「いや、まったく、こんなド素人の我々にレッスンしていただき、ありがとうございました。必ず、100を切って見せます。そうだ、もし、100が切れたら、ラウンドレッスンしていただけますか?」ニコッと笑顔を作った松山は、うなずいて返事した。「はい、ご一緒いたしましょう。向上心の強いお二人だったら、きっと100は切れます。頑張ってください」松山は二人を駐車場まで見送った。

 

サーファーヒカル
作家:春日信彦
エロゴルフ(2)
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